EPISODE 3 『暴かれた真相』
Uranus
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夢を見た。右足を失ったコスモが、病室で泣き崩れている。“僕”はそれに何も反応はせず、黙って部屋を去った。そんな夢を。
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「ん……?」
目が覚める。綺麗な白い天井が僕を見下ろしていた。ここは『人造人間保護派』のアジトだろう。
「あぁ、やっと起きたんだね。丸三日寝ていたんだよ、君は」
体を持ち上げ声が聞こえた方を見ると、向かいのソファに灰色の髪をした青年が座っていた。後ろ髪の首にかかっている部分だけ紫色をしていたり、腕や足に機械のパーツが備わっているのが少し気になる。
「僕は十三神将の一人、『灰色』を持つ“狂機神将”のプルートだよ」
「あっ、コスモが言ってた人って……」
コスモからカプセルを貰った時の事を思い出す。確かあのカプセルを作った人物が、このプルートという青年だろう。
「君はユニバース、かい?」
「えっと……うん。そうだけど」
「本当に?」
食い気味に発せられたその言葉は、三文字という短い文字数ながら僕を困惑させた。
「君はユニバースという半人造人間なのかい、本当に? 他の誰かだったりしないのかい? 例えば、実は女性とか」
普通の人間ならば即答するだろう問いを、僕は答えられなかった。パーツが壊れたせいで記憶を失った、ロディとの会話からはそう解釈していたが、改めて自分の存在に疑問を持つ。
「わからない……記憶が、壊れたから」
正直に言った。今の僕にこれ以上の解答は無いだろう。
「そうか……僕が調べた限り、君の身体は何も壊れていないけど」
即座に自身の胸の部分を触る。確か背後から貫かれた……でも、今は何事も無かったかのように正常な状態に戻っている。
「あとね、君のデータを調べてもらった所……見つかったんだよ、非常に香ばしいものが。それはね……」
衝撃の事実を突きつけられる、そう覚悟していた矢先。突然部屋の入口から一人分の足音が聞こえてきた。
「やっほープルくん! ユニバースって子は起きた〜?」
通路の方に顔を向けると立っていたのは、腰にまで伸びているオレンジ色のポニーテールが特徴的な人物。長いまつ毛や綺麗な肌からは女性的な印象を受けるが、体格や声で男性だと分かった。
オレンジ色のパーカーを着ていて、黄緑色の短パンも履いているのはいいが、男なのに黒色のニーハイソックスも着用しているのは違和感がある。
「遅かったねウラヌス。ちゃんとやり切れたかい、“アレ”は」
どうやら彼の名前はウラヌスというらしい。僕は彼から目を離していないつもりだったが、プルートの発言と同時に僕の視界からウラヌスは突如として消えた。
「え……?」
呆然とした表情を浮かべた僕を嘲笑うかのように、ウラヌスの声がプルートがいる方から聞こえてくる。
「だいじょぶだよ~! オレっち、プルくんのお願いはなんだって聞くから、さ……」
急いでプルートの方を向くと、ウラヌスはプルートの背後に、ソファを挟んで立っている。プルートの首に手を回し、まるで恋人同士のようだ。
「知らなかったねユニは、ウラヌスの能力を」
迫ってくるウラヌスを気にも止めず、プルートはウラヌスの能力を説明してくれるらしい。僕は二回も頷いた。
「こいつの『オレンジ色』の能力、【ラヴ・イズ・ヒア】は……」
「“声を発した対象の背後に瞬間移動する”能力だよ!」
かき消すようにウラヌスが口を挟んだ。正直、こんな感じに話に割り込む人間は好きじゃない。
「へー……」
呆れも混じった適当な返答をした途端、僕の視界からウラヌスは消え、僕の頭に何者かの掌が乗せられた。
「もちろん、誰の背後に移動するかどうかは任意だよ?」
背後からウラヌスの声が聞こえた。どうやら能力の説明は嘘ではないらしい。
「そういえばまだ言ってなかったね、僕の能力も」
プルートが僕に視線を向け、真剣な眼差しで話を始めようとした時だった。ウラヌスがプルートの背後に戻り、嫉妬したような目で僕を見つめてくる。
「……僕の『灰色』の【イン・サイレンス】、その能力は“生命の無いものを右の掌に引き寄せる”というものだ。こんな風にね」
プルートは右の掌を僕の方へ向けた。すると僕の胸が彼の方に引っ張られ、瞬く間に前方へと浮き上がる。このままプルートの側まで近づくだけかと思いきや、予想外の事態に見舞われる。
「んっ……」
ソファに座っているプルートの掌に、僕の胸の部分を中心に身体が引き寄せられたという事は……僕の頭はプルートよりも少し上に位置する事となる。するとプルートに後ろから抱きついていたウラヌスと、見事口づけに成功してしまった。
「うぁっ……ご、ごめん!」
すぐにウラヌスの唇から逃れたが、彼は驚きのあまり口を開いたまま何も反応はしていない。
「……仕返しだよ。普段から僕にウザ絡みしてくる君へのね。ちなみに【イン・サイレンス】は、極端に軽い服や、重いコンクリートとかは引き寄せられない」
プルートは能力を解除したようで、僕の胸から彼の掌は離れた。でも……ウラヌスの事が心配だ。
「そっか、プルくんはこういうのでも興奮するんだね……! プルくんが望むならオレっちは従うから!」
僕は再び呆れた。こんなふざけた人物が“十三神将”のオレンジ色の担当だなんて。世も末だ。
「ねぇウラヌス……本当に君は十三神将としてのプライドはあるの?」
思っていた事を正直に言った。コスモの話だと黄色の担当が不在らしいが、今すぐにでもこいつのオレンジ色を奪い取ってやりたい。
「……無いよ、そんなの。だってオレっち十三神将なんかじゃないもーん」
頭の後ろで手を組み、すっとぼけた様子で僕から目線を逸らしたウラヌス。
どういう事だ? 色の力を持っているという事は十三神将の一人、という事じゃないのか?
「無理やり『オレンジ色』の力を奪ったんだ。……ある意味すごいよ、こいつは」
「世間じゃ『オレンジ色』の十三神将は行方不明扱いだけどね! コスモが匿ってくれたんだ!」
三度呆れ、更にコスモへの懐疑的な気持ちも生まれてしまった。こんな奴を仲間に入れていたなんて、少し期待はずれだ。
「していいかい? 話の続き、さっきのを」
複雑な感情でその場から動けなかった僕に、プルートは助けを出してくれた。僕のデータの事、ウラヌスに邪魔されて中断されていたし。
「えっなになに?」
するとウラヌスはプルートの隣に座り、身体を擦り付けるようにして動き始めた。本当に気持ち悪い。
「君はね、恐らく……」
ウラヌスの事を完全に無視して話を始めてくれたプルートに感謝したが、直後にそれどころではない事実を突きつけられる。
「スパイだよ。ギャラクのね」
……言葉も出なかった。僕が、ギャラクのスパイ?
「君の頭の中には位置情報を知らせるGPSが内蔵されていた。盗聴器で聞いた内容や、記憶のデータもどこかに送られている……。それを調べたところ、『カロン』というコロニーにある……ギャラクの本拠地だったという訳だよ」
必死に記憶を掘り起こそうとするが、コスモと初めて会った直前。それ以前の記憶が全く思い出せない。いや……それ以前なんて、実は捏造された記憶で何も無かったのか……?
他の仲間が死んだ記憶だって、他のスパイとしての機体が機能停止したのを、勝手にデータとして共有していただけだったんじゃないのか?
「君と同じようにスパイとして用意された人造人間3人は、調べたらすぐに見つかった。君とコスモが遭遇した直後に、それらはシャットダウンされ死人も同然となったけどね。今はGPSやらなんやらの機能は停止させているけど……僕が君の体を調べる以前の事。それは全て、ギャラクに筒抜けだろうね」
ポセイドを迎え撃った日の事を思い出す。確かコスモはこう言っていた……
『寝てる間に親父から連絡があった。マーズと手を組んでポセイドを撃退しろ……だとよ』
コスモがマーズと一緒にブレイズにいた事がバレていたのは、きっと僕の体を通じて状況を把握していたからだろう。
「それとね……見てみなよこれも」
するとプルートはタブレット端末を取り出し、それの画面をこちらに向けてきた。ウラヌスも自分の端末を取り出し、プルートと同じ画面を映し出している。
「これは……?」
「ポセイドを捕らえた功績を讃えられ、コスモとギャラクの公開対談が認められた」
白を基調とした撮影スタジオにはコスモとギャラクの姿が見えた。二人は画面の左右に寄り、四角い透明なテーブルを挟んで真っ白なイスに座った。
「でも僕からこの部屋の情報とかはダダ漏れなんでしょ? つまりこれって……」
「ただの出来レース、だね」
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