第20話

「また呂布が人間狩りを始めたらしい!?」

そんな噂がこの城にも届き、人々の呂布と張角に対する怒りも日増しに高まって来ていた!


関羽たちがこの城に来てから2年・・・

軍の陣容と装備を確立した10万を超える軍勢は川沿いに繋ぎ止めた多数の軍船の前に整然と並んでいた。


千代は張飛、黄忠、趙雲、馬超、関羽の背後に隊列を組み、居並ぶ軍勢の前をクラリスと孔明、弓月を従え進むと設けられた壇上へと立った!

クラリスと弓月は左側に、孔明は右側に下で彼女の姿を見上げながら両脇へと別れて立つ。


誰一人として声も出さずに息を殺したように黙り込んだまま、壇上に立った千代の姿をみつめる・・・

「これから我らは戦いに赴きます!」

「誰も無駄に殺されなくて済む世の中にする為に・・・!」

「誰も無駄な涙を流さなくてもいい世の中にする為に・・・!」

」皆が笑顔で平和に暮らせる世の中にする為に・・・!」

彼女が抱く胸の底から絞り出すような声に軍勢は言葉の合い間に「オォー!」という掛け声で呼応する。


「全員、船に乗り込み出陣せよ!」

千代の命令を待ち兼ねたかのように全軍が動き出し整然と船に乗り込み始めた。


城に居残る年老いた者、少年である者、女性である者が別れに落ちる涙を堪えつつ障壁の上から手を振りながら見送っている・・・

出陣する全ての者が生きてここに戻れるわけでは無い!

その1人、1人が惜しむべき命であり失ってはならないたった一つしかない命なのだ。


守りとしては不十分な数と戦闘能力しか無いが孔明が作らせた大砲と連弩が城壁に備え付けられているし訓練は十分に繰り返し行って来た!

もし攻められたら知らせがすぐに届くように準備してあるし逃げる為の船も用意してある。


以前、味わった悲惨な敗戦を踏まえて千代は考えられる限りの対策を立てて来たのだが精鋭を全員、引き連れての出陣には不安もあった!

敵は自軍の10倍以上である・・・

全軍をもってしても勝てるかどうかはわからない!?

しかし今度ばかりは絶対に敗ける訳には行かないのだ。


千代が身に着けた真紅の甲冑は絶体絶命のピンチに駆けつけてくれた趙雲の軍勢を忘れない彼女がこの世界を救う願いを込めて着ている甲冑である!

真紅を大将の旗印にすることを申し出た千代に趙雲は喜んで譲ってくれた・・・

この世界を悪逆非道な支配者の手から解き放つ為に彼女は稲妻となり、突き進む覚悟であった。


船は兵が乗り込み終えた順に岸を離れ船縁から突き出したオールを漕いで進んで行く・・・

大小合わせて1000隻を超える大船団である!

川を埋め尽くすように目的地である張角の城の西側にある入り江を目指した。


城主である張角は呂布の城へと赴き留守にしているとの報告があったのは昨日のことである!

このような大軍が川を下り2日余りのうち、一気に押し寄せて来るとは想像もしていないであろう?

敵の城を攻め落とし、その城を拠点に呂布の城に水陸同時に攻めかかる作戦であった

呂布の居城は川沿いに作られているそうだ!

人を殺して楽しむ合い間に魚釣りでもしながら楽しもうというのだろうか?

この世界の川には巨大なマグロなど、高級魚が至る所に泳いでいるのだから千代がそんな想像をしてもおかしくは無かったのかも知れない。


孔明が計算した通り、夜明け前に各船とも入り江に到着し続々と下船し馬や大砲など戦闘に必要なものを船から運び出すと二手に分かれ黄忠、趙雲、関羽の軍勢は秘密の通路を抜け城内を攪乱しながら城門を開く役割・・・

千代の隣りで常に寄り添うクラリスと張飛、馬超ら主力部隊は正門前で陽動するべくズラリと勢揃いして攻めかかる準備を終え合図を待つ。


敵はまだ油断しており気づいていないとの報告を受けた千代は孔明を見て頷き、上げた右手をサッと振り下ろす!

クラリスと弓月の部隊が受け持つ大砲の音が夜が白み始めた静寂を轟音と共に引き裂いた。


大砲は空砲であり、この城を無傷のまま占拠したい自軍は鬨の声を上げながら銅鑼を叩き、城門が中から開くのを距離を保って待つ!

初めて聴く大砲の音と鬨の声に城内は大混乱を極め、どこからともなく乱入した関羽らの軍勢により何が起こったのかも把握出来ないまま倒されてゆく・・・

やがて正門に辿り着いた黄忠の部隊は敵を倒しながら城門を引き開けた。


「全軍、一気に突入せよ!」

千代の掛け声に張飛、馬超は我先にと城内になだれ込んで行った・・・熾烈な戦いの始まりである。

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