Trio

 ミコト達3人もドボラックとスキンクァを探し立体駐車場のそばまでやって来ていた。静まり返ったコロニー内にて響き渡る戦闘の音は目立っており、3人は息が切れるほどの全力疾走。


「まだここだけ騒がしいね……ドボラックさん達が戦ってるかもしれないけど。ラールくん、『色』の力を持ってるリベリオンズってあと1人いたよね?」

「はい、僕の父さんを殺した『紫色』のスターク……! あいつがここに居るかもしれない!」

「へ〜」


 反応が薄いネプだったが真っ先に立体駐車場の中に乗り込んでいき、通路奥にある階段を見つけると更に足の動かす速度を上げた。


「僕は一応、ネプとは付き合い長い方だと思ってますけど……やっぱりあいつの考えてる事が全部分かるって訳じゃありません」

「でも今のネプくんは、いち早く2人の手助けをしようとしてる?」

「それは確かにそうですね。さっきも僕を助けてくれたので……優しいですよ、あいつは」


 ネプに置いていかれないように、ミコトとラールも後をついていく。すると複数の爆発音が彼らの耳に入る。だがそれ以降はなんの音沙汰もなく、戦闘が終了した可能性が3人の頭の中に過ぎった。

 間もなく階段を登りきり、一斉に飛び出した3人は悲惨な状況を目の当たりにしてしまう。


「す、スターク……っ!」


 ラールが狼狽える。スタークの腹部は崩壊し、そこに位置していたフォーは跡形もなくなっていたが、穴埋めをするべくバラバラになったスキンクァの肉体をくっつけていた。そしてスタークの足元に横たわるはドボラックの死体。


「おー、お前ら来たって事はウラヌスとロディはしくじったのか」

「しかし我らは失敗しない!」

「フォー、貴方は風の弾丸を1人で受け止め、食べきりました……貴方がいなければ今頃僕達も鉄クズになっていたでしょう。届かない感謝を、送ります」


 スタークの中で唯一、仲間を弔ったスリーは目を閉じる。彼の言葉で事の経緯をある程度理解したミコトとラールは歯を食いしばった。ネプだけは真顔のままでチェーンソーを構える。


「今度は小さな子供もいるのね」


 かつてのヴィーナスの記憶を持っているファイブは笑顔でラールとネプを見つめた。ミコトとは違う、加虐を含んだ目線は2人を怯ませる。しかし退く訳にはいかず、ラールは氷の盾を右手に装備。ネプは【冷たい陽炎カゲロウ】と呟いた。


「【冷たい陽炎カゲロウ】……油断、できないかも」

「多分ウラヌスよりも強い……だけど、父さんの仇をとるためにも僕は!」


 ネプの背後に分身が出現し。1番に走り出したのはラールだった。自身が人造人間への恨みを増幅させる原因となったスタークに対し、並々ならぬ殺意を持った彼は焦りも持っていた。


「これでも喰らっとけ」


 するとシックスは右脚でドボラックの死体をラールの方へ蹴り飛ばした。人間の肉体が襲いかかってくるのはラールにとって初めてで、咄嗟に左方向へと転がり込んで回避する。停まっていた車に背を預けた彼の瞳には、眼を開けたまま息絶えているドボラックが映る。


「酷いことするなぁ〜」


 妨害を受けなかったネプはドボラックの死体を飛び越してスタークへと分身と共に突撃した。分身の方は武器を持っていなかったが、左手を背後に伸ばしている。


「……分かった、ネプ!」


 ラールは意を汲み取り、右手にあった氷の盾を投げ飛ばすとネプの分身の手に託された。本体は動かなくなったチェーンソーを、分身は盾を構えそのまま直進する。スタークは前者への対処に右掌からのエネルギー弾を。後者は左の剛腕を振りかざす事で対応した。


「力じゃ勝てないけど」


 ウラヌスによって壊されたチェーンソーは本来の機能を失っていたが、しなやかな水の力を使いエネルギー弾を受け流し上空へ跳ね飛ばす。

 剛腕を盾で受け止めた分身は大きく後ずさると、ラールと目を合わせ合図を重ねた。


「オレ達ならやれる?」

「【D&ドロップ】!」


“受け止めた攻撃を蓄積させ、追尾性能のある氷を精製する”能力によって盾は無数に砕け、スタークの胴体へと飛んで行った。7年前、スタークはこの力に対し完全には応戦できず、1回目ではマーズとマーキュリーを取り逃し。2回目ではマーキュリーを殺す事には成功したが凍らされ身動きを一定時間封じられた。


「あー、またアレか」

「この攻撃範囲……全ては防げないぞ!?」


 スタークの正面に顔が付いているスリーの視界いっぱいに、氷柱が横並びに整列。一斉に動き出すと雨のように襲いかかった。スリーは咄嗟の考えでそばにいたネプを盾にしようと考えるが、今まで動いていなかったミコトの出番が回ってきていた。


「【サジタリウス】!」


 ミコトの右手に弓が現れ、2つの矢が放たれると氷柱つららを追い抜いてスタークの両手へと刺さる。ネプは背後を確認しないまま左後方に飛び退き、スタークがどう対応するのか観察を始めた。

 スタークの持つ【ミスター・トラブルメーカー】は“生命の無いものに自我を芽生えさせ、自身の思い通りに操る”能力であるが、たった2つの矢を操っても迫り来る氷柱達には勝てないとスリーは考え、両腕を盾にする形で頭の前に構えた。また、【ミスター・トラブルメーカー】は“触れた部分から侵食していくように自我を芽生えさせる”特性も持つため、生命の伴わない攻撃を瞬時に防げる訳でもない。


「ラールくん! ネプくん! 一緒に飛び込むよ!」

「わかりました……!」

「はいは〜い」


 ミコトとラールは並び立ち、ネプは分身を消失させた。次の瞬間、氷柱がスタークの両腕に突き刺さり始め視界を奪う。隙を生まない連続した攻撃を仕掛けるため、次の一撃で全てを決めるつもりのミコト。ラールと共に走り出し、またしても能力名を口にする。


「【キャンサー】! それと【タウラス】!」


 ミコトの右手からは弓矢が消え、代わりに【キャンサー】の力である巨大な蟹の鋏が装備された。そして【タウラス】はミコトが言っていた通り特殊型。ミコトの耳の上部には、まるで牡牛の角のような長い棘が黄緑色の粒子と共に現れ、その先端は前方を向いている。


「最初はオレだっ」


 1人だけ離れた位置に立っていたネプは、スタークの右半身を狙うために走り跳躍。チェーンソーを振り上げ、重力を利用して一気に叩きつけた。右腕に刺さっていた氷柱を更に押し込んだが、ここで誤算が顕になる。スタークの右腕が折れ、掌がネプの方に向いてしまった。


「あっ」

「今です、ツー!」


 スリーの合図と共に、すかさずエネルギー弾が連射されネプの腹部に直撃。至近距離だったという事もあり弾は大きな衝撃と共に臓器を傷つけ、ネプはチェーンソーをその場に落としながら大きく吹き飛んだ。駐車場の屋上から落下していくネプを、2人は見ている事しかできなかった。


「ネプくん!?」

「今は無事だと信じて……スタークを倒しましょう!」


 立ち止まりそうになったミコトをラールは正し、唾を飲み込み走った。武器を持っていなかったラールだったが彼が手を伸ばした先はネプが落としたチェーンソー。既にそばまで迫っており、ネプの想いを継ぐためにもラールは飛び込んだ。しかしスタークの左足が動く。ファイブ操る左足の踵落としがラールの背中に直撃し、骨が折れる音が身体を振動させた。


「うっ……このくらい、僕は耐えてみせるっ!!」


 だがラールも臆せず震えながらチェーンソーを両手で掴み、スタークの左膝裏へと打撃を加えた。


「あらあらっ?」


 尚もファイブは余裕の声だが、不意打ちを受けたスタークの身体はバランスを崩し後方に倒れる。しかし曲がった右腕を背後に回す事で、右足と共に支えとなり受け身じみた行動をスタークはとった。


「私が、決める!」


 最後にスタークへと迫ったミコトは覆い被さる形で襲いかかり、右手に装備された【キャンサー】で決着をつけようと振り下ろしたが。スタークは左腕で【キャンサー】を掴んだ。ワンは黙ったまま力を強め、一瞬でミコトの右腕ごと破壊した。


「やっ……ぱりそうするよね……ッ!」


 この行動をミコトは予測していた。痛みは伴ったが、これでスタークはほぼ動けない状態。右手と右足は体勢を保つために使っており、左腕は【キャンサー】の対応に。そして左足のみミコトへの攻撃を行える部位でもあった。ミコトは再び歯を食いしばる。


頭突ぱちきぃーーッ!!」


 ミコトの頭部に現れた角である【タウラス】、その先端を使い頭突きを繰り出した。スタークの正面にあったスリーの顔面にミコトの額が激突し、角は深く突き刺さるとバチバチと電撃を撒き散らして痙攣。だがミコトの腹部にもスタークの左足による蹴りあげが入り、つま先部分が刺さった。


「がっ……ああっ」


 ミコトもたまらず唾と涎を吐き出し、残っていた気力でスタークから離れて後ずさった。頭突きによって額からは血が流れ出す。スタークは蹴りあげ後、身体を震えさせる事しかできていない様子。このまま止めを刺せると踏んだミコトは、ラールが握っているチェーンソーを拝借しようとしたがその瞬間。

 スタークが、右足だけで立った。


「『白』を……寄越せ」


 コスモの顔をしたシックスは『白』への執着を見せる。他の4人の意思は表から消え去っており、彼1人がスタークを動かしていた。


「そんな……」


 人造人間に秘められた執念にミコトは敗北を確信し、唖然とした表情で固まった。このままではラール共々殺され、リベリオンズの思い通りの展開になってしまう。

 しかし、そんなミコトの目に映ったのは。スタークを背中から貫く尖った岩石の先端だった。


「え?」


 これにはミコトも驚愕の1文字を零す。スタークが倒れ、背後から止めを刺した人物も目に入る。

 全身を白い包帯に包み、瞳と長い茶髪だけを外に出している女性。左腕にネプを抱えており、彼女が『茶色』のサターンなのだと、ミコトは意識が途切れる寸前で確信した。

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