Mars
コスモが、ギャラクの息子……?
にわかには信じ難いが、何も反論の一言すら発しないコスモの後ろ姿を見るに間違いでは無いと感じられた。
「お前が『人造人間保護派』とかいう組織に属しているなんて知ったら、ギャラクさんがなんて言うか……!」
「それは何の問題もない。……もう、親父には話したからな」
僕は再び驚く。迫害を繰り返していたあのギャラクだ。反乱分子となる者は息子であろうと容赦なく処分しそうな雰囲気があるのに。所詮ギャラクも人間で、息子に対しての人並みの情はあるのだろうか。
「く……そうかよ! 俺達はお前らの事をこのコロニー中の奴らに言いふらす! もうここに……居場所は無いと思え!」
ここを住処にしていた僕には確かに居場所は無くなったが、コスモはギャラクの息子だ。居場所なんてどこにでも作れるだろう。
股間を手で抑えながらなんとか立ち上がった男は、もう一人に介抱されながら僕達の前から去った。結局あいつらもギャラクに踊らされていただけ、そう思う事にしよう。
「なあ、俺を……信用できなくなったか?」
哀しそうな目でコスモは僕を見つめる。さっきの男に対しての視線とは大違い。
「まだそれを判断するには早い……と思うよ。だからコスモについて行くよ、僕は。信用するかしないか、そのために」
すると僕の答えを聞いた途端、コスモは僕を抱きしめた。急な抱擁だったが僕は驚かない。きっと、コスモが暖かいからだろう。
「……ありがとな。親父の息子ってだけで判断する奴とは、お前は違うんだな」
*
「それで、アジトってどこなの?」
コロニーとコロニーを繋ぐ連絡通路の入口に入り、コスモへと質問を投げる。彼とはかなりの身長差があり、僕とは恐らく……20cm程の差がある。もちろん、僕の方が低い。
首をすっぽりと隠すほどの襟があり、薄い紫色の服を僕は着ていたが、対照的にコスモは首と鎖骨を見せびらかしている。……意識していないのに、つい目が誘われてしまう。
「ああ、隣のコロニーの『ブレイズ』だ。そこに俺達の仲間が待ってる」
今僕達がいるコロニーには名前がなく、ただ数字で呼ばれているだけ。「コロニーNO.○」のように。ここはNO.6だ。
「『ブレイズ』……確か、火力発電で有名な所だよね? 僕も聞いた事あるよ」
連絡通路は直接繋がっているものと、ワープシステムが用意されているものの二つがある。ブレイズは火力発電で栄えている主要コロニーだったため、ワープシステムを利用する事ができた。
「でも、僕はワープ使うの初めてなんだよね……」
いざゲートの前に立つと気が引ける。身の丈の何倍もある灰色の円。黒と白のグラデーションが膜のように円に張り付いており、厚さは1mmにも満たないほど。
「怖がる事はないさ。ただ通るだけなんだぞ?」
コスモがからかうように笑っているのを見て少し苛立つ。何も知らない人にその言い草はないんじゃないか、と愚痴をぶちまけたくなったがなんとか抑える。
「……わかったよ。僕が先に行く」
少し恐怖はあったが、コスモを見返してやるという気持ちの方が大きい。
ワープゲートの前に立ち、深呼吸をする。
大丈夫、人間でいう、コンタクトレンズを初めてつける感覚と同じ。僕はそんな経験無いけど、それと同じ。そう聞いた事はある。
「……んっ!」
僕は一気に走り出し、無事体全体をゲートへ通す事ができた────
「あ……ここは?」
今の今までの風景と同じ。連絡通路のようだ。でも背後にはゲートがある……という事は、無事ワープには成功したのだろう。
「ふぅ~良かった……」
油断していたその時だった。ゲートからコスモが飛び出し、目の前にいた僕に思い切り激突してしまった。
「おわっ……ご、ごめん……!」
「うへぇ……」
大人の男性の身体というものは意外と重量があり、壊れかけの僕のパーツがミシミシと音を立てる。すぐにコスモは離れてくれたが、僕も痛みは感じるんだ。
「大丈夫大丈夫、俺達のアジトでパーツは治そうぜ。ユニと同じような半人造人間がいてさ、そいつにな」
「あ、そっか……」
言葉での僕の反応は薄かったが、同時に微笑みを浮かべた。迫害が行われてから今まで、僕の事を気にかけてくれた人なんて記憶には無かったから。
「……帰ってきたかコスモ。そいつが、話していた半人造人間の子供か?」
突然背後から話しかけられる。姿を確認しようと振り向くと、そこには人間の男が立っていた。額を見せる赤髪からはコスモとは正反対の印象を受けた。
赤い上着は無理やり袖を切断したのか半袖で、筋肉質な腕が強調されている。
「ああそうだ! こいつはユニバースって名前でな、俺はユニって呼んでる」
「あ……よろしくお願いします」
申し訳程度の挨拶と共に頭を下げると、赤髪の男も言葉を返してきた。
「挨拶は後だ。とりあえず、俺に着いてこい」
少し薄情な人だとは思ってしまったが、いつ『人類保護派』の人間に目をつけられるかわからない。人目につきやすいここで迂闊に名前を明かすのは悪手だと判断したのだろう。
連絡通路から外に出ると、さっきまでのコロニーとは違い都会的な街並みが僕を待っていた。ボロボロな建物は何一つ無く、綺麗に整備された道と街灯。コロニーの天井まで届きそうなビルまで建っている。
「うわぁ……すごい」
「見とれている時間は無いぞ、さあ来い」
僕は仕方なく赤髪の男に従い、後を追う。しかし都会の風景は僕にとって新鮮で、思わず辺りをキョロキョロと見回してしまう。
「ここの裏口から入るぞ」
大きな屋敷の後ろの壁に着いた。この男がこの屋敷の主なのだろうか。
男が灰色の壁に手を当てると、まるで折りたたまれる紙のように壁は動き始め、人一人が通れるくらいの通路が現れた。
しばらくその通路を三人で歩いていると、眩しい光が射し込んできた。僕は一番後ろを歩いていたから、二人の背中で直前まで部屋の全貌はわからなかった。
「ここが……『人造人間保護派』のアジトだ!」
コスモは自慢げに叫び、僕はその光景に再び辺りを見回してしまう。
中央には灰色の四角いテーブルが設置してあり、そこには向かい合うように二つのソファも置いてある。
僕から見て右手には、今となっては珍しい紙の雑誌が並べてある本棚。左には簡易キッチンまである。そして白い照明と真っ白な壁が部屋の美しさを際立てていた。
「思わず見惚れるか……まるで、ロディみたいだな」
「そういえばロディはどこだ? ここにいるって聞いてきたんだけど……。ユニのパーツ、治してもらいたいんだよ」
さっきコスモが言ってた半人造人間。ロディという人物がきっとそうなのだろう。
「ロディならもうじき来るだろう。あいつを待つ間、俺の自己紹介でもしておこう」
白色のソファに座り、向かいにいる赤髪の男と目を合わせる。僕の左隣にはコスモが座った。
「俺の名前はマーズ。“十三神将”に選ばれた一人だ」
「え……“十三神将”!?」
“十三神将”……それは白、赤、青、水、黄、緑、黄緑、紫、茶、灰、ベージュ、オレンジ、そしてピンク。
それら『色』の強大な力を持ってコロニーを統治する政治……これが始まったのは23年前の事だ。
「十三神将の『赤色』である“烈火神将”、その担当がこの俺だ」
マーズは驚いている僕とは対照的に冷静に話す。しかし、更に僕を驚愕させる言葉が隣から投げかけられる。
「んで、ピンク色の“真刻神将”が俺だな!」
「え、えぇ!?」
コスモも……十三神将!?
僕は報道なんてほとんど気にもしていなかったから、コスモみたいな人物が十三神将に選ばれていたなんて知らなかった。
「……あぁ、でもコスモはギャラクの息子だから……コネとかで?」
動揺していた僕は意識せずにかなり失礼な言葉をコスモにぶつけていた。それに気づいたのはコスモの表情を目の当たりにした時だった。
「……ん、そうだな。俺は……親父のおかげでこの力と地位を手に入れた。でも俺は! 親父なんかとは違う……!」
今にも泣き出しそうな声を捻り出していたコスモ。僕は慌ててフォローし始める。
「ご、ごめん……! 気遣いが足りなかったよ」
けれどそれ以上は言葉が思いつかなかった。僕のせいで、コスモは傷ついたのに。
「……なあユニ、ギャラクも十三神将で、『白』の“宇宙神将”、だという事は知っていたか?」
「え……いや、知りませんでした。生憎情報はほとんど流れてこなかったので……。でも、あれだけの地位を確立していたのだから、十三神将のどれかを担当していた、とは推測してました……」
マーズが気を使って話に割り込んだ事は、僕でも理解できた。急いで頭の中で会話文を作り、その通りに発音する。
「そうか……。おいコスモ、ユニみたいな半人造人間の子供を探していた理由は、お前から話せ」
「……わかった。俺が、提案した事だもんな」
僕とコスモは見つめ合い、僕はコスモの言葉を黙って待った。コスモに対して酷い事を言ってしまった僕にできる事は、これくらいしかない。
「今の“十三神将”には、空きがある。黄色の担当だ。それを……ユニ、お前に担ってほしい」
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