第3話 鮭のホイル焼き
「今週はキツかったな…」
男は今週も疲れていた。
この一週間、上司の指示で資料作成していたが、会社の方針が何度も変わるために修正を余儀なくされていた。内心、よく頑張ったと思っているようだ。
「しかし今日は良いウイスキーがある」
これがこの一週間、男を頑張らせた所以だ。
男は普段から旨い酒が好きだと自称しているため、知り合いから土産としてたまに酒を貰う。
今週はアイラ島産のウイスキーを貰ったらしい。
アイラのウイスキーは独特な香りが強いものが多く、好き嫌いが分かれるが男は大層好んでいた。
「熟成が浅いからなぁ。ハイボールにして香りを際立たせてみよう」
香りが強すぎてむせること請け合いだ。
とはいえ、そうと決まれば合わせる料理を考える。
ウイスキーの香りが強いため、単に油っ気のある料理より味も香りもガツンと来る料理の方が合う。
男はそんな料理はないかとネットで調べる。
「これも違う。これは気分じゃない。…これは、良いかもな」
目に止まったのは鮭のホイル焼き。
キノコと醤油の効果で非常に香り高そうだ。
しかし今は3月の中頃。鮭やキノコの旬は秋だ。が、男は気にしていない。
「食べたいときが
先日まで旬の食材ばかりを扱っていた男の言とは思えない。
とはいえ、近場のスーパーに寄り、食材を買う。
「キノコと鮭と…そうだ、せっかくだからガーリックバター仕立てにしよう。親父はどうやって作ってたかなぁ?」
男の父親は郊外で洋食屋を経営していた。
その影響もあって男は食にこだわるようになった。
今日はその父親のレシピを真似しようというのだ。
「バターとニンニクは必要として、あとは、パセリも入れてたか?玉ねぎは…分からないな。取り敢えず入れるか」
だが既に真似できそうもない。
取り敢えずこれらの食材とハイボール用の炭酸と氷を買い、家路につく。
帰宅後、いつもの通りに食材を台所に並べる。
・鮭
・シメジ
・エノキ
・醤油
・レモン
・バター
・ニンニク
・パセリ(何故か生パセリ)
・玉ねぎ
台所が狭く感じる。
通常なら鮭とキノコと醤油とレモンで出来るところをガーリックバター欲しさに買い過ぎたようだ。
ともあれ、まずはガーリックバター作りからチャレンジ。いつものように数日分を。
玉ねぎ一つをざく切り、ニンニクは10かけ程をハンドブレンダー用の容器に入れる。
ここで男が一つ失敗に気づく。
父親が使っていたのは生パセリではなく、缶の乾燥パセリなのだ。
「まあ、なるようになるだろ」
気にせずパセリを一房、茎を取って同じく容器に入れ、ハンドブレンダーにかける。
ドロドロになった玉ねぎ、ニンニク、パセリの匂いを嗅ぐと、玉ねぎのツンとした匂いが強い。
そこで、先にドロドロを鍋に入れ、火にかけて玉ねぎの匂いを飛ばす。しかし、せっかくのニンニクとパセリの匂いも飛ぶ。
追加でニンニク2かけとパセリは半房、同じくブレンダーにかけて鍋に投入。良い香りになった。
ここにバター200グラムほどを入れ、溶かして混ぜ合わせる。
混ぜたら耐熱容器に移し、粗熱を取った後に冷蔵庫で冷やす。
冷ましている間にホイル焼きの準備だ。
大きめにアルミホイルを敷き、その真ん中にエノキ、シメジ、鮭の順で重ね、まだ熱いガーリックバターを鮭の上に乗せる。
軽く醤油をふり、アルミホイルで包んでいく。
包む際に両端は後で持ち手となるように捻っておく。
深めのフライパンにアルミホイルの包みを乗せ、フタをして、火にかける。
火にかける時間は鮭のサイズによって変わるが、今回は200グラムなので中くらいの時間だ。
まずは中火で4分、次に弱火で8分、最後に火を止めて1〜2分蒸す。
蒸し上がったら、ホイルを皿に移して完成だ。
アルミホイルを開く前に大きいグラスに氷を入れ、ウイスキー、炭酸の順に静かに注ぐ。
アイラウイスキーの香りを楽しみたいのであえてレモンは入れない。
そして、アルミホイルを開くとガーリックバターの良い香りがムワッと広がる。
「うーん、この香りだけでつまみになる…」
男は早速ハイボールをグイッと一口飲む。
「ゲホッ…あー、この匂いだ」
案の定ウイスキーの香りが立ちすぎて軽くむせた。
が、男はそれさえも楽しんでいる。
そして、まだ熱いホイル焼きに手を付ける。
キノコと鮭を合わせて口に放り込む。
「おほ…これは良い…」
キノコの旨味と食感、鮭のジューシーさ、それらがガーリックバターと醤油の風味で力強くまとめ上げられている。
「これは酒が進むな」
たまらずハイボールを流し込む。
ニンニクの香りとアイラウイスキーの煙臭さが口の中で混ざり合う。
それがまた食欲と酒欲をそそる。
「ハフッグビッ…これは止まらない」
気付いたら1杯目を飲み終わっていた。
男は2杯目を注ぎ、今日の楽しみを続ける。
夜は更けていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます