第6話

愛する者の為ならば

守るべき者がそこに居るのならば

この身が傷つき倒れようとも

何度でも

何度でも立ち上がり戦うだろう!

愛する者の笑顔を迎えに行く為に・・・

その高き城壁を越えて。


千代は駆けた!

100名足らずの軍勢・・・装備も充実していない

そんな自分たちがこれから急ぎ駆けつけたところで何も出来ないことは彼女にもわかっていた。


わかってはいるのだが見捨てることは出来ない!

砂煙が上がる方向を極力、避けて迂回しながら城を目指した・・・

陣形は千代を中心とした円陣である。


千代は違う世界からここに迷い込み家族は居ない!

だがここに駆ける軍勢の中には城に家族を残して来た者も多数、居るだろう。


それでもここにいる彼らの思いは千代を守ること!

彼女の周囲に幾重にも重なり我が身を盾とし守ろうとしながら駆けている

彼らは仲間!?・・・いや、家族なのだ!

自分を守ろうと命を賭ける者の家族を助けたい・・・それが彼女の胸の中に有る熱き思いであった。


城の南には大きな森林地帯が有り10キロ程、更に進むと大きな川が流れている

その川を渡るとどこまで続いてるのか誰も知らない巨大な山脈が連なっているのだ。


千代はそれらの地形を利用し避難するルートを確保して置いた・・・川まで辿り着ければ何とかなるだろう!

この世界の住人は船という物を知らなかった・・・水に物を浮かべるという発想が全く無かったのである。


木は枝を切り落とし使う物であり、切り倒して使う物では無いという考え方!

言葉を使い弓や槍などの武器を持っているにも関わらず自然を破壊するような知識はまるで持っていない。


ここに暮らすと自然との調和がいかに大切なのかを学ぶことが多い千代であった。


城が段々と近付いて来るにつれ城の様子も徐々に見えて来るのだがやはり老朽化しつつあった城壁は見事に崩れ去り城内のあちこちから火の手も上がり何体かの巨人の姿も見えている。


無理な抵抗は避け、なるだけ早期に避難経路を辿るように黄忠には伝えて置いたのだが彼の性格から察するに最後まで抵抗を重ねて城中の人々を先に逃がしたのだろう?

生きていてくれればいいのだが城の周囲に散らばっている死体を見れば祈るより他に無かった。


一同は敵に見つかりにくいよう、窪地を選び城の南側にある森林へと向かって移動して行く・・・

ここから見えるだけでも敵の数は相当なものだ!

ここで見つかってはたったこれだけの人数では広い荒野の中で戦っても生き残れる可能性は極めて低いだけでなく味方が避難をしている森林へと逃げ込む訳にも行かないのだから逃げ場所さえ無くなってしまうのだ。


馬の背に姿勢を低くしながら静々と進んで行く・・・


一方、こちらは趙雲に預けられ出先の城に残されたクラリスであるが城の中では荷物をまとめる作業で騒々しく人々が動き回っていた!


戦う準備とはとても思えない・・・逃げる準備なのか?

忙しく指示を繰り出す趙雲について廻りながら指示の合間を見計らい彼女は趙雲に素朴な疑問をぶつけた。


「ねぇ、趙雲殿・・・これは何の為の準備なの?」

怪訝な表情で尋ねるクラリスに趙雲は優しく微笑むと

「敵の軍勢が攻めて来る前に我らはこの城を捨て大急ぎで移動する為の準備だよ」

そう答えると彼女に少し待つように言って1頭の仔馬を連れて戻って来た。


「君は馬に乗れるよね?」

尋ねた趙雲はクラリスが頷くのを確かめると

「この仔馬は見ての通りまだ小さいが素晴らしく速く走れる将来、有望な馬なんだ」

仔馬の手綱をクラリスに引き渡しながら

「君はこの馬に乗り、この馬を千代さんに渡して欲しい」

そこまで言った趙雲の意図を察して彼女は大喜びしながら仔馬の背中を撫でた。


それから間もなくして準備を終えた軍勢は城の正門前にズラリと整列を終えた!

「これから我が軍は千代殿の軍と合流し参加すべく全軍を持って救出に向かう」

総勢合わせて3000人は下るまい!?

しかも若い者が数多く混じり統率もとれている。


張角の軍勢を相手にこの小城でこれまで対抗して来ただけの実力を持った強者たちだ!

彼らが大急ぎで準備していた物は家財道具などでは無く、武器と食料であった。


「では参るとしよう! 道案内を頼めるかな?」

趙雲の問い掛けに頷き了承したクラリスに1人の武将が横に並んで馬を寄せた

「馬岱(バタイ)と申す! そなたの護衛を承りました」

何やら寡黙な感じで会話が弾みそうでは無かったが律儀で信頼出来そうな男だった。


「彼は君たちの城の南に連なる山の民なのだが張角の城に貢物を届けに行った際、奴の部下に更なる貢物を強要されたが無理だと拒否するしかなかった・・・」

「奴らはそれを理由に彼らを襲撃した!」

「仲間と共に応戦しながらこの城にやっと辿り着いた1人なんだ」

趙雲は彼に代わりクラリスに対し簡単な説明を加えると右手を天高く掲げ号令を掛けた。


趙雲の掛け声とともに全軍が天を突く勢いで掛け声を上げると全速力で移動を開始した!

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