第22話

食料や兵器、武具など運びながらの移動で千代たちの軍は長蛇の列を成していた・・・

身軽な部隊で迅速に移動した方が良いのだが張角が城に戻り、それらを手にして攻撃を仕掛けられるのが不安で多くの武将は持ち出すことを進言し千代もそれに応える形となったのだが孔明は一抹の不安を抱いていた。


この状態で攻撃を受けたら多大な損害を被るどころか千代の命さえ危ないのではないだろうか!?

念の為に輸送部隊を先にやり主力部隊は後方で援護するように進んでいるのだが、もしもワザと城を留守にしてこの状況になるのを敵が待っていたのだとしたら?


戦力的に大きく上回る張角がこれほどの損害を出してまでそんな作戦を立てるわけがない!

孔明は頭の中で自分の不安を打ち消しながら輸送部隊を率いて船を目指していた。


船に辿り着きさえすれば敵軍がどんなに強力であろうと水に浮かぶ要塞であり、攻撃力も凄まじい大砲などの武器を数多く装備しているので互角以上の戦いは出来るのだが・・・千代は最後尾である!

自らを盾として戦う覚悟を見せる彼女を守る武将は大勢いるのだから杞憂であって欲しいと願った。


船に乗り込んだ孔明は運搬物を運び入れる手配をすると船上から心配そうな顔で列の最後尾を眺める

そんな孔明を見た弓月は彼に尋ねた。


「何をそんなに心配顔をしながら眺めてるんですか?」

弓月の問い掛けに驚いたように振り向いた孔明は自分の考えてる不安を弓月に話した

「確かにその可能性は有りますね!? そう言えば昔、あの人がそんな策略を使ったような気がします・・・」

顎に手を当て何やら思い出すように話す弓月に孔明は

「あの人とは?」

そう訊いた後に彼女の慌てたような表情を見て即座に話題を変える為に遠くを指差しながら

「我らに知られぬように近づくとすればあの窪地を進んで来るのでしょうが・・・!?」

孔明は会話の途中で絶句し凍りついた!

彼が指差す方向から巨人を先頭に敵軍が続々と姿を現し始めたのだ。


見張りの者たちが笛を吹きながら警報を発し逃げようとするが巨人に追いつかれ捕えられると体を2つに引き千切られて放り捨てられる!

自軍は敵襲に気づき訓練通りの戦闘隊形を素早く組むと敵軍を迎え撃つ。


千代たち最後尾の軍勢も彼らの応援に向かう為、一斉に駆けつけようと移動を始めるがその間に割って入るように敵軍が密集して襲い掛かった・・・

「奴らの狙いは千代殿なのか!?」

孔明はそう言って歯噛みすると急ぎ身支度を始めた。


「孔明さん、何をしてるんですか? まさか千代さんを助けに行こうとしてるんじゃないでしょうね!?」

弓月は慌てる孔明に問い掛けたが彼はその声も聴こえていないかのように剣を腰に差し、槍を手に取ると船から下りようと歩き出す。


弓月はそんな孔明の肩を掴み引き留めると

「たった1人の武力など大して役には立ちません! ましてや貴方は名だたる将軍たちのように極めて強いわけでも無いのに駆けつけたとて、千代さんを救うことなど出来ないばかりでなく殺されかねませんよ」

女性とは思えないほどの強い力で孔明の両肩を揺すりながら叱りつけるように言った。


弓月に言われ呆然と立ち尽くす孔明に彼女は

「貴方はここで戦況を見据えながら軍勢を動かしてこの差し迫った危機を変えるのです!」

彼女の叱咤激励に我を取り戻した孔明は伝令を送り船の大砲を敵軍の密集地帯に照準を合わせ砲撃するように伝え、自軍には船の方に早く退却するように命令した。


巨人を相手に普通の武器では犠牲を増やすだけである!

本陣に近づけて強力な大砲などを使い一気に攻撃した方が敵を殲滅し易いのだ。


ただ後方に取り残される形で敵の攻撃を受けている千代たちを助ける為の軍勢を送れない自分の判断に悔しさと切なさが入り混じる!

千代に同行している張飛や黄忠、クラリスに何とかここまで彼女を連れて逃げてくれるのを願うしかない。


すでに乱戦状態になっているが敵の大軍を相手に押し返す勢いで戦い、船からは凄まじい音を発しながら次々と大砲が発射され敵軍の中央で爆発を繰り返していた!

それでも後から後から敵軍は現れて来る・・・

最初からこれを狙い準備万端、整った形で我が軍に攻撃を仕掛けて来ているのだ。


孔明は自分の胸ぐらを右手で掴みながら唇を噛みしめて耐えていた・・・

この命が無くなるとわかっていても助けに行きたい!

自分の力の無さを呪うかのような思いで彼女が居ると思われる場所をみつめ続けていた。


弓月はそんな彼の横顔を見ながら

「一体、何をやってるんだアイツは・・・」

誰のことを言ったのかはわからないがイライラを募らせた表情でポツリと呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る