第15話

黄忠と趙雲は出来上がったばかりの船に100名ほどの少人数で乗り込むと川を密かに渡り対岸へと上陸し前線基地と言うには粗末な砦を築き偵察と人材を求めて奔走していた。


千代たちが暮らしていた城はそのほとんどが瓦礫となり、誰の物かもわからぬ白骨が至るところに散乱し当時の戦いの凄まじさを物語っている。


敵軍は壊れた城などに興味は無かったらしく、あれからすぐに引き揚げたらしい・・・

黄忠は守り切れなかったことを悔やんでいたがあの状況では誰が守っていたとて同じ結果である!

趙雲は同じ武将として彼の悔やむ気持ちが痛いほどわかり辛かったが、そのことには触れず任務を遂行することで気が紛れるように気を配っていた。


趙雲のこういうところを見込んで千代は人選を行い命令を下したのかも知れない!?

逃げ遅れて付近に隠れ住んでいた者たちを本拠地まで送り届けながら張角の城へと闇に紛れて近付き偵察を行うという命懸けの任務である。


そんな毎日を送っていた、ある夜のことである

周囲を探るだけでは情報も掴めないと思った黄忠と趙雲の2人は城の中に潜入することを考えていた!

練兵の為なのかはわからないが時々、城門が開き一団が外に出て巡回することがあるのだ。


その一団に紛れて城の中に入ってしまおうという作戦であるがどちらかはここに残らねばならない!

あまりにも危険な作戦だし単独潜入に限られることからどちらも相手を危険な場所に行かせまいと自分が行くことを強く主張し後に引かないのだ。


敵は西洋風の兜を被っており統一された軍装であった!

全く同じ軍装を身に着ければ1人ぐらい紛れ込んだとてわからないだろうが城の中に入っても出て来られるかどうかはわからない!?


黄忠は以前、この城で奴隷として住んでいたことが有り内部の事情には詳しいのだがそれはまだ黄忠が若かりし頃の話である!

それから数十年、経過した現在では内部がどんな変わり方をしてるのかも予測出来なかった。


結局は頑固で死ぬまで後には引かないであろう黄忠に根負けした形で趙雲はその任務を彼に譲った

そんな夜のこと城門がゆっくりと開き1000名ほどの軍勢が出て来た!

騎馬武者は少数でほとんどが徒歩である。


黄忠は身を潜めながら一団の後を追い、上手く隊列の中に紛れ込んだようだった!?

もしもの時に備えて見守っていた趙雲の一団は軍勢が巡回を終え城門の中に入り門が閉まるのを見届けると自分たちの砦へと帰途についた。


歩いてる間もひと言の命令も言葉も無く、黙々と歩き続ける軍勢と一緒に城の中へと入った黄忠は群列を抜け出すタイミングも無いまま城の奥へ奥へと進んだ。


以前にも見た記憶がある宮殿みたいな建物に続く門を入る寸前でやっと列を抜け出した黄忠はすばやく軍装を解き民衆の中に紛れ込む!

深夜に近い時間だというのにまだ人通りも多く怪しまれずに済むのは幸いである。


「こんな時間まで歩き続けて一体、何をしてるんだ?」

誰に話し掛ける風でもなく、独り言みたいに呟いてみた黄忠だったが意外と簡単に隣に居た男から返って来る

「やつらは作られたばかりで基本の忠誠心から叩き込まれているんだろうよ」

その男の返答に黄忠は驚いた!


「作られたってことは人間じゃないのか!?」

疑問を素直に男に対しぶつけてみると

「この世界のほとんどの人間は我らの絶対的な存在で有る皇帝が作られた者であちこちで反逆してる奴らも呂布殿が殺して遊ぶ為に作られた駒に過ぎん!」

「どうやらお前も俺と同じで向こう側の世界から来たみたいだが何一つ知らされないまま連れて来られたのか?」

そう言った男の言葉に頷きながら黄忠は次第に意味がわからなくなって来ていた。


「そうなんだ! 何も聞かされないまま連れて来られたんでどうしたものかと戸惑ってるんだ」

曖昧な笑顔でそう答えた黄忠は

「良かったら俺にも少し教えてくれないだろうか? この世界でどうやって生きて行けばいいのかを・・・」

親しげに話し掛けた黄忠に男は

「よーし! じゃあ酒でも飲みながら詳しく教えてやるから一緒に来るか?」

自尊心をくすぐられて気分がいいのか、黄忠の肩に手を掛けると男は上機嫌で歩き出した。

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