第10話
満身創痍・・・!
戦った者も避難した者も傷だらけであった。
命を失くした者も数多く、敵の追撃を防ぐ為に落とした橋も無い今は亡骸を回収し手厚く葬ってやることも出来なくなってしまった。
千代はこれで本当に良かったのかと自問自答を繰り返し苦しんでいた為に表情も暗かった
クラリスはそんな千代のそばにいつも居て心配していたのだが戦うと決意を固めてからの千代はこの世界に迷い込んだ時とは違い強くなっていた!
重き責任と悲しき試練を乗り越え更に強く逞しく成長し再興への足掛かりを作るべく動き出した。
河川の幅は約100メートル
とても綺麗な水が流れていてクラリスの警護をした馬岱たちが暮らす山の民は飲料水としても重宝してるらしく、川底は見えているのだが測ってみると意外に深く流れも緩やかではない。
千代は丸太を繋ぎ板を貼り付けロープを張り、橋として利用したのだがこの世界の住人は泳ぐということが出来ないどころか発想さえも持っていなかった!
ロープをくわえ向こう岸に泳ぎ渡った千代を見た人々はまるで魔法でも使ったみたいに驚嘆した。
そんなことも有り、敵が川を渡って攻撃して来ることは無いと考えた千代は川岸の数か所に見張り場を設置すると民を川沿いに山岳地帯へと入り、なだらかな斜面の川岸を選び城塞を作り始めた。
「なぜ、こんな山の中に入り込んで城壁を作る必要が有るんですか? 同じ川岸に作るなら平地の方が簡単に作れるし石なんてその辺にゴロゴロ転がってるのを使えばいいじゃないですか!?」
額に汗を浮かばせ鍬を振るいながら張飛が素朴な疑問を近くで懸命に作業を続ける千代に訊いた。
「たくさんの木が欲しいの! それも敵に見えない場所で調達したいからここを選んだのよ」
千代はしばらく休息をとるように伝えると地面に腰を下ろし張飛と向き合うと
「見たことないからわからないかも知れないし私も見たことが有るだけで作り方も知らない・・・でも船と言う多くの人や物資を乗せて川を移動出来る物があるの!」
そう話しながらそばに落ちていた小枝を掴み、地面に絵を描きながら丁寧に詳しく説明した。
「なるほど! この船って物に乗って川を移動して先制攻撃を仕掛けるって訳かぁ?」「じゃあ千代殿が欲しがってるこの船ってもんを協力して作ろうじゃないか!」
張飛はそう言うと嬉しそうに笑った。
きっと大打撃を受けた先の戦いで千代の心が折れてしまわないかと密かに心配していたのだろう
この城壁を作ることが守る為だけでは無く、攻める為の物でもあることを知った彼は周囲に話し掛けられて優しそうな笑顔で話す千代を頼もしく感じ彼女を守り抜くと改めて心に誓った。
強固な外壁が完成し掘り下げた外堀に川の水を満々と張り巡らした頃、足がまだ完治していない黄忠を留守居役と決めた千代は馬岱の案内で山の民と会う為に張飛、趙雲と少数の精鋭を引き連れ山岳地帯へと出発した!
勿論、今回はクラリスも当然の如く同行している。
あの悲惨な逃亡戦から半年余りが経過し千代もクラリスもある程度の戦闘力は身に付け逞しく成長していた!
弓を肩に掛け真っ赤な衣に甲冑を付け趙雲が献上した白馬に乗った姿は紛れも無く、一軍の大将を漂わせる風格みたいなものが見て取れる。
決して平坦では無い道程を時には馬を引きながら馬岱を先頭に進んで行く・・・
一夜を野宿して更に歩きながら、そろそろ休憩を入れようかと思っていた時である!
少し窪みになっている湿地帯に人影らしきものが倒れているのが見えた。
近くまで馬を乗り入れ見てみると若い男性なのだが千代を驚かせたのはその男性が着ている服装だった!
濃紺のパーカーにジーパン姿で背中にはリュックを背負いうつ伏せに倒れ左側を向いたその目は閉じられて生きているのか?気を失っているだけなのか?
馬上からでは判別出来ないので趙雲が馬から下りて男性のもとへ駆け寄り安否を確かめ頷いた。
どうやら気を失っているだけらしい?
全員が下馬し周囲に集まると男性の顔を覗き込む・・・
「大丈夫ですか!?」
趙雲は抱き起した男性を軽く揺さぶりながら声を何度か掛けていたが、やがてその男性は目を開け周囲を取り囲むように並ぶ猛者たちを見て驚きの表情を見せる。
「ここは一体、どこなんでしょうか?」
20歳そこそこであろうと見受けられる男性が慌てる様子もなく発した最初の言葉がそれだった。
「心配することは有りません! あなたはもと居た世界からこの世界へ飛び込んで来たのです」
自分と同じ運命を辿って突然、この世界に迷い込んで来たに違いない男性の前にゆっくりとしゃがみ込んだ千代はそう語り掛けるとにっこり微笑んだ。
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