Sacrifice

 砂利の上に仰向けで倒れ、小さな笑みをウラヌスは浮かべていた。右手を切断された事によって窮地に立たされた結果、更には右足も膝から下が無くなっている。


「これで終わりだよ、ウラヌスくん……」


 ガイオスの青いショートヘアも乱れ、頬や腕には矢による傷が。おぼつかない足取りで近づき、震える銃口を額へと向けていた。


「……タイマンだったら、オレっちが勝ってただろうね」


 ガイオスの背後へとウラヌスは視線を運んだ。そこにはポセイド海賊団の元船員達の死体が20程まばらに散らばっている。割り込むように援護に入った結果、船員達があえて犠牲になる事で、押されていたガイオスは反撃の活路を見出し右足を切断する事に成功した。しかしそれだけではウラヌスは倒れず、更なる犠牲を払いつつ胴体に銃弾を撃ち込んだ事でやっと戦闘不能となった。


「言い訳はもういいよ……」

「無駄だよ、オレっちは何度でも造られる」

「でもオレンジ色のカプセルを奪えば、色の力は使えないよね」


 ガイオスはあくまで優しい声色で語りかけている。だが対照的にウラヌスは妖しく口角を上げ、鼻で笑い飛ばす。


「あはっ……あのね、オレンジ色のカプセルはリベリオンズ本部にあるんだ。オレっちはそこで作られたコピー。今オレっちを倒しても、また新しいオレっちが襲ってくるよ?」


 これを聞いた瞬間、拳銃を握るガイオスの右腕は震えを激しくさせた。コピーなんて機械らしい事は、以前のウラヌスの口からは絶対に出ない、と言いきれる程の発言による怒りだった。


「オレっちは何回でも蘇る。耐えられるかな……? ねぇガイオスさ────」


 次の瞬間、放たれた銃弾は見事脳天を撃ち抜いた。出血はせず、ただ目を閉じウラヌスの身体は動かなくなっている。


「君はウラヌスくんじゃない……でも、同じ姿をした君が何度も襲ってくるなんて、考えたくない……!」


 ガイオスは折れかけていた心をなんとか保ち、右手を頭に添え膝から落ちた。涙も溢れ出し、これから幾度となく目の前に現れるであろうウラヌスの姿を想像してしまっている。


「でも、本当の君は何を望むだろうね。君は最後に謝ってくれたけど……自分は、自分は……ウラヌスくんに何をしてやればいいっ!?」




 *




 以前に味わった事もある風の攻撃。しかしドボラックのものはギャラクとは違い信念や覚悟が感じられなかった。

 トンファーから放たれる風の弾丸は【ワイルド・ファング】で無力化できるが、彼女の全身から溢れ出る風の時間は止められない。


「近づけない、この前の時のようにウラヌスもいない。どうしよう……」


 瓦礫に隠れて作戦を練る事にした。左手にはサーベル、右手はロッドを装備している。ヴィーナスさんは僕の体を使い投げて攻撃もしていたけれど、ドボラックの風にはきっと吹き飛ばされて通用しない。


「隠れてんじゃね〜よ!」


 風の弾丸を無闇やたらにばら蒔いているのか、あちこちで瓦礫が破壊される音が聞こえる。同じく風を使ってきたギャラクとの戦闘とは違い、今回はロディがいない。スキンクァと敵対していたはずだから、ロディが勝って戻ってくる事を期待し持ちこたえるのも一つの手かもしれない。


「でもそれじゃ……人任せだ」


 ついさっき“ロディを守る”と宣言したばかりじゃないか。ここで頼るようじゃ、先なんて見えない。一人でドボラックを倒し他のメンバーも全員助ける。そうでもしないと、僕達人造人間の未来は無いような気がした。


「このロッドを使えば……? 賭けるしかない。ここだドボラック!」


 策を心に秘めながら声を上げ、同時に風が吹いてきていた方向へと飛び出し体を向ける。走った衝撃で僅かながら砂利が散り、ドボラックは僕に背中を向けていた状態。そのままの体勢で、トンファーの先端から風の弾丸が二つ放たれた。


「【ワイルド・ファング】!」


 サーベルとロッドを持ったまま、手の甲に弾丸を受け能力を発動。風の弾丸は空中で静止し無傷で済んだが問題はここから。前回はサーベルで切り落とし真っ二つにしていたが、少し趣向を変えるのも良いかもしれない。

 僕は左のサーベルを地面に突き刺した。


「何やってんだ……?」


 振り向き、警戒した様子のドボラックは風を仕掛けてくる様子もない。僕は両手でロッドを握り、身体全体を右に曲げた。ロッドは肩で支えるような形で、そのまま一気にスイングした。先程プルートの記憶を観た時、『野球』というものを見かけた。棒でボールを打ち飛ばす……僕もそうすれば良い!


 気合いを入れた僕の唸り声と共に、右の弾丸はロッドの打撃によって飛んでいく。間を開けず左の弾丸も同じように飛ばし、その場しのぎだけれど遠距離攻撃だ。


「なんだとォーっ!?」


 まさか風を撃ち返されるとは思っていなかったのか、驚愕したドボラックは反応が少し遅れた後に全身から風を溢れさせた。しかしそれでも弾丸は完全に止まる訳ではなく、一発目は右側頭部をかすっただけだが二発目は見事命中。以前ウラヌスとの連携で決めた胸部に当たっている。


「ぐあっ……!」


 倒れはせずよろめいただけのドボラック。でも充分すぎる程の隙だ。僕は左手でサーベルを再び逆手持ちで取り、全力で走り出し斬撃を浴びせた。

 ベージュ色のパーカーとドボラックの腹部を切り裂き、背中に血しぶきがかかる。


「“前の僕”が成し遂げなかった事も、一応これで……」


 恐らくドボラックも僕との記憶は全く無いだろう。“前の僕”がしようとしていた事は決して良い事ではないけれど、自分自身の敵討ちはこれで完了したも同然。


「……ロディ、今から向かうよ」

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