夢と一枚の紙

@arinkodoroppu

夢と一枚の紙

 夢が終わるとき、ガラガラと音を立てて崩れると思っていた。しかし実際は案外あっさりとしていて、すっと自分の中に入ってくる。

 今日、私の夢が終わった。役者になるという夢。それは一枚の紙に書かれていたよく目にする文章が教えてくれた。

「あーあ」

紙を何度か見返しても文章が変わることがないとわかると、私は床に寝転がる。夢を目指し養成所に通った一年を思い返す。専門学校をいれるとプラス二年。さらに夢を見始めたことから始めたら15年以上。生きてきた半分以上の自分に寄り添ってきた。それがこんな紙一枚で終わってしまうんだな。

 応援してくれた親や友達、専門学校時代の先生にラインをする。思ったより簡単に書ける「だめでした」という文字。打ち終えたらアプリを閉じてネットの配信動画を見る。これは趣味で応援してきた配信者の今日の動画で、明るいその声を聴くだけで元気が出る。まあそれを見ながら思うのは、所詮、私はただのオタクなのだということ。オタクを悪く言うわけではないが、オタクっていうのは影の存在で光として輝く人たちを応援する立場だ。光になりたいと思っていた私は影から脱することははなから無理だったのだろうか。

先生からラインの返信が来た。

『残念だ。でもその合否がお前が演じることが好きであることを否定はできない。お前は確かに表現者なんだ』

 涙が全くでなかったのにひとつのラインで涙が止まらなくなった。悔しい?そうか悔しいのか。自分を否定された気がしたのだ。演技が好きで、ここまで来た自分を間違っていたと否定されたように感じたのだ。

 ここから私はどうなるのだろう。変わらない気がする。私はまだ若い。挑戦はできる。夢を追いかける追いかけないはまだ選択できる。どうしようか。

涙を流したら少しだけ前向きになれた。

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