第3話
「一体、何を眺めてるんですかい?」
退屈そうにあくびしながら張飛が私に尋ねる。
「だからいちいち私について来なくてもいいって言ったでしょ!?・・・ねぇ張飛、あれは誰の城?」
先程から城壁の上を歩きながら周囲を見ていた私が彼に遠くに見える城壁らしき物を指差し尋ねると
「あれは張角(チョウカク)と言って太平道とか言う儒教を唱えて信者を集めてる野郎ですが、実際は黄布賊と言って略奪やら方々から捕えて来た者を奴隷として売ってる奴です!」
そこまで言った彼は苦々しく唾を地面に吐くと
「ここに住む者たちは皆、あそこから逃げて来たり捕まりそうになった者たちで俺が助けて連れて来たんだ」
そう言った彼の顔をじっと見ていた千代は
「お前は強いだけじゃなくて優しい男なんだなぁ?」
感激した表情で言うと彼は照れ臭そうに
「な、何を真面目な顔で言ってるんだ!」
そう言って頭を掻いた。
「じゃあ、そちらに見えてる小さな城もそうなのか?」
私が張角の城からやや離れた場所にある小城を指差すと
「誰があそこに居るのか俺も知らないんだが張角とは争っているみたいなんだ!」
「ここから戦う様子を何度か見たんだが少数精鋭の統率された軍勢みたいだな」
日頃から酒ばかり飲んでるのかと思ったが意外と周囲の状況は把握しているらしい。
「あの城に行ってみたいんだけど・・・困ったわねぇ」
小城を見ながら私が思案顔で考えていると
「あんな所へ一体、何をしに行くんですかい?」
彼は私の横顔を見ながら不思議そうに尋ねた。
「仲間にしたいと思ったのよ! あの張角を倒す為には少しでも多くの仲間が居なくちゃ倒せない」
そう言った私に彼は呆れた顔で
「倒すって!? 千代殿はそんなことを考えていたんですかい?・・・守りに入るのかと思えば攻めることを考えていたとはやはり俺の主君だ!」
「よし! じゃあ俺があの城まで連れて行って話をさせてやる」
守るより攻めるのが好きな彼は勢い込んで言った。
「お前がそう言ってくれるのは助かるんだけどそれじゃこの城を守る者が居なくなるじゃないの」
私が答えると
「ここにはもう1人、強い人が居るんだよ!」
ニコニコしながら黙って聴いていたクラリスが言った。
「ホント!? その人を教えて頂戴!」
クラリスは張角に囚われていた母親からここで生まれて育ったらしい
その母親は病気で死に父親が誰かもわからないのだが、この城内に於いてそういったことは決して珍しいことでは無かった。
「いいよ! 今から行ってみる?」
クラリスは私の問い掛けにそう答えると嬉しそうな笑顔を見せた後に聞いた。
「この城内で兵を募ったり戦えそうな者を随分、探して回ったりしたんだが俺の知らない強い奴がいるのか?」
そう言いながら首を傾げる張飛に
「おじちゃんが集めたのは若い人でしょ!?」
「その人どっちかと言えば・・・う~ん?・・・お爺ちゃんかな!?」
その男の表現が子供にはかなり難しかったのだろう!
クラリスは両手で頬を押さえ悩んだ末にそう答えた。
「爺さんだと!? そんな年寄りを推薦してどうすんだ!」
呆れた口調でクラリスに張飛が言うと
「お爺ちゃんだけどとっても力持ちだしここに逃げて来る時もたくさんの敵をやっつけて皆んなを助けたらしいからきっと大丈夫よ!」
そう言ったクラリスに尚も詰め寄ろうとする張飛を制した私はクラリスの手を握ると
「よし! わからず屋の張飛はここに置いて2人で一緒に会いに行ってみましょ」
そう言いながら喜ぶクラリスと一緒に歩き出した。
「何だよ、2人だけで行く気か!?」
「なぜ俺について来いとは言わんのだ! 俺はがっかりしても知らんからな」
ブツブツ文句を言いながらも2人の後を追って来る彼に私は声を掛けた
「張飛! そんな所で突っ立ってないで早く来て! 強いかどうかを判断出来るのは貴方だけなんだからね」
「はっ! 畏まりました、よぉし! 俺がその爺さんに会って腕試しをしてやろう・・・」
千代から頼りにされた彼は重い槍をグルグルと回しながら嬉しそうについて来る。
こんな豪傑に試されて認められるような人物なら嬉しいのだが、それより今は頼れる仲間が少しでも多く欲しいと願う千代であった。
「あれ? 私っていつの間にかこの世界に馴染んでるわ」
心でそう思いながら歩いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます