第23話
一方、後方で敵軍に囲まれてしまった千代は迎え撃ちながらも全力で船の本陣を目指していた・・・
自分がここで敵に囲まれていては自軍の損害が大きくなるだけだと知っている千代は必死で包囲網を解き逃げようと悪戦苦闘していた!
敵の狙いは自分であると確信するに十分なほどの猛烈な攻撃であったのだ。
張飛と黄忠が敵を切り捨てながら開く道を身辺を警護するクラリスと共に精鋭の軍勢に守られながら進む。
「千代! その鎧を脱いで私に頂戴」
クラリスは自分の鎧を手早く脱ぎながら言った!
「クラリス、何を言ってるの!? あなたが私の身代わりになると言うの!?」
千代は彼女が脱ごうとしている手を掴み、必死でやめさせると悲しそうな目で言った。
「千代が死んでしまったら私たちの夢は終わる!」
「希望は消えて無くなるのよ!?」
「ここで必死に戦ってくれてる皆の命が無駄になってしまうの!・・・早くその鎧を脱いで私に渡して!」
「誰かが囮にならなければ精鋭揃いでもこのままじゃ全滅してしまう・・・迷ってる時間は無いの」
クラリスは千代の手を振り解き自分の鎧を脱ぐと千代に押し付けながら怒るような厳しい表情で言った。
「クラリス・・・お願い・・・やめて頂戴!」
ここで暮らして行けたのも独りで寂しさに耐えなくて良かったのも彼女がいつもそばに居てくれたからなのだ!
多くの命を無駄に死なせない為とはいえ、何で彼女を囮にして自分だけが逃げることが出来る!?
千代はポロポロと幼子のように涙を零しながら彼女の鎧を受け取るまいと少しづつ後ろに下がった。
すると背後から誰かに抱きとめられ着ていた鎧を無言で脱がされ始めた!?
「張飛!? 何をしてるの? ここでこの鎧を脱いだらクラリスを殺させることになるかも知れないのよ!」
千代は必死で抵抗しようとするが数人の猛者たちに囲まれ自由が効かない為に身に着けた鎧は次々と剥ぎ取られて行く。
「千代殿、気持ちはこの俺にもわかるが我ら全軍の命よりも貴女の命は重いのだ!」
千代殿が生きている限り、我らは最後の1人になるまで命を懸けて戦える!・・・それをしっかりと見ていてやるのが大将の務めなんだ」
張飛の言葉に振り向いて彼を見ると目に涙をいっぱいに溜めた顔があった。
周囲の武将も千代を押さえながら全員が泣いている
クラリスは千代だけでなく、皆に慕われる存在でこれは彼らにとって究極の選択なのだ!
千代は静かに周囲の男たちを制すると自分で残った鎧を脱ぎ始めた・・・
辛い決断ならば皆を率いる自分がやるべきだ!
仲間たちの苦しみを知った千代は決断した。
「これは私の代わりになって囮となり死ぬことがあなたの任務じゃないの!」
「何があっても必ず生きて私のもとに帰って来ることを約束して!?」
脱いだ鎧とマントをクラリスに渡しながら千代は彼女にそう言うと強く抱き締めた!
「大丈夫だ! 俺が必ず守り抜いて無事に連れ帰るよ」
張飛が豪快に笑いながら胸を叩いて言うと
「何を言ってるの? 張飛が命に代えて守るのは私じゃなくて千代なのよ!」
「バカみたいに寝ぼけたこと言ってないで早く千代を連れて逃げなさい」
クラリスは千代の鎧を身に着けながら、いつもの口調で張飛に言った。
「囮とは言っても我が軍の大将じゃ! 役には立たぬかも知れんがこの黄忠が一緒について行こう、年寄りは頑固者じゃからついて来るなと言っても聴く耳は持たんぞ」
黄忠は千代に一礼するとクラリスの鎧を固く締めてやりながら有無を言わせぬ顔でそう言った!
クラリスは半ば呆れた顔で黄忠を見たが何も言わず微かに笑っただけである。
「わかりました、黄忠はクラリスと一緒に行って!」
「2人とも無事に帰って来て・・・」
恐らく黄忠は死ぬつもりであろう!?
千代はそんな黄忠の顔を見ながら願いを込めて言った!
2人を信じるのだ・・・そう自分に言い聞かせる為に。
囮部隊を選び、千代とクラリスはお互いの顔をみつめながら無言で別れの挨拶をした。
一旦、駆け出そうとしたクラリスは振り返り、戻って来ると千代の隣りに居た張飛に
「張飛はバカで鈍感だから言わないで置こうと思ってたんだけど・・・私は小さい頃から、ずっと張飛のことが大好きだったの!」
「もしも生きて帰れることが有るなら張飛の気持ちを聞かせて頂戴!?」
「じゃあね・・・」
照れ臭そうに微笑むと右手を軽く挙げ駆け出した。
「相変わらず生意気な娘(ガキ)だ」
張飛は呟くように言ったが天にも届きそうな大声で
「その生意気な顔をもう一度、俺に見せることが出来たなら次からは一生この俺が守ってやる!」
そう叫ぶと千代を誘導しながら逆方向に駆け出す。
張飛の大声が届いたクラリスは嬉し涙を浮かべながら
「お前たちの相手はこの私だ!」
攻め寄せる敵軍に向かい大声で言い放った。
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