Violet



「他の十三神将の情報も色々と載ってるんだ。ほら貸すよ」


 ウラヌスは端末を手渡してくれた。画面は十三神将の公式ページであり、誰がどの色を所持しているのかは、人目でわかる作りだ。画面の右上にある『…』をタッチすると、そこからぶら下がるように十三色の各項目が現れる。


「へぇー……。そういえば、青色はどういう扱いになってるんだろ」


 ポセイドは悪事を働いていたが、それでも十三神将だと過去に認められた男だ。僕は青背景に黒字で『BLUE』と描画されている箇所をタッチし、青色のページへと飛ぶ。

 そこには確かにポセイドの顔写真とプロフィールが表記されていたが、同時に強盗、殺人、不法侵入等の罪状も並べられている。『新着情報』を見ると、三日前にポセイドが刑務所送りになった事が公表されていた。


「よかった……コスモは殺しはしなかったんだ」

「そういえば、ユニくんはポセイドが死んだかどうかは知らないんだったね~……。今は『カロン』にある刑務所に、青色のカプセル共々ぶち込まれてるよ」


 コスモ達がどうやってポセイドを撃退してくれたかは分からないが、手を血に染めていなくて安心した。



「それじゃあ……これは?」


 今度は『BROWN』をタッチし、茶色を担当している人物の情報が確認できる……と思いきや、名前と“大地神将”という称号以外には何も表示されていなかった。『サターン』という名前以外。


「この人は、本当に何も情報が無いんだ。惑星の地下にある資源を集めて各コロニーに送っているらしいけど……。その姿を見た者は誰一人いないらしい。いや、見た人間がいたとして……始末されたのかもしれない」


 珍しくウラヌスが重々しい雰囲気で喋った。普段は悪い意味でも軽すぎる気がするのに。このサターンとかいう人物に、警戒はしておくべきかもしれない。



「『緑色』と『ベージュ色』は恋人同士なのか……」


 僕は『GREEN』の箇所をタッチしたつもりだったが、表示された画面は左側にベージュ色、右側に緑色の情報が表示されていた。二人はカップルで同棲中……なんて、全く興味が湧かない情報が新着の一番上に固定されている。


「『緑色』の“疾風神将”がドボラックという女……」


 派手な緑色で染められたボブヘアーの女。満面の笑みで写っているが、この女からはポセイドと似た雰囲気を感じる。暴力的な……そんな気がする。


「そして『ベージュ色』の“剛体神将”がスキンクァって女性だね」

「女性同士のカップルなんだ……」


 この女は薄笑いを浮かべているが、ドボラックと同じく裏があるような顔だ。長い前髪で両目がほとんど隠れていても、それは感じられる。


「この二人はギャラクに忠実な部下でもある。……カイルスの所に居た時に聞いた」


 嫌な記憶を思い出させてしまったようで、ウラヌスは下を向いて言った。やはり、何気ない言動で他人を困らせてしまうのは辛い。

 これで十三神将のほぼ全員を確認できた。僕は最後に『LIGHT BLUE』の項目を選ぶと、“マーキュリー”という人物の情報が表示される。


「結構イイ感じのお兄さんでしょ? “薄氷神将”さん」


 画面を覗き込んできたウラヌスの言う通り、マーキュリーはコスモより少し歳上で、うっすら髭も生えており、水色の髪の毛も整えられておらずボサボサしているが人が良さそうな印象だ。


「この人は所謂『中立派』なんだ。多分ギャラクにも、オレっち達にも協力はしてくれないだろうね。……自分の育ったコロニーだけを管理していくつもりらしい。そっちの方が、気楽そうだけどね」


 今まで確認した十三神将は……


『水色』のマーキュリー。

『緑色』のドボラック。

『ベージュ色』のスキンクァ。

『黄緑色』のジュピター。

『茶色』のサターン。

『灰色』のプルートと、十三神将では無いけれど、『オレンジ色』を所持しているウラヌス。

『青色』のポセイド。

『赤色』のマーズ。

『ピンク色』のコスモ。

『白色』のギャラク……

 そして『黄色』は今のところ誰も担当していないって聞いたけど……



「あれ? 紫色って……?」


 項目が多いものだから忘れていた。僕は『PURPLE』をタッチし、最後の十三神将を確認……するはずだった。


「えっ……? 紫色は誰かの手に渡ってる事は書いてあるけど……『茶色』のサターンとは違って名前すら書いてない……『不明』ってどういうこと? いったいどうして?」


 困惑している僕を尻目に、隣に座っていたウラヌスはオレンジジュースを一気に飲み干すと、何かを決心した様に口を開いた。


「実はね、僕やコスモ、マーズは『紫色』の在り処を知ってるんだ。今『紫色』を操っているのはね……」


 意識せずに唾を飲み込んでしまう。僕は黙ってウラヌスの言葉を待った。




 *




「どうかな……これは」


『灰色』の使い手は自身の四肢に取り付けられている補助パーツを変形させ、それぞれを武器の形へと変貌させた。両腕には剣を、両足には小銃だ。


「……こいつは厳しいな」


 全身が武器である人間に対し、『赤色』の使い手は多少ながら恐怖を感じていた。自身の能力である【仮面】は右目を斬られた事により発動しにくくなり、炎程度では銃弾を止めきれないからである。


「力ずくで分からせる」


 プルートが右手を自身の足元に向けると、【イン・サイレンス】が発動し立っていた地面の一部分が棒状となって浮き出る。その瞬間の衝撃を利用し、プルートはマーズの方へ飛び上がった。


「……できるものならな。行くぞ、『神炎しんえん』マスクド・ボルケーノ!」


 負けじとマーズも右手に炎を集め、向かってくるプルートへと撃ち込んだ。右目を負傷しているものの、その狙いは正確だった。

 視界を遮る様に、プルートの目の前で炎は一気に横長に広がる。おかげでプルートの動きが止まった一瞬。その隙にマーズは背後へと回り込んでいた。


 決まった。マーズはそう確信していた。しかし炎撃を加えようとしたその瞬間────。

 プルートの二つの剣が、マーズの両肩を貫いた。


「がぁっ……!?」


 珍しく狼狽えたマーズは、何も抵抗などできずその場に倒れ込んだ。更に追い討ちとして、プルートの両足にある小銃が脇腹へと弾丸を二発撃ち込んだ。傷跡からは血液が濁流の用に流れ始める。


「……かはっ」


 あまりの激痛に、それ以上の声は出なかった。ただ体を震えさせるだけしか、マーズにはできなかった。


「できたね。力ずくで分からせるって事は」


 プルートは四肢の武器を元の補助パーツへと戻し、生身の足でマーズの頭を踏みつけた。


「視界を奪ったはず……なのに何故、俺が後ろへ回った事を……! まさかっ!? 『紫色』……?」


 命の危険を感じ、心臓の鼓動が速くなったマーズは、僅かながらに声も震えている。その様子を見たプルートは薄笑いを浮かべ、親切に答えを返した。



「僕のもう一つの能力だよ。【ミスター・トラブルメーカー】っていうね。“生命の無いものに自我を芽生えさせ、僕の思い通りに操る”能力。今回は補助パーツにそれを使い、迎撃させた。『紫色』の力さ」



 プルートは自分の後ろ髪を引っ張り、情けなく倒れ込んだマーズに見せびらかす。その部分の色は確かに紫色であった。

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