第17話
その男は無言のまま剣を抜くと静かに構えた。
剣と言ってもかなり重そうで上等な代物では無いように思えるがその大きさから見て、喰らったら間違いなく命は無いだろう!?
黄忠は自らも剣を構え、男と正面から向き合ったが不敵に笑った顔はナゼか嬉しそうに見えた
彼が持つ剣は孔明が上流から送って来た鉱物により作られた軽く切れ味鋭い細身の剣であるが非常に硬く岩をも砕くと言っても過言ではない代物である。
2人は次第に距離を詰めながら自分の有利な位置からの攻撃を仕掛ける為に左右にじわじわと移動する・・・
最初に仕掛けたのは大柄な男の方だった
頭上に素早く振り上げた姿勢から斜めに切り掛かる!
その長い腕を存分に生かした攻撃はリーチも有り黄忠が受け止めようとする剣をはじいて身体をかすめる。
剣を持つ手が痺れるような一撃だが黄忠は切っ先を避けた瞬間に真横に剣を薙ぎ払った!
剣は空気を切り裂くような鋭い音を残しながら男の長く伸びた髭の一部を切り落とす。
そのまま体を回転させながら今度は縦に振り下ろすが男はその一撃を顔の前で受け止めニヤリと笑い押し返す!
物凄い力で押し返された黄忠は距離を置くことが危険だと判断したのか引かずに自分も押し返した。
2人の顔は剣を交錯させたまま間近で睨み合う・・・
「お主、名は何と申す?」
黄忠は男に対し問い掛けた
「話し掛けるほどの余裕が有るとも思えないが強者には違いないようだ・・・私の名は関羽(カンウ)!」
じわじわと剣を押す力を緩めながら
「貴方はやはり黄忠殿に違いないようだ」
男はそう言うと物凄い力で黄忠を弾き飛ばした。
2メートルほど飛ばされた黄忠は身軽に着地すると剣を構えることなく腰の鞘に納めると
「儂の名を知っておるのか?」
その距離を保ったまま関羽と名乗った男に尋ねた。
「この城から自らの命を懸け、多くの者を助けながら脱出した伝説の勇者でありましょう!?」
「その頃、幼かった私は貴方の戦う姿に憧れ武芸を磨いて参りました」
関羽も剣を鞘に戻しながら言うと
「何故、ここにまた戻って来られたのです? 何者かが反撃の旗を掲げこの世界を牛耳る呂布に挑む者が現れたと城内のあちこちで噂になっておりますが、やはり貴方が
その旗頭なのでは・・・!?」
関羽は剣を足下に置き戦う意思が無いことを示すとゆっくりと黄忠に歩み寄りながら言った。
「儂はさる御方の理想と信念に命を捧げ、その切っ先となり働かせてもらっているだけなのだ!」
「今回は敵の様子を探る為に城内へと潜入して来たのだ」
黄忠は歩み寄った関羽にそう答えた。
「貴方が命を捧げるような御方がおられるなら私も今度こそは力を尽くし、ともに戦わせてくれませんか!?」
関羽はそう言うと頭を下げ頼み込んだ!
「そなたほどの猛者が加わってくれれば我が主、千代殿も喜んで迎えてくれよう!」
「今回は情報収集で潜入した身で有り、皆を助けることは出来ぬが儂と一緒にこの城を出て決戦に参加してはくれぬか?」
黄忠は真剣な眼差しで関羽に言った。
「それは有り難い!」
「この城の我らが仲間はそのほとんどが若き女性は本拠に連れて行かれ男は処刑されたりで残る者は極僅かです」
「私も貴方と一緒に参ります」
黄忠と関羽は今後のことについてしばらく念入りに話し合った後、城内で敵方の振りをしながら密かに機会を伺い身を隠している仲間のもとへ向かった!
よほど惨い仕打ちを受けたのだろう・・・?
彼らの復讐心は強く、団結力は非常に固かった。
何のことは無い、彼らは城内と外を結ぶ通路をすでに作っていたのだった!
千代の話を噂で耳にし軍勢が通れるように作ったらしいのだが、注意深く見ても全くそれとはわからない・・・
その通路は城壁を貫通させたもので出入り口は簡単に取り外せる薄い石で覆い隠してある。
2人は丁寧に城壁を隠す石を元に戻すと数名の仲間と一緒に城壁の外へと出て外側の石も綺麗に組み合わせ
「砦とは名ばかりで恥ずかしい限りではありますが我々の拠点はこの先に有ります」
関羽が指差す方向へ小走りで向かった。
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