第2話

少女の家は竹林を抜けた場所にあった

鉄筋コンクリートで出来たマンションで暮らしていた彼女から見れば人がここに暮らせるのか?という程の粗末な作りで外から見た限りでは雨漏りが心配な感じであったが中に住む人達は優しく、そして温かく彼女を迎い入れてくれた。


あれから3週間、経つが彼女がこの世界に迷い込んだあの日以来、今日まで巨人の出現も無く平穏無事に日々が過ぎていた。


一緒に暮らし、接しているうちに日常的な会話は出来るようになったが彼女は少女の助けを借りて会話することが多く、まるで姉妹のように仲が良かった!


少女の名前はクラリス

10歳になったばかりだと教えてくれた。


私は鈴木千代(スズキ チヨ)で18歳、こんな世界に迷い込んだ自分を紹介しても仕方ないのだけどクラリスに聞かれた私はそう答えた。


最初は発音が上手く出来なくて私を笑わせてくれたクラリスだったが今ではちゃんと発音出来るようになった!

最もそれはクラリスにしても同様だったに違いない。


城壁は高さが10メートルぐらい有り、クラリスの説明に寄ると廃墟となった古城だったそうで修理と改造を繰り返し現在の姿になったらしい・・・

彼女と一緒に説明を受けながら城壁の内側を回ってみた感じ、何となく漫画で読んだ中国の城に似ている。


住んでいる人々も多種多様で東洋人みたいな人種の数が多数を占めていた!

ざっと見た感じ、総勢500人ぐらいであろうか?

この人数で守るにはこの城は大き過ぎる・・・

四方から一斉に攻撃されたら手の空いた所から侵入されて終わりであろう。


「ねぇ、ここは誰か支配者って言うか責任者が居るの?」

歩きながらクラリスに尋ねると

「強い人ってこと? 誰も勝てない物凄く強い人ならこの先の酒屋でいつもお酒を飲んでるよ!」

そう言ってクスッと笑ったクラリスは

「凶暴ですぐ怒るから大人たちは怖がってるけど子供と女性にはとても優しい人で怖がられるけど人気者よ!」

クラリスの口調からして話が出来ない相手では無さそうだったのでその酒屋に行ってみることにした。


確かに怖いという表現がぴったり当てはまるようなデカい声と大柄な体躯、大きな酒釜から椀で酒をすくっては飲みながら肉を喰っている男がそこに居た!

顔中、手入れもしない髭だらけでこんな物を人が持てるはずが無いだろうってぐらいのデカい刃が付いた槍を傍らの地面に突き刺している。


こりゃ無理だ!・・・怖すぎる!

諦めて帰ろうとした私を残しクラリスはその男のもとへ走り寄って槍につかまりクルリと回るが地面に突き刺した槍はピクリとも動かない・・・

あのデカくて重そうな槍はどんだけ埋まってんだ!?

唖然とする千代の目前で男は笑顔でクラリスの頭を撫でると片手でひょいと持ち上げ肩に乗せた。


この男なら1人でも巨人を楽に倒せるんじゃないか!?

そう思ってしまうほどの豪傑であった。


肩に乗せられたクラリスが男の耳元で私のことを紹介すると男は笑顔で私に手招きをしながら

「いつか素っ裸で逃げて来たお嬢さんだよなぁ!?」

「遠慮は要らんからこっちに来て座れよ、話は聞くぞ!」

声がデカ過ぎるだろ!?

やっと忘れかけてた心の傷を抉り出しやがって・・・私は殴りたい衝動を抑えながら男のもとに駆け寄った。


「それで俺に何の話があるんだ」

男は椀に入った酒を私に勧めながら聞いた

「この城壁には四方に門が有ります、この人数では守るだけで精一杯の人数しか居ません! 入口と出口さえ有れば残り2つの門は頑丈に閉鎖した方が攻められた時に守り易いと思うのですが・・・」


恐る恐る自分の意見を男に言ってみると

「それは良い考えだ! 俺は戦いは得意だが考えるのは苦手でなぁ・・・お主がここの主にならぬか?」

「俺がお主を補佐して戦ってやる!」

ポンと自分の膝を叩きながらいとも簡単に言った。


途方もない申し出に呆れた私が無言でいると

「なぁに俺の嫁になれとは言ってない! 俺の嫁には頑丈な体を持っとらんと勤まらんでな」

豪快に笑いながら腰をヒクヒクと大きく振って見せる。


ファーストキスさえ経験したことがないレディーに向かって何とも失礼な男だ!


「私の名は千代! お前の名は何と言う!?」

笑いを堪えながら言った為、厳しい口調になった千代の問い掛けに男は真剣な表情で片膝をつき右手を胸に当てるとこう言った。


「はっ、我が名は張飛(チョウヒ)と申します!」

そして頭を下げると

「我が主さまっ!」・・・と言った。


やはり歴戦の強者である、礼を尽くした姿も威圧感が溢れていて頼もしく見える!

しかしその名前、どっかで聞いたことあるような無いような?

でも頼もしそうだし、まぁいいか。


単純にそう思ってはみたものの

「こんなに上手く行っていいのかなぁ?」

小首を傾げながら当惑した表情の千代であった。

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