第10話 恐怖のアジトと子育て池
ベイクとイーナは語らない事にした。
自警団員達の遺体の引き上げ作業は、集落で残った数少ない男達で行われ、中には嗚咽する者も居た。見るも無残な遺体は3体、他6体の吊るされていた者達は外傷が無い様に見えたが、皆首の骨を折られていた。ベイクは殺害方法も吊るす行為も、人間を捕食対象として見ているあの化け物の慣習だろうと考えた。知能が高く、人間を捕まえて子供に与える程の奴だ。ほぼ人に近いとみていい。
自警団は集落の英雄として、共同墓地の1番いい場所に葬られた。長を除いて村人全員が参列し、すすり泣きもちらほら聞こえる。村長は心理的なショックと、年齢的な事もあり、葬儀には参列しなかった。数少ない村の子供達が花を手向け、昔からの慣習通り皆で棺に土をかけて行った。
ベイクとイーナは後ろからそれを見届けて、他の者より早く立ち去り、そのまま集落をまた出た。
「おかしいと思わない?」村を出るとイーナは直ぐベイクに言った。
「ああ。多分そうだと思うよ」
「それにタイミングが良すぎるわ」
「俺は間近で捕食しているのを見ていた。感じていたという方がいいが。あの化け物は筋肉を好んで食べていた。骨や内臓は捨てていた」
「ということは?」イーナはやっぱりといった様子で言った。自分の予想が当たっていたのだ。
「...足りん。1人分の遺体が足りん。服だけで、奴を示す肉体の無い者が」
「サージね。他で死んでいるか、捕まったと思う?」
「正直分からない。それ以外の可能性も考えなければならない。今まで魔と手を結ぶ者に会った事が無いわけでは無いからな。奴は何というか、邪悪な気がした」
ベイクは化け物が飛び去った方向は覚えていたが、集落を出る前に自警団から、意味深な印の書かれた地図を拝借して来た。森の地図なので分かりやすい目印や座標を示す縦横に線が引かれた地図。あの空飛ぶヤモリを討伐する前に、サージの地図に何が示されているか調べてみる事にした。
場所は集落を中心に3か所。ひとまず1番近い場所に向かう。
座標が指し示す場所には、何も無かった。いや、地上には。辺りを調べてみると用心深く土や草が掛けられた板が有り、引き上げると梯子の続く穴が現れた。
中は小屋ほどの広さに、手で掘られており、カビの匂いにまみれて5つの木箱が整然と並べられていた。
「ああ」イーナは予想はしていたがおでこに手を当てた。「凄い量よ。売れば一生遊んで暮らせるわ」
「半端な量じゃないな。これ全部剥ぎ取ったのか?どれくらいの人間が犠牲に...」
「私、あと2箇所は中に入る自信ないわ」
「わかった」
次の秘密のアジトは辿るうちに、見覚えのある風景になり、どうやら位置的にも、あの被害者の衣服を投げ入れていた洞穴であるらしかった。次の場所が遠いので行くのを途中でやめた。
第3の場所は、集落と悪魔が飛び去った場所の中間に位置していた。近づくにつれて側に小川が流れ始め、流れの先は目的地に近づいている様だった。
大きな丘を抜けると、そこは湖だった。いや、池と湖の中間の広さ。右手は木や草が枝垂れて居るが左手はやや開けていて、森の向こうにたたずむ山々が見えた。
「ここが座標の場所?」イーナは透き通る綺麗な水に手を付けた。そして顔を洗う。
2人は水面の傍に腰を下ろした。鳥が囀り、何処かで亀か魚が水を叩く音かする。余りにのどかで、2人の考える力が削がれる。
「イーナ」
「どうしたの、怖い顔して」
「そっちの小川で、手と顔を洗え」
「どうしたのよ、なんで?」
「静かにそうしろ」
「なんでよ」
「訳は洗ってから話す。すぐに立ち去るんだ」
イーナはあまりの雰囲気に、従うしか無かった。とても怖い顔をしていたのだ。
目を凝らしたベイクには透き通った水の向こうに、白い玉子の様な、人の頭程の物が漂っていて、その近くを、大型犬程のトカゲみたいなものが横切って行くのが見えた。何匹も。その頭の形が余りにヤモリに似ていて、ベイクにはあれらがあの悪魔の子供にしか見えなかった。
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