第14話

数年間の期間を経て、孔明とクラリスは馬超たちを含む山の民と一緒に新たに建設中の城塞へと帰還して来た。


大歓声の中、城門で出迎えた千代が見たのは驚くべき数の大軍勢であった!

帰還の挨拶を終えた孔明に促されて城郭へと登った千代は遠くからズラリと連なった人数に感嘆の声を上げながら孔明の手を強く握ると

「これだけの軍勢を一体、どうやって集めたの!?」

興奮しながら尋ねた。


「山の民と言っても互いに争っている部族も有り馬超殿の軍勢をお借りして戦った後に仲間として戦ってくれるよう誠意を尽くして頼んだのです」

握られた手を恥ずかしそうに見ながらそう言うと

「やはり多くの人々は張角たちの残虐な圧政を怖れて山の奥深くに逃れながらも食料不足に成りがちな険しい地域で争いを繰り返していたんですが我々の軍勢の圧倒的

な強さに一緒に戦えば勝てると信じてくれました」

恐らく慣れない山間部での戦いに苦労したのであろう?

孔明は以前よりも随分、痩せてるように見えた。


「ありがとう! あなたのお蔭で武器の改良も進み、防具も前とは比べ物にならないくらい充実したわ」

あまりの興奮に強く握っていた手を思い出したように放すと頬を染めながら千代は言った。


孔明の指示通りに城壁を大きく広げ、作ることにどんな意味が有るのかわからなかったのだが、この人数ではこの大きな城も人々で埋め尽くされるであろう!

これで戦うには十分な数の軍勢が集まったことになる。


趙雲と黄忠も軍勢を引き連れ偵察と仲間を集めに遠征しているのでその成果次第ではもっと増えることになるかも知れない!?

決戦の準備は着々と進みつつあった。


川を往来する船の建設も順調に進んでおり、この船の建造に於いてはある日、ひょっこりと現れた女性が多くの知識を与えてくれた為に軍艦と言うに相応しいほど強固で機動性に優れた船が出来るようになっていた。


彼女の名前は弓月(ユズキ)という緑の目をした西洋人なのだがこの世界の住人とは違うような印象があったので千代はそのことについて訊いてみた・・・

彼女は笑いながらこの世界で生まれ、この世界で育ったことを強調したが船の建造に関する知識をどこで習ったのかは曖昧な微笑みで語らなかった。


いずれにしても何かを企んでいる気配も無いし働き者で力も強く、豪傑という言葉がピッタリの凄まじく強い綺麗な女性で優しかった!

クラリスと離れ離れで気の合う同性が居なかった千代は彼女に何かと相談することも多く頼りになっている。


軍勢を全て城壁に収容し居住地と食料の割り当てを済ませた千代たちは主な者を集めて今後の方針や戦法、武器の製造などについて詳しく話し合った。


孔明や馬超たちと行動を同じく、ともに戦って来たクラリスは身長も伸びて千代とさほど変わりない!

この世界にもともと暮らす人間は歳月の流れとともに成長して行くので女らしく美しさも際立っていた。


相変わらず千代と張飛には馴れ馴れしく接して来るのだが張飛などは成長した彼女が抱き着いてじゃれるたびにちょっと照れ臭い表情を浮かべる

千代はそんな光景を見ながら変わらないクラリスに感謝の気持ちでいっぱいになった。


当分は軍備の増強と食料の生産に力を入れながら戦いの訓練をして行くことに決まった!

向こう岸から城を捨て、命懸けで逃げて来た頃とは見違えるほど強固な絆と軍勢で埋め尽くされた城内を見ながら千代は今後の決意を固めるように唇を噛む。


これだけの人命を掛けて戦うのだ!

きっと彼女の胸の中は重い責任感でいっぱいだろう!?

そんな彼女を孔明はその気持ちを理解した眼差しで千代の横顔を黙ってみつめていた。

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