Truth

「プルート……僕達、やったよ」


 無事に、とは言えないもののギャラクを討ったのは事実。随分と荒っぽい方法だったが致し方ない。


「こちらこそ礼を言わないとね。これで僕に課せられたはスムーズに突破できるよ」


 しかしやはり彼の言っている事は理解が及ばない。安全を確保できる場所まで移動できたら話を聞きたい所だ。


「プルート! 気に入らねぇやつが……っと、俺ももう限界みたいだ。じゃあな!」


 ギャラクの足元で佇んでいたポセイドの分身は、諦めの言葉を発した途端液体へと戻っていく。本体が死んだ事で既に覚悟は決まっていたのか、足掻いてはいなかった。

 そしてプルートは近づいて来たかと思うと、ギャラクの視界にあえて入り見下ろす体勢となった。


「なっ、プルート……? どうしてお前が……」

「ありがとうね、僕の為に動いてくれて」

「まさか……最初から俺を嵌める気で……っ!?」


 血を吐きながらもギャラクは驚いてる様子を見せた。彼のもみあげや後ろ髪はおかげで所々赤く染まってしまっている。


「コスモが武力を使い、俺を打倒しようと考えている……その情報を教えてくれたのはプルート! お前じゃないか……」


 僕も初耳だった。ギャラクとプルートが旧知の仲だという事はヴィーナスの記憶から見て知っていたが、情報を横流ししていただなんて。


「僕は最初から、君を友達だなんて思っていなかったよ。人類の事は嫌いだけど……息子であるはずのコスモを駒として扱った君は、もっと嫌いだったよ」


 ヴィーナスの記憶で見た光景からは到底信じられない発言だ。でも実際こんな状況になっているのだから、彼がギャラクと過ごした日々は全てが偽り。それが真実なのだろう。


「という事は、ユニバースをスパイとして活動させようと提案したのも……」

「うん、一部だよ。僕の計画のね。君が初めて人造人間を殺したあの日……あの頃から親身になって相談に乗っていた甲斐があったよ」


 今にも涙を流しそうな雰囲気のギャラクとは対照的に、プルートは優しい笑みを向けて喋り続けていた。彼の過去を聞くより先に、今回の件をどこまで把握していたか伝えてもらう必要がありそうだ。


「えっとつまり……コスモが反逆しようとしている事をギャラクに教えたのもプルートで、僕をスパイとして使おうと考えたのもプルート……って事?」


 自分なりの推測を問いかけ、彼からの応答を待った。もしこれが真実ならば、全てはプルートの掌の上で転がされていたという事になる。だとしたら、少し嫌悪感を抱いてしまう。


「まあそんな所だね。でも勘違いしないで欲しい。僕は君を道具として扱ったんじゃない……イシバシが原因でギャラクに殺された君が、すっごく哀れに見えてしまったんだ」


 やはり僕にも薄い笑みを。この言葉に嘘の色は見えなかった。確かに一度死んだ僕を生き返らせてくれた事には感謝するし、こうして復讐と反逆のチャンスも与えてくれた。


「でも、だったらコスモはプルートのせいで死んだって事じゃないか……!」


 迂闊に口走ってしまったと直後に気づいたが、訂正する気はない。仕方ないじゃないか……事実なのだから。


「……でもギャラクには対話なんて通用しない、それは僕が一番理解していたよ。できれば彼も死なせたくは無かったんだ」


 するとプルートは突然振り向き目線を変え、コスモの死体の方へ。その時どんな表情をしていたかは勿論分からない。

 三秒ほど経った後、再び僕を視界に入れるように向きを戻した。しかし目玉が見つめている先は僕の右、恐らくウラヌスの死体。僕も釣られて体を曲げると、右足だけでなく右腕ももぎとられたウラヌスの姿が目に入った。


「覚悟はしていたけど……こんなにも、悲しいなんてね。これだけパーツが壊れているとなると、もう完全な修理も諦めるしかない」


 プルートは珍しく弱音を吐いた。そしてウラヌスの死体へと接近し、しゃがんで頭の上に右手を乗せた。初めてプルートとウラヌスが邂逅したあの時と同じく。しかしウラヌスの頭も破損しており、触り心地はお世辞にも良いとはいえないものだと見て取れる。


「だけどウラヌス、君はただでは死なない……そうだろう?」


 きっと右腕と武器がロディへと引き継がれた事なのだろう。それ以外には心当たりもなく、僕も哀しい気持ちになってしまう。


「……僕の計画は成功した。これで人造人間は食物連鎖のランクを一つ上げ、人類を超える」

「ちょっと、待ってよ……」


 立ち上がり再びギャラクの元へ歩き始めたプルートに、反論の意を唱えたのはロディ。彼の黄色い髪は乱れきっているが、精神状態は落ち着いてきているみたいだ。


「コスモはあくまで共存を目指してた……ボクは人類の上に立ちたいだなんて思わない!」


 ロディの意見も理解できる。けれど僕は、つい先程『無理やりにでも共存させる』と言ってしまったばかり。そうでもしないと、コスモの願いは叶いそうにないから。


「でもロディ、君は君を襲った人間の事はと感じたんだろう?」

「うっ……それは」


 反論もまともに出来ていなかった。僕とロディを襲ったあの警備員達は本当に大嫌いだし本当に醜いと思っている。


「強制はしないよ。でもその醜い人間は僕達の下に置いても良い……君もそう思うだろう?」

「う、うん……」


 これもロディは正直に答えていた。彼が男になった理由も襲われた、というものだった。一部を見下す事も仕方ないとは言えるはず。


「分かってくれれば良いんだ。ギャラクの様に説明すると……『人造人間が上に立つ事は愚かな人類のためなんだ』ってところかな」

「うっ、ぐぅ……!」


 挑発の意味が大半を占めた発言は、ギャラクの体以上に心にも痛みを与えた。


「……分かってくれたかな二人とも。今回の事件は僕が引き起こした。“コスモの動向を探る”という嘘の目的をギャラクに告げ『人造人間保護派』に入り、反逆の物的証拠を掴むためにユニバースを利用……これもギャラクを騙すための嘘だね。と言っても、元凶はイシバシっていう汚い人間だけど……」


 なんとなくは理解できた。でもますます、プルートの正体と過去が知りたくなってくる。何故こんなにも人造人間にこだわり、人類を憎むのか。人造人間を生み出した張本人だから、という理由だけではここまでの行動は移さないはずだ。


「詳しくは別の場所で話そう。さっさとここから離れ────」


 僕達三人が気を抜き、ギャラクに背を向けていた瞬間。背後からは突如風が吹き荒れる。急いで体を後ろ向きにするも、その時には身体が宙に浮いていた。


「うわあっ!」


 思い切り風に吹き飛ばされスタジオの壁に激突。しかし大したダメージは無かった。ギャラクの様子を確認すると、右手はこちらに向けていたが左手は真っ白な床に密着させている。


「最後の【ひっぱり愛】だ……!」


 するとギャラクが座り込んでいた床が抜け落ちるように倒壊する。風を使い床に衝撃を与えた事による結果だと察したがもう遅かった。逃がすまいと僕の足は動き始めていたが、同時にギャラクが空いた穴に落ちていくのも見えてしまった。


「しまったね……ん?」


 プルートだけでなくロディも吹き飛ばされており、悔しそうな表情。だがプルートは何かに気づいたようで疑問と期待の声を上げた。



「やっぱりただでは死なないんだね……ウラヌス! 本当に大好きだよ、君のこと」



 プルートが狂気の瞳で見つめていたのは、ウラヌスの死体があった場所。そこには鉄くずやケーブルの残骸が少し散らばっていたものの、先程まで倒れていたはずのウラヌスの体は、何故か丸ごと消えてしまっていた。

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