白の反逆 黎明編
ニソシイハ
宇宙と黎明の物語
EPISODE 1 『造られた人間』
Universe
『白』の意思は絶対だ。『白』の予見は絶対だ。『白』の宇宙は絶対だ。
だが、その意思に真っ向から反抗する人間が現れた。白はどんな色にでも変えられる。そこが、唯一の盲点だった。そして彼は絶対零度の檻から手を伸ばす。
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──…………、開始。
*
冷たい。
体の隙間から入り込む水と風。目の前にはひび割れたコンクリート。
悲しい事に、今僕が体育座りをしている廃墟の屋根の部分。それは既に目の前にあるコンクリートの非では無いくらいにボロボロで、雨の被害が大きい原因の一つだ。
壊れた僕の黒い髪の毛や他の部品諸々をすぐに交換したい気持ちだったが、そんなお金も気力も無い。一ヶ月前ならば話は別だっただろうけれど。
僕は、“半”人造人間だ。
騒動の始まりは一ヶ月前。自分たちを『人類保護派』と主張する集団が、人造人間と半人造人間の迫害を行った事が原因だ。
しかもその人類保護派のリーダーは、全コロニーの実に60%を治める主導者「ギャラク」という男だったため、ほとんどの住人は反抗する事ができなかった。
ギャラクが何故、唐突にこんな行動に出たかは誰にもわからない。それに僕には、そんな事を考える時間は無い。
だって……そろそろ限界みたいだから。
ゆっくりと目を閉じ、このまま餓死する。そう決めた時だった。
何者かが、近づいてくる足音。
人造人間か? 人類保護派か?
僕にとっては前者の方が好ましかったが、圧倒的に後者の可能性が高いだろう。僕はいつでも走り出しこの場から逃げられるように、足に力を込めて立った。
あと……三秒で、来る。
廃墟の入口を見据え、瞬きなどしない。しかし現れた人影は、どちらでも無い人間であった。
「……お前、半人造人間か?」
「え……あ、うん」
入口から姿を現したのは人間の男。僅かな微笑みを僕に向けている。薄い青みがかった髪は耳をちょうどすっぽり隠すくらいには長く、右目の方に前髪を流していた。
「うし! 半人造人間の子供一人見つけたぞマーズ! 俺の方が早かったな」
男は右耳に取り付けられた通信機に手を当て、何やら仲間と話しているようだった。
彼はフードがある黒いジャージを羽織り、素肌には無地の白いシャツを着ていた。
しかし問題は下半身。黒いズボンを履いているのはいいものの、右足が機械だ。半人造人間のものと同じ。もしかして、この人も僕と同じ……?
「それじゃあ俺は今からこいつと一緒に帰る。お茶入れて待ってろよ?」
男は通信機の小さなボタンを迷いなく押し込み、今度は僕の方を向く。
「よし、今からお前は俺達の仲間だ! 早速名前を教えてくれ!」
「え……えぇ?」
突然の認定と要求に思考回路が追いつかず、ただ混乱するしかない。いきなり仲間だとか言われても、そっちの事情やらなんやら、僕には何もわからないっていうのに。
「ああすまない、俺から名乗らなきゃな。俺はコスモ。『人造人間保護派』のリーダーだ!」
「じ、人造人間保護派……?」
初めて聞いた。そんな組織が存在していたなんて。いや、もしかしたら今までは準備期間、裏で活動してきたのかもしれない。
「分かった……教えるよ。僕の名前は、ユニバース」
勇気と希望をひねり出し、コスモと名乗る男に名を差し出す。するとコスモはぱあっと明るい笑顔を僕に見せてきた。
「おぉ! いい名前だな! 『ユニ』って呼んでもいいか?」
「う、うん」
目の前でそんな嬉しい素振りをされると、僕も笑顔になってしまう。すると緩んだ僕の両頬をコスモにつままれ、再び要求を迫られる。
「詳しい話は後だ。まずは俺達のアジトに来て……そこで話そう。ユニ」
頬をつまんでいた指を離され、コスモと手を繋ぐ。人造人間からは感じる事のできない、確かな温かみが僕の手から伝わり、体全体へと染み込む。なんだかこの人は信用できる。そう感じた。
「おっと待ちな!」
すると突然、廃墟の入口から出ようとしていた僕達二人の前に、二人の男が現れた。どちらもいかにもチンピラといった風貌で、安っぽいボロボロの服を僕は哀れむ。今も雨は降ってるのに。
「お前ら……半人造人間だな!? 話はずっと聞いてたんだぜ!」
「ギャラクさんに逆らうなんて……無謀にも甚だしい! 今この場で始末してやらぁ!」
どうやら人類保護派の支持者……? 僕の推測だとそれにしか見えない。一派には所属していないが、同調してただ叩きたいだけの人間。
「おいおい……争いはやめようぜ? なあ」
コスモは歩み寄るように右手を差し伸べたが、それはあっさりと弾かれる。
「ケッ! 誰がお前らみたいな非人間と握手なんかするかよ……今すぐ死ね!」
男の一人が腰のナイフを手に取り、コスモの腹部目掛けて突き刺す動作を繰り出した。
「コスモ危ない!」
だが、僕の注意は遅かった。だって、ナイフの先端がコスモの腹部に触れた途端、その動きは止まっていたから。
「な……え……?」
男は手に取ったナイフが急に動かなくなった事に驚き、その隙をコスモは突いた。
義足である彼の足には所謂ジェットパックが搭載されており、ピンク色の噴射と共に男の股間目掛けて蹴りあげられた。
「ちょっ……!?」
男は死を覚悟し真っ青な顔になっていたが、ジェットパックの噴射は寸前でオフの状態となり、勢いだけに乗り股間に直撃した。
「……ッ! ぎにゃぁっっっあ!!!」
男はそれだけの悲鳴を上げ、その後は声にならない声と痛みを我慢しながらのたうち始めた。
「これくらいが一番痛いだろ? 失神しない程度のこれがよ」
先程とは打って変わって真顔のコスモからは、どこか恐怖を感じる。さっきの人相の良い雰囲気は全くと言っていいほど無かった。
「お、おい! 何してんだ!」
「何ってそりゃ……怒って蹴りあげただけだが?」
ゴミを見るような目でコスモはもう一人の男を見つめ、一歩前に踏み出す。不気味だが、ある意味頼もしさがある。
「そうじゃない……お前は……!」
しかし、僕のコスモへの信頼は次の瞬間に打ち砕かれる。
「ギャラクさんの……息子なんだろ!?」
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