第4話

「ギリギリ・・・ギリッ!」

強く引き絞った弓は鋭い音を残し放たれた・・・

どこから狙われたのかもわからないまま草を食べていた鹿は急所を射抜かれて倒れる。


群生する木々の間を走り抜けながら倒れた鹿に近づいた男は腰にあった短刀を取り出すととどめを刺す!

70キロは超えるであろうかと思われる獲物の角を掴むと軽々と肩に乗せ悠々とした足取りで城壁の入口へと歩き上で見張りを続けていた門番に声を掛けた。


重々しい音を立て門が開かれると男は中に入り門はまた閉じられて行く。


途中に置いていたのか、両肩に獲物を担いだ男は荷台の上に2頭の鹿を放り投げた!

そして腰にロープで縛り下げていた5匹の野ウサギも続けて荷台に置く。


「相変わらずたくさんの獲物を仕留めてくれて助かるよ」

荷台の周りに集まった男たちは口々に賞賛の声を上げて男に労いの言葉を惜しみなく掛ける。


彼の目に映った獲物は必ず仕留める!

それが彼に掛けられた男たちの言葉であった。


丁度、そこへ千代と張飛が歩いて来た・・・

クラリスは2人より先に彼の所へ走って駆け寄ると荷台に両手を掛けて

「お爺ちゃん、いつも凄いね! 凄い、凄いっ!」

無邪気な笑顔で彼に言った。


そして千代たちを振り返ると

「この人が黄忠(コウチュウ)というお爺ちゃんだよ!」

クラリスの紹介する声に千代は立ち止まると丁寧に頭を下げた・・・張飛も両手を組み頭を下げる。


髪と丁寧に手入れされた髭は白く身体も大柄ではないがとても老人とは思えない筋肉に包まれた鋼のような肉体が衣服の上からでも容易に想像出来る!

顔には無数の細かい傷跡が残り精悍な顔つきをより一層際立たせていた。


「新しくこの城を統率されると聞きました! 私は黄忠と申します、今後ともお見知り置きを・・・」

黄忠は丁寧な言葉と物腰で千代に挨拶をする。


容姿と身体つきがアンバランスで年齢を想像するのが難しいのだが、その柔らかい物腰には好感を覚える!

それは張飛も同様であったらしく千代の後ろに控えたまま何も言わず成り行きを見守っていた。


「私は黄忠殿に力を貸して頂きたくここに来ました」

近づいてみると傷だらけの顔も温和な感じがする。


「この小城で私如き老人に力を借りるようなことでも有りますかな?」

「そこに控えておられる張飛殿が居れば守ることが難しいとは思えませぬ」

そこまで言うと張飛に一礼し

「クラリスの話によれば千代殿はここに住む者たちの安寧な暮らしを心から願い頑張っておられるとか!?」

「近頃ではあの巨人の姿も見えず束の間の平穏という所ではないかと思い、こうして狩りに勤しんでます」


黄忠の言葉を真剣な目で聞いた千代は言った!

「この平穏は長く続かないと思います!」

「巨人が現れないのは張角に何か考えがあってのことでしょう、今のうちにこちらも軍備を増強する必要があると思います!」


その言葉に驚きの表情を見せる黄忠に対し

「私は向こうの小城に向かい協力を御願いしようかと考えているのですが張飛と黄忠殿、2人の力が私たち全ての者にはどうしても必要なのです!」

「どうか力を貸してはもらえないでしょうか!?」

「仮に張角を倒したとて次の敵、それを倒したとてまた次の敵が現れ真の平和が来ることは無いでしょうが誰かが盾になり誰かが槍になり、血を流さねば大切な者を守ることは出来ません!」


一気に言い放った千代の言葉をじっと聞いていた黄忠はしばらく天を仰ぎ見ていたが突然、片膝をつき

「これよりこの黄忠は千代殿の弓となり向かう敵を全て射抜きましょうぞ!」

「我が体に流れる血を千代殿が描く世界の為に捧げまする」

そう言うと胸に誓いの手を当てながら号泣した。


彼がこれまでどんな人生を送って来たのかを知る者など誰もここには居ないのだが千代の言葉は彼の心中を深く射抜いたのであろう・・・


「思わず熱く語っちゃったけどこれからどうすればいいのか私にも良くわかんないんだよねぇ・・・」

「孔明みたいな人でも居れば助かるんだけどなぁ?」

「でも三国無双をやっといて良かったぁ!」

心の中でホッと胸を撫で下ろす彼女。


千代にはゲームで得た知識が多少は有るらしい!?

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