第16話
思い込みとは不思議なもので男は黄忠を同じ世界から来た者だと勘違いしたまま色んな話を聴かせてくれた。
そんな男の話に合わせて聴き出せたのは千代からこれまで何度か聞いたことのある世界と似ていたからでもあったのだが張角というこの城の主はどうやら魔法使いであり彼らが予想していた通り、巨人は魔法と薬物で奴らが捕えている奴隷を巨大化させたモノらしい!?
詳しいことはその男も知らなかったのだが罪も無き同じ仲間が醜い巨人へと姿を変えられ我が身が何なのかもわからなくなったまま我らと戦っている・・・
そんな事実に黄忠は堪え切れぬほどの怒りを覚えたが今は情報を集めることが任務であってこの男、1人を切り殺したところで捕えられた仲間を助けることは出来ないのだと拳を握り締め耐えた。
この城の向こう側に奴ら全ての上に君臨し自らを呂布(リョフ)と名乗る男がこの城とは比べ物にならないぐらいの城に本拠を構えているらしい?
張角は時々、その城に行っているらしいのだが定期的に行ってる訳ではなく、気が向いた時に行くそうだ。
男の話だと張角は恐ろしく頭の切れる男らしいので攻めるなら奴が城を空けた時に攻めた方がいい!
しかし黄忠がもっとも衝撃を受けたのは自分たちがその呂布や張角と名乗る男たちが退屈せずに暮らす為、殺す為だけに魔法で作られたということだった。
我らが反乱を起こし立ち向かっていることを奴らはただ楽しんでいるだけなのだ!
いつでも駆逐出来るが退屈になるのが嫌な為に全滅させずにじわじわと弄っているだけ・・・
呂布という男は退屈しのぎで我らを作り出し、仲間を殺して楽しんでいる。
そんな男に反乱分子として作られ、その役目通りに戦い殺し合っているとは・・・
千代のように統率力で軍を率いる者が恐怖で支配する者よりも強きことを見せてやる!
男は本拠地から直接、この城に送られて来たらしく呂布が居る城のことはその巨大さだけしか知らなかった。
ただ、その城に奴らがもともと暮らす世界とこの世界を結ぶ扉が有るらしい!?
その世界がもし、千代が居た世界と同じなら彼女を元の世界に帰してやることが出来るかも知れない。
それは黄忠だけでなく仲間全員が寂しいことではあるが千代の意思に委ねるしかないことだった。
酒場で多くの話を訊き出した頃には男は完全に酔っており黄忠の助けが無ければ椅子から自分1人では立てないほどであった
黄忠は男の腕に手を掛け引き揚げるように立たせると席を離れ出口へと向かう。
先程から2人の話を少し離れた席で注意深く見守っていた男も遅れて席を立った・・・
立ち上がると背の高い屈強な体つきは張飛や馬超と比べても差は無いというより大きいかも知れない!?
黄忠は男から話を訊き出すことに夢中で不覚にも、その大男の存在に気づいてなかったのだ!
男が渡した袋から金を取り出すと黄忠は支払いを済ませ、酔った男を支えながら表に出ると尚も人通りが絶えない大通りから薄暗い路地の方へ向かう。
誰も酔っぱらった素振りで男を連れながら歩く2人を怪しむ者もなく角を曲がり、路地に入った黄忠は奥へ奥へと進んで行く・・・
頃合いを見計らった黄忠は男の手を肩から外すと前方に激しく突き飛ばす!
突然のことに理由もわからず喚き散らす男の前に立った黄忠は腰から剣を抜いた。
「残念だがお前を生かして置く訳にはいかん・・・」
押し殺したような声でそう言った黄忠は命乞いをしてるのか、文句を言ってるのかわからない男の首を刎ねた!
血飛沫が激しく飛び散るのを避け、下がった彼はそこで初めて背後から感じた圧倒する気配に気づいたのだ。
黄忠は剣を持ったまま、ゆっくりと振り返る・・・
この男はとてつもなく強い!
そう感じたがその男に殺気は全く感じられなかった。
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