第12話 人外寺院
「ゴリラみたいだったよ」イーナは岩場を危なかしげに歩きながら言った。
「なにがだよ」ベイクは小動物の様に周りを見渡しながら言った。盛んに岩陰に何かいないかキョロキョロ確認している。
「あの化け物を素手で引き裂く感じ。人間じゃなかったね」イーナなりの言い方。と、とった。
「意外と頑丈じゃなかったな。あいつは多分昔からこの辺に居て、近寄る者を襲うんだろう」
「あんたが昔、身分の高い戦士だったって事、信じちまいそうだよ」
「まだ信じてなかったのか?」ベイクはイーナに振り返った。
「あんたみたいなつるっぱげの僧侶みたいな服着た人が騎士様だったなんて信じられる?しかも剣が使えないなんてさ」
「ん、まあそうだな。客観的に見たらそうかもな」
岩場を抜けるとまた藪が現れ、棘の立つツタが巻きついていたり、毒のある実の植物が生えていた。何とも人が踏み入れない領域。日が当たらず主の目の行き届かない境界線。土は痩せ、動物はおろか虫でさえ住みたがらない。地形はやがて傾斜し始め、標高が少しずつ上がっていき、遠くから見た、イモリ顔の化け物が飛び去った山に近づいているのを感じた。
やがて細い木々の森が終わり、開けた場所に大きな寺院が現れた。背の高い雑草に囲まれて誰にも知られる事なく、かと言って隠れている訳でもない、といった様子だった。確かに我々の知る寺院ではなく、かと言って異教徒のそれでもない。しかし確かに何らかの神が祀られている様子が見てとれて、入り口の両開きの立派な浮かし彫りの扉や、綺麗な三角屋根、その上に鎮座するおどろおどろしい彫刻や、太くて立派な柱はかつては不特定多数の信仰者のシンボルとなり得そうだった。
「私たちの教会とは違うわね」
「そもそも人間のものかも疑わしい」ベイクは顎を擦った。
「どういうこと?魔物達の?」
「魔物達というか、人じゃない住人は沢山いるさ。善悪じゃ無くて」
大きな翼の瞬く音がした。寺院の入り口に、あのイモリの怪物が2匹着陸した。2匹は頭で両開きの扉を開けると、のしのしと中へ入って行った。その後にはおびただしい血のり。足や大きな尻尾に付いていた人間の鮮血。
イーナは、藪の影から何も言わなかった。
「着いてくるのか?」ベイクは振り向かない。
「貴方と居たい」
「助けられんかも知れんぞ」
「覚悟してるわ」
死の覚悟はもっと重い事を、ベイクの頭を横切る。でも大事な事はそこじゃない。
2人は雑草をかき分けて寺院に向かった。
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