Lily
緑色の髪とベージュのパーカーが揺れる。7年前にユニバースとウラヌスを襲った時とは違い、僅かながら正義感も生まれていた瞳はスタークを捉えて離さない。それはスキンクァも同じで、例え敵わない相手だとしても歩みを止めてはいなかった。
「オレサマ達がやられたら、避難した奴らも殺されちまう!」
「私達のためなら他の人はどうなっても良いって思ってたけど……今は違うかも」
彼女らの戦う理由は、お互いが平穏に暮らしていける生活を作る事。しかし長い抗争を経て、ある程度考えも変わっていた。
「ラール達が加勢に来てくれるまで……時間を稼ぐぞ!」
頷いたスキンクァは自らの分身を先にスタークへと突撃させた。上空から襲いかかった分身にスタークは両腕で対応していく。スタークの武器が両脚だけになる瞬間を狙い、ドボラックとスキンクァは腹部に位置するフォーの撃破を狙った。
「僕を狙ってるって事!?」
「守りましょうか、ねぇシックス」
「わかったよファイブ」
コスモとヴィーナスの名を呼ぶ事なく、親子の顔をした虚構の存在は息のあったステップを踏む。しかし2人の勝手な足踏みによって、スキンクァの分身に応戦していたワンとツーのバランスが崩れてしまう。複数の人格を載せた事による弊害。
「うぉー?」
「何をしているんだ貴様ら!」
ワンとツーは嘆きと共に狙いが外れ両腕の攻撃を避けた分身は、スタークの首周りを“トカゲ”で切り裂き背後に回った。ドボラック及びスキンクァ本体との挟み撃ちの形となる。
「逃げ場はねぇ!」
ドボラックの言葉通り、下半身を担当する2人だけでは4人分の攻撃は捌けない。しかしスタークの身体の中央を陣取っていたフォーは、思いがけない行動をとった。スリーの鋭い叫びが響く。
「フォー! 奥の手を!」
「はーい! むしゃぁっ」
食いしん坊な幼児の意思は、自らの下にある胴体に噛み付き、一瞬にして食いちぎった。上半身と下半身が別れを告げ、その内上半身は背中側に倒れ、下半身はそのまま真正面を見据える。
「そんなっ……!?」
スキンクァの分身による最期の言葉。コンクリートに背中から着地したスタークの上半身は左腕の殴打と、右の掌から放たれるエネルギー弾にを使い分身2体は儚く散った。
「隙ありね」
ファイブが嘲笑う。まさかの作戦によりドボラックとスキンクァには確かな隙が生まれていた。唖然とした2人の腹部にそれぞれ蹴りが入れられ吹き飛ばされる。
スキンクァの腹にはファイブの踵落としが。
ドボラックの腹にはシックスのハイキックが。
「うがぁっ……!」
「いっ……!」
両脚を宙に浮かせたスタークの下半身は情けなく倒れたが、吹き飛んだ2人は停まっていた車に激突しあちこちの骨が折れる。
「あっ……アバラがいてぇ」
ドボラックは肋骨が3本ほど折れ、呼吸する度に激痛が走るため小刻みな喘ぎを晒す。スキンクァは『ベージュ色』の力で肉体を回復させ傷を治してはいたものの、一撃で命を奪われてしまえば元も子もない。スタークへの恐怖心が更に増加していく。
「終わりだな。“俺”の元になった奴は実の父親に殺されたらしいが……お前達は人造人間による世界の礎となって殺されるんだ。まだマシな方だろ?」
ゆったりと立ち上がったスタークの下半身。余裕綽々のシックスは、コスモの顔でありながら彼が到底発言しないような言葉を紡いでいる。
「……ねぇ、ドボラック」
「ど、どうした? 何か考えでもあんのか?」
1度深呼吸してから立ったスキンクァはドボラックの方に顔を向けた。
「今まで、ありがと……さよなら」
涙も流していない、笑顔でもない真顔だった。表情を作るほどの余裕すら持ち合わせていなかった。一瞬の一言はドボラックを焦らせる。スキンクァはスタークへと走り出した。
「お、おい待てよ!」
倒れたままドボラックは右手を伸ばすが当然スキンクァは振り向かない。右手を針状の“トカゲ”に変形させたスキンクァは、今度は自身の左腕を根元から切り落とした。それだけに飽き足らず、胸や腹部、太ももの1部も切り裂いていく。血液と共に身体を離れた肉体はそれぞれが姿を変え、スキンクァの分身へと。
「おー? ヤバいんじゃないのかよ」
スタークの内ワンは真っ先にこの事態に気づいた。彼は怠惰な性格ではあるが洞察力自体は優れている。ワンは左腕で地を叩き上半身を跳ね上げさせると、下半身に飛び乗り形だけは元通りのスタークに。接合部はただ乗っているだけであるため噛み合わせが悪い。
「ならば早速応戦しなければな!」
「全力でいきますよ?」
ツー、スリーも多数の分身を目にし対策を計算し始める。命懸けの特攻だと考えた彼らはスキンクァ本体をまず潰そうと策を練ったが。
「オレサマも……っ!」
ドボラックも負けじと立ち上がり、両手のトンファーから風の弾丸を発射する。スタークの両腕はそれの対処に追われ、スキンクァとの距離が縮まっていく。
「ちょっと待ってこれ! 僕達囲まれちゃうよ!?」
スキンクァの分身は陣形を広げ、再び囲む形となり全てが同じタイミングで襲いかかった。スタークの下半身による蹴り上げはできなかった。何故なら既に、距離が近づきすぎていたから。ほぼ密着状態では蹴り上げもできず、背後からも分身は近づいていたため身動きすらとれない。
「スキンクァ……お前が、お前がさよならだって言うんなら!」
ドボラックの視界には、もうスタークは映っていない。スキンクァとその分身が全方位から囲んで動きを封じている状況となると、ドボラックが取れる行動はただ1つ。
「お前ごと、スタークを殺る!!」
スキンクァが言ったさよなら、の意味は『この隙に逃げて』なのかもしれなかった。しかしドボラックの頭の中には、逃走の2文字など無い。彼女もまた走り出し、能力名を叫んだ。
「【ヘル・オア・ヘブン】!」
“自身が怪我を負った規模に比例して、放つ風の威力が上昇する”能力によって、ドボラックの全身からは強力な風が吹き出ている。圧倒的なスピードと共にトンファーを持ち直していた。普段は逆手持ちをしていたトンファーを順手持ちに。先端を突き刺すようにして構えると、そのままスキンクァの背中に刺突し貫通させ、風の弾丸を連射した。
「うぁぁぁぁぁ!!!!」
彼女の身体から溢れ出る風と共に、スキンクァとスタークの身体が壊れる音が響く。囲まれているスタークがどうなっているのかは確認できないなかったが、ドボラックは全力を尽くした。
彼女達が行き着く先は、
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