第40話前編 フライドターキーの準備

「…そろそろ溶けてきたか?」


12月の下旬の水曜日夕方。

男は冷蔵庫の中を見て、先日届いた冷凍の肉の様子を見た。


「…うん、溶けてるな」

派手な模様のビニールに包まれたその肉は、七面鳥であった。

配達当日にはカチカチに凍っていたが、今は指で押し込める程になっている。

実際には前日には十分に溶けていたが、この後の工程のことも考え、この日まで放っていたらしい。

男はニヤリと笑って材料を台所中から集め始める。


男が扱うものにしてはかなりの大物である。

毎年この時期、男は七面鳥などを使って大物料理を作る。大学時代から続いている習慣だ。

元々は、彼女のいない男がクリスマスの時期に、「世のカップルなんぞより旨いものを食ってやる」と始めた、謂わば一人相撲である。

今では彼女がいないことを気にも留めなくなったが、習慣だけは残って毎年作り続けているのだ。


七面鳥はアメリカ等で食べられる。

七面鳥自体、現地のアメリカでも何かのお祝いの日で食べられるものとなっている。

それに目をつけ、「鶏よりも本場っぽい」と七面鳥を選んだのだ。一人相撲にしては手が込んでいる。

…と、男は下準備の材料を集め終わったようだ。


【フライドターキーの下準備】

・七面鳥

・水

・塩

・砂糖

・ローズマリー(ホール)

・オレガノ

・ローリエ

・胡椒(ホール)


ここのところ、男がこの時期に作るのはローストではなくフライドターキーだ。

ローストターキーの方が主流だが、七面鳥が収まるようなオーブンは持ち合わせていない。よって家にある中で最も大きな鍋に詰め込んで揚げている。アメリカ南部でも親しまれている食べ方だ。

作り方はシンプルで、七面鳥をブライン液(塩水)に漬け込んで、揚げるだけだ。


今日のところは漬け込むだけとなる。

早速漬け込むためのブライン液を作る。ローストビーフの時にも作ったが、今回は肉のサイズが3.5kgと大きいので量も多くなる。

水は2L。それに対して、塩と砂糖は100gずつ、ローズマリーはホールを3本、オレガノは缶を10振り、ローリエは2枚、胡椒のホールは大さじ2、それぞれ水に入れていく。これでブライン液となる。

買ったばかりのビニールゴミ袋に七面鳥とブライン液を入れて、空気を抜きながら口を縛る。

それを冷蔵庫へ。このまままる1日漬けた後に揚げるのだ。



「ふぅ…今年の出来はどうなるかね…」

冷蔵庫を閉じて、男は明日に思いを遣る。

本番は明日、年に一度の大料理だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る