第7話
長距離の移動により人馬ともに疲れてはいるが戦闘をしなくてここまで来れたのは運が良かった!
千代は城内の民を安全な場所に移し、置いて来たクラリスを迎えに行くつもりであった。
ここでもし、自分が命を落としても彼女なら上手く生きていけるだろうしあの武将ならきっと彼女を守ってくれるに違いない!
目指す森林までもう少し・・・
そう思い始めた時に運悪く、付近をうろついていた敵の一団に発見されてしまった。
手に持った銅鑼を激しく叩き仲間に合図を送っている!
こうなっては森に入りゲリラ戦を挑みながら逃げるしか道は残されていない・・・
敵は続々と集結している
今更、囮を組織したとて攪乱出来るような数ではない!
千代たちは一目散に城壁へと馬を走らせた。
城壁伝いに馬を走らせ南門から森林の中に入って行くのだがそれには理由があった!
それ以外の場所から森に入ると多数の罠が仕掛けてあるのだ、また城の住民も同じ道を避難するように何度も訓練しているので見つけ易い。
南門まで来ると2体の巨人と数十名の敵と遭遇した千代は馬上で弓を構えると矢をつがえ引き絞った!
黄忠直伝の弓術で何度も何度も練習を重ねているのだが人に向けて放ったことなど1度も無い・・・
この矢が人の命を奪うものだと考えれば彼女の胸の中でやはり躊躇いがあった。
だが彼女は狙いを定めて弓を放つ!
矢は馬上に居た男の首に深く突き刺さり男は呻き声を上げながら落馬し、苦しみもがいていた。
彼女は一瞬、目を閉じて顔を背けたが再び矢をつがえるともう1度放つ・・・また命中した!
張飛は千代の前に馬を走らせると5メートルぐらいはあるかと思える巨人に突っ込んで行った。
一刀のもとに巨人の腕を切り落とし首を跳ね上げる!
切れ落ちた首からは大量の血飛沫が上がり、そこら中を真っ赤に染め上げて行く。
余りの強さに残りの敵兵は逃げ出そうとするが更に大きな巨人は張飛を目掛けて突進して来る!
武器を持ってる訳ではないのだが口もとから覗く長い牙のような歯が白い泡を含んで撒き散らしながら突進して来る姿は恐怖そのものであった。
森への入口で馬を降りた張飛は自慢の重い槍を片手に不敵な笑顔を浮かべながら巨人の正面で待ち受ける
千代たちは張飛の横を擦り抜け森の中へと突入し全員が下馬し、弓に矢をつがえ片膝を着き構えた。
次の瞬間、巨人の姿は消えた!?
消えたのではなく、そこに仕掛けて置いた落とし穴に落ちていったのだ!
穴底には先端を研ぎ澄ませた杭が何本も設置してあるのだから落ちた巨人も2度と上がっては来れまい
消えた巨人の背後に居た敵兵は千代たちが一斉に放った矢で次々と倒れ、残りは大声で喚きながら逃げた。
ここから先は乗馬して進めないので手綱を引きながら奥へと急ぎ歩いて行く。
森林の周囲からは絶叫のような声が次々と聴こえて来るのだがなぜ、城を破壊し手に入れても敵は追撃を止めないのだろう?
他に何か目的が有るのだろうか!?
それとも後顧の憂いを絶つ為の単なる皆殺しなのか?
あの調子では罠に掛かり死傷者は続出していることだろうに、そこまでして追って来る理由がわからない。
千代は隣りで歩く張飛に訊いてみた!
「それが戦ってもんですよ、全て無くなるまで喰らい尽くす! まだ千代殿には言ってなかったかも知れませんが張角って魔法使いはその主の手先でしかない・・・」
「あいつの他にまだ居るのか!? 誰なんだそいつは?」
張飛の言葉に驚いた千代は慌てて聞き返した。
「さあ?・・・俺にもそこまでしかわからないです」
張飛の返答はひどく曖昧なのだが情報ってのはこの世界に於いてとても重要なことかも知れない!?
敵の動静もわからぬようでは戦いに於いて著しく不利なことは確かだった。
これからはそれも視野に入れて置かねばいけない
武力が無ければ戦うことも出来ないだろうが知力が加わればもっと強くなれるし犠牲も少なくて済む!
この戦い方を見ても自分たちが戦ってる敵は話し合いで解決出来る相手では無さそうだ。
いずれこの罠も力ずくで突破して来るだろう?
とにかく今は急がねばならない!
そんなことを考えながら歩いていると前方に味方らしき数人が見えて来た!
どうやら負傷者が居るらしく行くか留まるかで揉めてる様子が伺える・・・
近づいて彼らを見た千代は思わず叫んで走り寄った!
「黄忠!? 怪我をしているのか?・・・大丈夫なのか?」
涙ぐんでしまう目を拭いながら彼女が問い掛けると黄忠は力なく笑った。
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