Aphrodita
コスモの提案に、僕は乗れなかった。当たり前じゃないか。いきなり十三神将とかいう重役になれ、なんて。
「おいコスモ、まずは理由から説明したらどうだ?」
どう反論すればいいか迷っている所にマーズが助け舟を出してくれた。でもどんな理由があろうと、僕なんかに十三神将の一人が務まるとは思えない。
「いざ理由を話すとなると、こんなにも息が詰まるもんなんだな……」
もったいぶるコスモにまたしても苛立ちを覚える。自分から餓死しようと試みていた僕に声をかけ、わざわざここまで連れてきた理由は、確かに気になるんだ。
「……まずは、俺と親父の関係から話す必要がある。俺は、後天的な半人造人間だ。一年くらい前に事故で足を怪我して、こんな状態なんだ」
履いている黒いズボンをコスモは膝の辺りまでまくり、そこまでが機械的なパーツが組み合わさってできているのが確認できた。
「親父は『白』の力を手に入れてから人造人間を嫌ってたらしい。半かどうかも関係なく、な。だから俺が後天的であっても人造人間になってしまってからは、俺に対しての親父の対応は……最低に冷たかった」
僕が先天的な半人造人間だから、というのもあるだろうけど、ギャラクに対しての印象は更に悪化した。
「ああ、本当にギャラクの奴は気に入らない」
マーズが少しだけ口を挟んだ後、話しの続きをしても良い、とでも言うようにコスモに対して視線を向けた。
「……さっき親父のコネって言ったけどな、十三神将を目指した俺に、親父はバカにするようにピンク色の担当に俺を推薦したんだ。
『そうか……お前が十三神将になったとしても何も変えられないだろうな、人造人間の肩身が狭くなるだけだ。……せいぜい俺の駒として頑張っておけ』
そう、言ってな」
改めて絶句した。ギャラクにも息子に対しての情くらいはあると思っていたが、利用しているだけだなんて。行き場の無い怒りは、僕の右手がソファを思い切り掴む事でそこから逃げていく。
「“十三神将”……その中で最も力の強い色。それがギャラクの『宇宙の白』だ。強大な力と権力に頼り、子供さえ利用する。『希望のある未来を白と共に』とかなんとか言ってるが、何が白だ……! 真っ黒としか言いようが無い」
マーズは身の回りの何かに怒りをぶつけてはいないが、ピリピリと熱い空気がこちらに流れてくるのを感じる。もしかしてこれがマーズの『赤色』の力の片鱗?
「話を戻すぞ。……俺がピンク色の担当になってから、人造人間に対しての保護や保険、娯楽施設の利用やら燃料の値引き……色々と試したんだ。そしてようやく……俺の頑張りが世間に認められようとしていた。それが、一ヶ月前」
察した。感の悪い人間でも、コスモの活動がギャラクにとって不都合だった事は簡単に理解できるだろう。
だがそれは同時に、コスモの活動は民衆の意見の流れを変える程に大きかった事も、僕には分かる。
「俺の努力は……無駄。そう、親父が俺の喉元にナイフを突き立ててきてるように感じた。でも俺は諦めきれなかった……だからユニ。お前に、十三神将の一人になってほしいんだ。“半”人造人間である、お前に……! お前なら、俺を超える速度で人造人間である皆の支持を集めて、親父を十三神将の地位から叩き落とせるはずだ!」
僕の両肩を掴んで語りかけてくるコスモの熱量は、先程のマーズから感じた空気とは桁違い。熱すぎるんだ。
「そ、そんな簡単に言ったって……。どうせまた、僕もコスモみたいになるのがオチなんじゃないの?」
思っていた疑問を口にした。僕は半人造人間だし、コスモよりも酷い目に合ってしまいそうだ。
「いいや、ギャラクが担当している『宇宙の白』の力はな、コロニー全体の、人造人間を含む住人の意見を反映している。あいつは過激になりきる事で、一部の人間の支持を集める。そしてその一部の人間に流される軟弱な人間の支持。これら二つを合わせてコロニー全体の60%……本当に、吐き気がしてくる。特に、流されるだけの軟弱者にな」
マーズの言葉で初めて知った。宇宙の白の事も、ギャラクの手法も。
「つまり、その60%を覆せる支持を皆から集めれば……?」
「ああ……力が弱った親父を、失脚させられる……!」
視界の左端に見えるコスモの表情は決意に満ちていた。それと、僕に対する期待も。
「ただ、その60%の殆どが人間だ。他40%の人造人間達の支持を仮に集められたとして……最低でも11%、ギャラクの支持者を奪い取る必要がある。だがそれに成功すれば、後は武力で何とかなる」
「ぶ、武力……!?」
突然言い放たれた物騒なワードに、考えるより先に口が動く。
「仮に俺の赤色とコスモのピンク色、それから『人類保護派』に協力してくれているあと二人……その全員を集めてギャラクに武力行使をしたとしても俺達の負け、だろうな」
マーズの言っている事とテンションが見合っていない。もっとこう、コスモみたいに感情を込めるものなんじゃないのか? こういう会話は。
「……最低でも51%の支持を集めて、親父を倒す。その後俺は……白と他の色、そして十三神将の制度自体を撤廃しようと思ってる」
またしても驚いていしまう。政治の手法を根本から変えようだなんて。本当に、このコスモという男は不思議だ。
「ユニ、お前には重い重い荷物を抱えさせてしまうかもしれない。それでも俺達に……俺に着いてきてくれるか?」
僕と初めて会った時のような微笑みを、再び僕に向けてきた。今度は、同時に右手を差し出しながら。僕は──それに応じる。
「……わかった。コスモの想いに着いていくよ、僕は」
大きく頷き、またしても手を繋ぐ。今度は、お互いに笑顔になりながら。そして僕は──コスモに抱きついた。
急な抱擁だったが、コスモは驚かなかった。きっと……僕の心が、暖かくなったからだろう。
「ありがとな……ユニ。感謝しても、しきれない……!」
「そのセリフ……言うにはまだ、早いよ。全部終わってからでしょ」
抱きつきながら、お互いの顔を確認せずに話す。出会ってから一時間も経っていないのに、コスモとの間には確かな絆と愛を感じられた。
しかし次の瞬間、予想外の事態が発生してしまう。部屋の中央奥の壁が突然折りたたまれるように開き、小柄な裸の半人造人間が出てきたのだ。
「ふぅ~長風呂しちゃった……え? コ、コスモ……なに、やってるの……!?」
僕とコスモは驚愕の表情、マーズは呆れの表情でその人物を見つめた。
彼の首から下は太もものつけねまでが機械でできており、僕のパーツと比べると比較的本物の身体に近い作りだ。美しい金髪は生まれつきのようで、風呂上がりだという事もあって煌びやかに光り見る者を魅力する。
「あ~、ロディ。これにはワケがあってだな……」
なるほど、さっき言ってたロディという人物はこの人だったのか。でもマーズは風呂に入っているなんて一言も言ってなかったし……。あれ、もしかしてマーズはこんなイタズラをするためにこの状況を狙っていて……?
「ワケなんて聞きたくない! ボク以外の男とそんな顔して抱きついてるなんて……! どういう事!?」
「いや結局ワケ聞こうとしてるんじゃ……」
僕自身は冷静にツッコミを入れたつもりだったが、それがますます彼のお湯を沸騰させてしまったようだった。
「……今すぐコスモの側から離れろっ!」
裸のまま、体についた水滴を撒き散らしながらこちらに迫ってくる。しかし、マーズが無言で立ち上がった途端、彼の動きは止まった。
「今は大事な話の途中だ……。それにロディ、コスモはお前の事を忘れてなんかいない。むしろ心配している。これは、お前の事を想ってもいる状況なんだ」
想っている、というのはかなり遠回しな表現だと僕は思う。確かに僕は人造人間のためにコスモに着いていくと言ったけど。
「なあマーズ……お前、こうやってロディを止める事で……俺とユニからの好感度を上げようとしたのか? ロディが風呂に入っている事を隠していたのも、そのために」
疑惑の目をマーズに向けるコスモ。すると、彼は僕達三人に目を向けて言った。
「……勘違いするな。別に、シリアスな空気になりそうだったからこうやって和ませるため、なんてそんな思惑……俺には考えつかないな」
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