Confrontation

 かつてモルドールがそびえ立っていた更地。破壊された人造人間の一体が吹き飛ばされ転がり機能を停止する。その死体は火炎で焼き焦がされ茶と黒で染まっていた。


「こいつも人類に憎しみを抱いてたのか……?」


 白い瓦礫に横たわる死体を見つめ、後悔も混じった声を出した彼は『赤色』のマーズ。一週間前にプルートによって与えられた肩や腹部の傷は、『ベージュ色』の力を使い既に完治されていた。


「そうだよ。だからさっさと倒されてくれないかな」


 突然の提案と共に、銃弾がマーズに迫る。近づいて来ていた敵に気づいてもいなかったマーズだったが、額に直撃する寸前で氷の板が防御をこなした。僅かな風圧で赤いマフラーが揺れる。


「それはこっちのセリフだ……プルート!」


 マーズを守った男は『水色』のマーキュリー。無精髭やボサボサの髪は相変わらず、しかし目付きは鋭くプルートを睨んでいた。その『灰色』のプルートはというと瓦礫に背中を預けリラックスしている体勢。


「面倒くさいね……スターク、君に任せるよマーキュリーの事は」

「おー任せとけ」


 『紫色』のスタークはプルートの背後から這い出るように現れた。ワンの宣言と同時に、右の掌にある発射口からエネルギー弾が放たれる。対してマーキュリーは再び氷の板を作り出し難なく弾いた。


「オレサマもいるんだぜ〜!」


 マーキュリーを追ってきた一人の女性が、トンファーによる横方向の打撃で氷を打ち砕いた。バラバラになった氷のつぶては、エネルギー弾のお返しと言わんばかりの勢いで二人に迫っていく。

 女性の正体は『緑色』のドボラックで、歯を見せた笑顔で挑発も繰り出していた。更に追撃としてトンファーの先端から風の弾丸も放つ。


「いくよロディ」

「させない!」


 瓦礫の陰に隠れていた二人が飛び出す。氷のつぶてを『黄色』のロディが、風の弾丸を『ピンク色』のユニバースが素手で触れる。氷は逆再生、風は時を止められた後にサーベルで真っ二つに断ち切られた。

 ユニバースはドボラックを睨み、右に持ったロッドと左に持つサーベルを強く握りしめる。以前のユニの記憶が少し干渉したのか、ドボラックの姿を見ると苛立ってしまっていた。

 氷が歯向かうように向かってきたため、マーズら三人はそれぞれ違う対処法を行う。マーズは炎で真正面から溶かし、マーキュリーは右腕に盾を創り防御。ドボラックは体を跳ねさせ避けるが、あえて何回か傷をつけるように当たっていた。

 彼らに更なる攻撃を加えようと、プルートは両腕の補助パーツを小銃へと変形させた。たが次の瞬間、彼のかかと近くに落ちていた何者かの小指が変形。『ベージュ色』のスキンクァへと姿を変え襲いかかる。


「喰らえぇぇっ!」

「……ウラヌス」


 奇襲を読んでいたプルートは名前を呟いた。案の定『オレンジ色』のウラヌスが背後に瞬間移動し、双剣の斬撃でスキンクァの上半身と下半身は別々に。


「残念でした! だね」

「さっきの風に紛れて肉体の一部を飛ばしてきたらしい。他にも転がっている可能性もあるし……皆も気をつけた方が良いよ。いざという時はウラヌスを呼べば良い」


 一切振り向かずに注意を促していた。スタークは頷いていたが、ユニバースとロディは苦い表情を浮かべる。特にユニバースはウラヌスの名前を呼びたくはなかった。

 するとドボラックがポケットに仕込んでいた親指を投げ、再びスキンクァが現れる。


「惜しかった……」


 まだ僅かな頭数しか増殖していないため知性はあった。首を傾げ、体のあちこちは痙攣を起こしているかのように動き続けている。


「これで全員集合?」


 ユニバース達リベリオンズは横並びとなり、威圧を彼らに向けていた。

 右からスターク、ウラヌス。真ん中がプルート。続いてユニバース、ロディが並んでいる状態。

 対して人類保護派はスキンクァがロディ、ドボラックがユニバースの視線の先に立っている。同じようにプルートにはマーズ、スタークにはマーキュリーが。一人余ったウラヌスは仕方なくマーキュリーの方に顔を向ける。


「『5人の人造人間が人間を襲い虐殺』というギャラクが予見した光景。今からそれが実行されるんだよ」

「俺はそんなやり方認めない……コスモの想いは俺が継ぐ!」


 それぞれリーダー格のプルートとマーズが覚悟を叫ぶ。マーズの言葉にユニバースは歯を食いしばり、コスモを想う人間が他にいた事に嫉妬を覚えてしまっていた。


「さ、いくよ?」


 プルートの小銃連射と共に戦いの火蓋は切って落とされた。




 *




「うーん、オレっちが手を貸さなくてもスタークだけで十分な気が……」


 二人でマーキュリーを追い詰め、勢いに乗ったスタークは完全に優勢。ウラヌスが立ち止まっても勢いが止まる様子も無い。ウラヌスは他のメンバーの援護に移ろうと辺りを見回した。


「ワープゲートを使ったらスタークの能力でバレる……なのにどうして直前まで気づけなかったんだろ」


 人類保護派の襲撃を勘づけなかった事に疑問を抱きながら弓を構え、いつでも打てるように準備を整えている。

 と、その時。ウラヌスの耳に銃撃音が入り込んだ。転がり込む事で避け、振り返り背後から放たれた銃弾の主を彼は目にする。


「……あなたは」

「また会ったね、ウラヌスくん」


 青色のジャンパーを羽織っており、灰色のシャツも見える彼は『青色』を手にしたガイオスだった。右手には拳銃が握られている。ウラヌスは脳内データからガイオスとの記憶を瞬時に生成する。


「ああ、ガイオスさんでしたね。……まさか、オレっちと敵対するなんて」

「……自分も悲しいよ。だって君はもう、本来の君じゃないはずなのに」


 ユニバースだけでなくガイオスにも指摘されウラヌスは動揺してしまう。それをかき消すように、弓を双剣に変形させ目付きを鋭くした。


「だったら」

「なんだい?」


 能力を知っているにも関わらず、ガイオスは声を上げてしまう。するとやはりウラヌスは【ラヴ・イズ・ヒア】を発動させ背後に瞬間移動。二つの剣を縦に振り下ろした。


「残念でした……!」


 もうすぐで背中に深い切り傷が出来てしまう瞬間。反応速度を超えるほどの弾丸がウラヌスの右肩を貫いた。何が起こったのか判断できないウラヌスは後ろに飛び退きガイオスを睨む。


「いったい何を……」

「これだよ」


 食い気味にガイオスが話し、拳銃の銃口を人差し指で叩く。そこからは細い水が流れ出ており、辿っていくと肩を貫いた銃弾にまで、まるで紐のように繋がっていた。先程避けた弾丸が水によってコントロールされ、こうやって戻りながら攻撃していた。


「水はこんな風に応用できるみたいだね」


 続いてガイオスは二発の弾丸を打ち出す。ウラヌスは高く跳躍する事で避けたが、着地の瞬間に無機質な金属音が響く。


「え?」


 右手が切り落とされ転がっていた。確かに回避したはずなのに、感触も無かったはずなのに攻撃を受けた。その事実にウラヌスは困惑を隠せていない。


「水は弾丸と弾丸を繋ぐ事もできる。つまり、細い糸のような水はまるでカッターのように扱う事も可能という訳だよ」


 自らの感情を押し殺すような小さな声。


「ガイオスさん……オレっちを殺す気?」


 切断された右手から素早く双剣を回収したウラヌスは、弓へと変形させた後に左手だけで支え、現れた矢を口で引っ張り構えた。


「残念だけど……そうだね。自分がウラヌスくん達を船に乗せていなかったらこんな事にはならなかったんだ。……だから、自分の責任なんだ。誰がなんと言おうと」

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