Final

「ロディ……殺す勢いでやらなきゃ、こっちがやられるよ」


 右に立つロディに向けて警告した。今までの戦闘を見ていたのなら周知の事実ではあったが、と考え、僕自身への警告でもあった。


「うんわかってる。それにこの右腕もだんだん慣れてきた……! 痛みによる隙はもう、無い!」


 彼の様子を伺うと凛々しい表情へと変わっていた。涙の跡があり目は赤く充血しているものの、鋭い目付きは頼りがいすら感じる。


「貴様ら……人造人間なんかにぃぃぃ」


 自爆をしでかしてしまったギャラクだが態度は変わらない。変わっている所と言えば、傷だらけで息も絶え絶え。更に足元はおぼつかない。


「一緒に行こう」

「……うん」


 同時攻撃を仕掛ける提案を口にする。先に動いたのはロディだった。置いていかれないように僕も駆け出し、右腕の制御をヴィーナスさんへと授ける。

 弓に変形するはずだった双剣を、ロディはまるで薙刀の様に使用している。両手で支えられたそれのおかげで、追いかける僕に刃が当たってしまわないか不安ではあった。


「くっ……【ウェイクアップ・ラヴソウル】!」


 もはや何回聞いたのかどうかも覚えきれない能力名をギャラクは叫ぶ。いつもの様に氷のつぶては創り出され、僕の前を走るロディへと撃ち出された。

【ムーンライトフラワー】は“手で触れる事で逆再生が発動する”能力のため、一度に複数の方向から攻撃されると対処は難しい。これをギャラクは知っていたようで、氷の間隔は空いており、線で結ぶと六角形を作れるような形となっていた。このままでは二つ程度の攻撃は逆再生できても他にやられてしまう。


「ユニ!」


 しかしロディは突如立ち止まり僕の名を叫んだ。急に止まる事はできず彼を追い抜いたと同時、ロディの黄色の長い髪が僕の頬をくすぐってきた。その瞬間、彼が僕に何を期待していたのかは簡単に理解できた。


「わかった」


 ただそれだけの応答を告げ、僕は両腕を顔の前で組んだ。右のロッドと左のサーベルは下に向ける事で、ように仕向けた。


「【ワイルド・ファング】……!」


 負けじとこちらも能力名を口にした。コスモが使っていたあの力だ。向かってくる氷を右腕で受け止めると、上着を貫き素肌に先端が触れる感触が。しかし制止もしたため少しひんやりとしている。


「ロディ!」


 今度は僕の方から呼んだ。このまま防御するだけでは終わらない、きっとロディも僕の様に察してくれるはず。


「うん……!」


 予想通り背後からの返答があり一安心。僕は右の方へ走り出し、空中で制止していた氷を彼へと預けた。


「【ムーンライトフラワー】!」


 期待通りだ。声がした方を向くとロディは左に走りながら、薙刀を持った両手で氷に触れていた。間もなく逆再生は始まり、ギャラクの元へと襲いかかるはず。


「うぐぅ……」


 度重なる怪我によりギャラクの動きは遅くなっていた。【ネイキッド・ラヴダンス】で治療もできない現状に、彼が苦しんでいる事は明白。特に左手に空いた穴が痛々しい。


「同時、に!」


 必死に大きな声をロディは出していた。撮影スタジオの中心部に立ち尽くすギャラクの左手に僕が、右にはロディ。更には正面から逆再生される氷のつぶて。


「避けきれないよ……!」


 右手はヴィーナスさんによって上に掲げられ、ロッドで側頭部を殴打しようと企んでいる。対して僕は腹部を切りさこうと、サーベルを操り逆手持ちへと切り替えた。

 ロディはというと、彼の体には鈍重な薙刀を持ち上げ胸部を切り裂く体勢に。



「これが僕達人造人間の反逆……!」

「生きているボクたちの意思……!」

「死んでしまった人達の無念……!」



 僕に続いてロディ、ヴィーナスさんの覚悟が篭った発言。二人で同じ標的に向かって走り出した。確かな決意と希望を胸に抱いた僕達の体はさぞ熱くなっている事だろう。

 するとギャラクはなんとか逃れようと試みていたのか、またしても能力名を叫ぶ。


「【ひっぱり愛】で……! ここから……」


 自身へと風を放ち、傷ついてでもここから脱出するつもりの様だった。僕とロディは既に全速力。このままでは回避されてしまい取り逃してしまう、その瞬間。


 何者かの両腕が、ギャラクの足首をがっしりと掴んだ。


「なにっ……!?」


 ギャラクだけでなく僕も驚いた。だって両腕だけなのだから。しかし個人を特定する事は容易だった。溶けた氷で出来た水溜まりから両腕は生えており、続いてその主の頭も飛び出る。


の俺はやられちまったが……俺はまだやれる!」


 青い髪にあの目付き、間違いなくポセイドの分身。まさか一度消えた後も氷のおかげで発生した水溜まりに潜伏していたのか? しかし原型は保っておらず、鼻や左耳の一部が欠けている。ポセイドが死亡し、『青色』の残り火も少なくなっているのだろう。


「離れっ──」


 もがいていたギャラクの口を塞ぐように氷のつぶてが襲いかかった。もはや彼も喘ぎ声すら発していない。


「今だ!」


 ロディへの合図のつもりだったが、必要は無かったようで既に挟み撃ちの状態になっている。ギャラクとの距離が縮まり、全身に力が入り込む。



「はぁっ!!!」

「やぁっ!!!」



 次の瞬間、僕とロディはすれ違うようにギャラクへと攻撃を加えた。左側頭部にはロッドの打撃を、腹部にはサーベルの一閃。背中は薙刀で切り裂かれている。


「がっ……うぐぅっ」


 ギャラクは血を吐き、仰向けで情けなく倒れ込んだ。数々の重症を負い、流石のギャラクもここまでだったのか体を震えさせているだけ。僕達はこれ以上の追撃はしなかった。


「これで終わりだ。ギャラク」


 今度は僕が見下す体勢でギャラクへと終結宣言。これ以上傷をつけなくても、じきに出血多量で死亡する。そう確信するほど大量に血が流れ出ていた。


「これでボクたち人造人間が、自由になれ──」


 ロディも安堵し希望が混じった喋りの途中だった。撮影スタジオへと何者かの足音が入り込んでくる。当然ロディの言葉は途切れ、僕達二人は足音の方へと注目せざるを得なかった。


「見事だったよ二人とも。それにしてもギャラクが『黄色』と『ピンク色』に倒されるなんて……かつての妻と息子の力、ドラマチックだね」


 現れた人物はプルート。しかし僕と最後にあった時と違う点が一つ。後ろ髪が紫から灰に変わっている。

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