「紅い稲妻 とある彼女の奮戦記」

新豊鐵/貨物船

第1話

囚われた屈辱は 反撃の嚆矢だ

城壁のその彼方 獲物を屠る

Jager(イェーガー)

迸る衝動に その身を灼きながら

黄昏に緋を穿つ 紅蓮の弓矢~アアア♪


「ふ~ぅっ・・・プクプクプクッ」

お風呂で歌い終わった後に半分、顔を沈め息を吐くのが彼女の癖であった。


「いくら練習だからってあんなに走らせるかぁ!?」

体育祭の練習で疲れ切った身体を左右交互にねじりながら独り言のように呟く・・・

まだ宿題が残ってはいるのだが1日が終わったように感じられるこのひとときが彼女は好きだった。


「えっ?」

湯気で視界の悪くなった浴室で何かが見えたような気がしてジーッと目を凝らす・・・

白色に染まった先に何かが見えた!

広大な草原? そんな風に見えるのだがここは浴室の中なのだ・・・そんな景色が見えるはずが無い。


「えっ? え~っ!?」

今度は日に焼けた褐色の肌をした男の姿が見えた!

「なに? 何? 一体、何が起きてんの!?」

信じられない光景に目を疑う彼女の意思に関係なく男は彼女の腕をいきなり掴むと急に走り出したのだ!


「ちょっと待って! 待ってよ! 私はお風呂に入ってて裸のままなんだし・・・ひぇ~!?」

男に文句を言いながらも何かを感じて振り返った彼女に見えたのは四つん這いになって追い掛けて来る巨人!

突然の出来事で良く把握出来ないのだが5メートル以上は有りそうな巨人がこちらに向かって追って来る。


こんな所で文句など言ってる場合では無い!

彼女は男の手を振り解くと向こうに見える城壁目指して全力で走り出した。


短距離走に於いては全国大会で優勝候補の筆頭に上がる実力を持つ彼女が命懸けで走り出したのだ!

男をみるみる突き離しアッと言う間に城壁の入り口を突き抜け、内側に居た群衆の前に辿り着いた。


遅れて男が入って来ると急いで城門が閉じられる!

「助かったぁ!・・・自己記録更新だわ」

息を切らしながら周囲を見回すと全員が自分に注目しているのに気づいた彼女はそこで自分が素っ裸であることを思い出した。


今更だがなるだけ見えないように蹲ると両手で大事な部分を隠したがこんな大勢の前で裸体を見せてしまった彼女は恥ずかしさのあまり泣いてしまった。


「■□◇◆○●」

1人の少女が何か言いながら大きな布きれを掛けると更に話し掛けながら建物の方を指差した。


聞いたこと有るような言葉だが意味がわからなかった!

どうやら自分を家に誘ってくれているらしい?

そう解釈した彼女は布きれを肩から全身に巻くと涙を拭きながら立ち上がり少女の後について歩く。


「●◆◇□」、「●◆○●◇□」、「▽▲●◆◇□」

歩きながらも少女は笑顔で何度も話し掛けてくれるのだが何と言っているのかが全くわからない彼女は曖昧な笑みを浮かべながら自分がどうなったのかを考えていた。


あの巨人は彼女が良く知っている物語と同じだった!

この城壁も、この街並みも全て観たことがある!

ただ実際に見た訳ではなくテレビ放送で観ただけの世界なのだ・・・違うのは文明の遅れだった。


一緒に逃げた男は槍みたいな武器を持っているだけだったし城壁を見ても大砲などの兵器も無いしおよそ戦う物など何も無いに等しい!

これではあんな巨人と戦えるはずも無いだろう?

私がここに居る理由が有るとすれば戦う為?

ここに住む人たちを巨人から守る為!?


「いやぁ、そんな訳ないよねぇ・・・?」

そう言った彼女に振り返った少女の目は英雄を見るような憧れの視線だった!

「やっぱりそうなるのかぁ・・・困っちゃったなぁ」

いつもながら天然で呑気な彼女であった。

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