EPISODE 4 『狙われた二人』
Skink
「プルくん、なんだよ……」
紫色を所持している人物。その名を告げられるが、意外な人物ではなかった。プルートの髪は一部分だけ紫色をしていたし、もしかしたらとは思っていた。
「そっか……。でも、色の力を二つも同時に使うだなんて、そんな事できたんだ?」
一色だけでも膨大な力を得る事ができる色。でもだからこそ、コスモはプルートを仲間に引き入れたのかもしれない。
「いや、常人にはそんなこと到底できない。過去に二色同時に使用できるか試してみた事はあるらしいけど……結果は失敗。開始してからすぐに体が動かなくなって、三十分もしたら……死んでしまったんだって」
「だったらなんでプルートは……?」
頭の中にプルートの外見を思い浮かべる。そうだ確か、四肢に補助パーツを装備していたはずだ。
「もしかしてあの補助パーツ……あれで身体を動かしているから、なんとか二色の力を制御できてるのかな?」
「……そうだね、その可能性は確かにある。オレっちが理由を聞いても、何も答えてくれなかったけど」
プルートがウラヌスに答えを言っていなかったのは意外だ。いやウラヌスから一方的な好意を寄せられているから、そのせいかもしれない。
「まあ、能力の名前だけは教えてくれたけどね。【ミスター・トラブルメーカー】だってさ」
マーズの【仮面】やウラヌスの【ラヴ・イズ・ヒア】の様に、能力名と能力自体にはあまり直接的な関係は無さそうだけど、トラブルメーカーか……。プルートも問題児のような性格をしているし、ある意味関係はあるのか?
「さ、この話はやめやめ! コスモの様子でも見よ?」
するとウラヌスは右手の人差し指をさっとテレビの方に向けた。直後、テレビの電源はONの状態となり、ギャラクとコスモの公開対談を扱う番組へと画面を切り替える。
「……まだ、本格的な討論は始まってないか」
今はまだ幸いにも話し合いには至っておらず、二人がこれまでにしてきた政策の紹介や、町の声等といった前座だった。見る限りではギャラクに贔屓などはしておらず、どちらも公平に取り上げられている印象だ。
「この調子だったら間に合うかな。……コスモ達のところまで辿り着いたら、ギャラクが君に仕込んだ事を全て告白するんだ。そうすれば、ギャラクに対する支持率は下がり、彼は弱体化する。“アレ”も使ったら更に確実になるだろうけど、そこを力ずくで……って感じだね」
流れを再確認するが、やはり"アレ"の詳細を教えてくれない事に疎外感を覚える。それに現時点で色の力を所持している仲間はウラヌス、コスモだけだ。仮に僕が黄色の力を手に入れたとしても、ギャラクに太刀打ちできるのか?
「……戦力が足りないんじゃないかって?」
ウラヌスに考えを見透かされて戸惑う。彼の能力を把握していなければ、心を読む能力だと誤解していただろう。
「大丈夫大丈夫! プルくんも後から合流するし、あと一人……ある意味秘密兵器ってカンジの人を連れていくつもりだからさ」
*
身体を痙攣させる目の前の男に、プルートは僅かな慈悲を与えた。真っ白な包帯を使い、両肩や脇腹の傷を覆う。
「何故だ……。何故俺の手当てをする……?」
マーズは既に全身が血だらけの状態であり、辺りには血なまぐさい臭いが充満していた。だがそんな些細な事は気にせず、プルートは最後に右目に包帯を巻いた。
「殺しはしない。あまりメリットは無いんだ、ここで死なせても」
感謝と疑問の念がマーズの思考を覆う。プルートはマーズにとって明らかな敵であるが、こうして治療を受けると、彼への敵意は僅かだが薄れていく。
「……それじゃあ僕はもう行く。早く彼らを目覚めさせた後、二人と合流しないといけないんでね」
最後に、背中にへばりついた返り血を補助パーツで拭き取るとプルートは立ち上がり、歩き出す。マーズはそれを追おうとはしない。
「……追わないんだね?」
土を踏みしめながら六歩ほど歩いたところでプルートは止まり、振り返らずにマーズへ問う。
「お前も言っただろ。メリットが無いって。……俺がここでお前を追ってもどうせ返り討ちに合う。メリットなんて、無いだろ?」
それを聞いたプルートはため息と同時に肩を落とした。
「それに、俺に手当てをしている時に【仮面】は発動しなかった。つまり、俺に対して敵意が無いって事だ……。まあお前の事だ、眼中に無いだけ……って可能性もあるが」
痛みが収まってきたのか、マーズは余裕のある喋りへと戻る。するとプルートは振り向き、マーズと眼を見つめ合った。
「お任せするよ、ご想像に」
「……そうか」
マーズの応えを聞いたプルートは再び背を向け、連絡通路の方向へと歩き出した。マーズには少しの後悔があったが、それよりもプルートに対する敗北感の方が大きく、その場を動かず彼の背中を見つめる。
「……!? おいプルート!」
しかし次の瞬間、マーズの目には金属バット程度の大きさをした、針状の物体が見えた。それは一寸の狂いもなくプルートの頭部、こめかみへと向かっていく。
だがその物体は、プルートの頭部に突き刺さる直前で動きが止まった。彼の右腕に取り付けられた補助パーツの、肩の部分。それが瞬時にペンチのような形へと姿を変え、針状の物体の先端を捕らえていたからだ。そしてその物体の色は、ベージュ色。
「これは……なるほど、彼女か」
自身を襲ってきた人物を察したプルートは、物体を地面に軽く落とし、それが放たれたであろう場所、マーズの屋敷の屋根の方へと視線を向ける。しかしその瞬間、プルートから見て左の方向から再び物体は放たれた。
「おっと」
だが二発目も難なくプルートは同じ方法で、左腕の補助パーツを変形させキャッチする。すると今度は趣向を変え、物体が放たれた方へとパーツを操り投げ返した。
「ギャアっ!」
そんな悲鳴が聞こえると同時に、プルートは左へと頭を向ける。そこには、ショートのベージュ色の髪をした女性が倒れ込んでいた。緑色の洋服を身に纏い、肌を見せないほど長いズボンは髪色と同じくベージュだ。
「やったか?」
「……偽物だ」
マーズは獲物を仕留めたと想定したが、それは違った。見る見るうちに女性は小さくなっていき、プルートを襲った針状の物体へと姿を変えたかと思えば、粉々に砕け散った。
「なんだ……?」
状況が理解できていないマーズとは対照的に、プルートは何かを理解したように右足のパーツを銃剣へと変形させた。
次の瞬間、最初に襲ってきた針状の物体。プルートの足元に落ちていたそれが突如ベージュ色の女性へと変貌した。その間、僅か一秒。 女性の右腕は針状であり、彼を襲ったあの物体そのものであった。
「ヤアッ!」
「……無駄」
しかし寝転んだまま放たれたその鋭い右腕の一撃も、プルートには届かない。右足の銃剣の先端、刃の部分を針と衝突させる。その衝撃で生まれた隙を狙い、【イン・サイレンス】を地面に向けて発動したプルートは飛び上がってマーズのそばまで後退した。
「なんなんだ、あいつは?」
「彼女は恐らく『ベージュ色』の“剛体神将”スキンクァ。スキンク科のトカゲには尻尾を切り落としてもまた生えてくる奴らもいるけど……彼女は切り落とした部分から身体全てが生えてくるのか」
「ス、スキンク科……? なんだそりゃあ」
プルートによる能力の予想は合っていたようで、ベージュ色の女性、つまりスキンクァは立ち上がり薄ら笑いを浮かべる。彼女の前髪は長く、視線を確認する事はできない。
「そう、正解……! 私の能力、【愛しのサイコ・ブレイカー】……。切り離した体の一部からどんどん私は増殖していく……そんな力なのよ……」
ボソボソとした小声だったが、プルートとマーズ両者は真剣にそれを耳に入れていたため聞き逃す事は無かった。
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