Re:Stark

 ミコト達が激闘を繰り広げていた裏でも、大きな動きは起きていた。コロニーを襲っていた多数の人造人間はドボラックとスキンクァによって残らず排除され、一般人の犠牲は出しつつも最悪の事態は免れたように思えた。


「これで……終わりかよ?」


 動かなくなった機械の身体を蹴飛ばし、息を荒くしながらドボラックは一安心する。場所は立体駐車場の屋上。停まっている車はまばらで、スキンクァは逃げ惑っている一般人がまだ残っているかもしれないと景色を見渡している。


「……うん。生きてる人は全部、隣のショッピングモールの中に避難できたみたい。私の分身も使って探したから、間違いないはず」


 スキンクァはドボラックのそばに居る時のみ本来の姿を見せる。このスキンクァは分身ではなく本体。【愛しのサイコ・ブレイカー】の力はこうやって救助にも利用が可能であり、言葉を聞いたドボラックは避難した一般人達に戦況を報告しようと足を動かした。が、しかし。


「あれ……? 私の分身が倒されてる? 1人……また、1人」

「マジで言ってんのか!? まさかラール達しくじったんじゃ────」


 ドボラックが思いついたのは、ミコト達3人の敗北。だがスキンクァが感じ取る暴力の意思は、ロディとウラヌス2人のものを合わせても届かないほどだった。

 次の瞬間、駐車場の屋上に何かが落ちてくる。地上から投げられたそれは車のボンネットに着地。右腕がもがれ、腹部から血を流すスキンクァの分身だった。


「まさかあいつが!?」


 ドボラックの脳裏に過ぎる、リベリオンズのもう1人のメンバー。“1人”とは呼べない存在である彼は、既に立体駐車場の屋上まで飛び上がる脚力を使い宙に浮いていた。3つの声が2人に降り注ぐと同時に黒い地に飛び降りる。


「おー、久しぶりか?」

「とは言えないな!」

「ここで始末しましょうか」


 彼らの名はスターク。頭部には3つの顔があった。左側頭部には逆だった髪がある強面の“ワン”の顔。右側頭部には綺麗な顔立ちの男“ツー”の顔。そして正面には前髪で目と鼻が少し隠れる、根暗な印象の男“スリー”の顔があった。

 しかしこれだけでは済まないのがスターク。


「食べちゃって良いのぉ〜?」

「食べ盛りの子供は大変ねぇ」


 腹部にも顔がある。幼稚園児程度と見受けられる童顔の“フォー”は無邪気ながらも狂気を孕んでいた。

 更に左膝の部分にも顔が。黄色く長い髪を垂らす顔が整った女性は、かつてユニバース達に協力していたヴィーナス。コスモの母親だった彼女が“ファイブ”になっていた。

 そして、もう1人。


「……俺は、久しぶりって言ってもいいか?」


 現時点で最後の1人は右膝に顔が付いていた。彼だけは髪色が紫ではなく薄い青みがかった色。ドボラックとスキンクァも以前から知っていた人物、コスモ。彼は“シックス”という存在に使われてしまっていた。


「コスモ……」

「来やがったな! コスモが居たせいでサターンは負けちまったらしいが、オレサマ達はそう簡単にはやられない!」


 スタークが着地した黒いコンクリートにはヒビが入っており、踏み潰されてはひとたまりもない事を表している。それでもドボラックとスキンクァは逃げようとはしなかった。2人の力を合わせたとしてもスタークに及ばない事はとうの昔に理解していた。立ち向かう理由は、至って単純なもの。


「お前ら人造人間が反逆なんて起こしたせいで……オレサマとスキンクァは戦わなくちゃいけなくなった。テキトーに仕事をこなして、2人でイチャつきたかっただけなのになぁ!」

「……私もそう思う」


 ドボラックはカプセルを変形させ、トンファーを両手に。スキンクァは右腕を針状の“トカゲ”に変形させた。戦う理由が告白されスキンクァは少し照れた様子だったが、スタークはそんな2人にも容赦しない。


「お前もマーキュリーと同じように殺してやるかー?」

「最初から全力なのだよ!」


 スタークの内ワンは、鉄くずや破片が混じるスクラップで出来た左腕を持ち上げ。ツーは掌の穴からエネルギー弾を放てる右腕を操る。そしてスタークの顔とも言えるスリーは全体の指揮を担当する。

 ここまでは7年前と同じだが、人格が更に増えている事で対応幅も増していた。


「もしあなた方が近づいてくるのならば」

「僕が全部食べちゃおう!」

「いや、私とコスモが蹴り殺す選択肢も用意されてるよ?」

「【ワイルド・ファング】は使えないけどな」


 フォー、ファイブ、シックスと立て続けに発言。シックスの意思はあくまでコスモに似せただけのものではあるが声も同一であり、傍から見れば本人とそう変わりはない。膝に顔が付けられているという事以外は。


「そっちが6人なら、こっちも……!」

「ああ、分かったぞスキンクァ!」


 スキンクァは変形させていなかった左腕をドボラックに向けると“トカゲ”で指を1本ずつ切断し、最後に手首を切り落とし渡した。『ベージュ色』の力によって痛覚は遮断され出血も無かった。


「いくぞオラっ!」


 渡された肉片をドボラックは放り投げ、それらをトンファーの先端から放たれる風の弾丸でそれぞれ別方向へ吹き飛ばした。数は指が5本と掌が1つで合計6つ。分身は増やせば増やすほど操作は大雑把になってしまうが、スタークへの対抗策としては最善。

 スタークを囲む形でスキンクァの分身が6体現れ、一斉に駆け出す。ウラヌスとロディの場合は対応に精一杯だった事もあり、スキンクァは勝利の可能性を感じていたが。


「【ミスター・トラブルメーカー】を使わなくてもなー」

「我々の勝利は確実!」


 両手を動かすワンとツーはやはり息が合っていた。最古参の3人の内この2人は特に仲が良く、左腕の殴打と右手からのエネルギー弾によってスキンクァの分身は2体が弾け飛ぶ。


「次、来ますよ」

「僕の出番?」

「蹴りだなんて、初めてかも」


 フォーとファイブは嘲笑う。スタークの懐に潜り込んだ分身をフォーは正拳突きで貫き、ファイブは左足による踵落としでもう1人の分身を地に叩きつけた。


「分身はあと2人だな?」


 コスモの容姿と声をしたシックスだったが、ドボラックはスキンクァとその分身だけに全てを任せていた訳では無かった。残った2体の分身は飛び上がり上空から。ドボラックとスキンクァ本体も走り出し正面から突撃をする。


「ここで終わらせてやる! その『紫色』の力も……オレサマ達の方に渡してもらおうか!!!!」

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