第8話 自警団詰所にて

イーナにとって自警団の詰所を歩くのは、今となっては苦痛でしかなかった。

 もはや自分達を守ってくれる心の拠り所などでは無く、すれ違った自警団員達も、只の野獣か、人ならざるゴロツキにしか見えない。どいつもこいつもズカズカ団長室に入っていく我々を爪先からツムジまで舐める様に見ていて、幾らになるのか、金があるのか値踏みしているみたいだ。


 イーナとベイクは急いで村にとって帰した

。理由はゴロツキどもを説得するためだ。村長や他の住民には説明しない、いや、出来ないし、彼らにさえ、森の精霊や住民の話など出来ない。しても信じないか、そいつらを悪魔にしてしまうだろう。


 自警団団長サージは、自分のデスクの向こうで足を組んで、黙ってベイクの話を聞いていた。

 団長の部屋はとても散らかっていて、壁には鹿や狐の剥製が飾られていたり、サージが収集した珍しそうな刀剣や武具が、まるで壁を埋め尽くしたいというくらい敷き詰められて展示されている。机の上もペンとインクだとか大きな周辺地図とかで雑然としている。


 「悪魔討伐を止めろ、そうおっしゃったのですか?」サージは半ば呆れた様子で笑っていた。彼の価値観では悪魔狩りを止めるという事などマイナスにしかならないのだ。


 「止めた方がよろしい。今に村が報復に遭いますよ」ベイクは無機質に答えた。


 「報復!ならば何故今まで報復されていないのでしょう。それにそれは貴方の予想でしかないですよね?」


 小屋の件もあり、お互い探りを入れながらの会話だが、サージはベイクとやり合う気はなかった。小屋で使った普通の術とは違う何か(どうやってあの閃光を放ったか)を解明するまで敵には回せない。


「残念ながら俺の予想ではない。とある情報を持つ者からの警告だ」


 「どなたでしょう。それは人間なのですか?」


 「言う必要は無いな」ベイクは冷淡だったが、隣のイーナはもう飽き飽きしてそっぽを一点見つめしている。


 「あなた方のしている事は重大犯罪ですよ」ベイクはそれとなく言った。


 「犯罪?おかしな事をおっしゃる。村近隣の森で人を喰らう悪魔を退治して、何が犯罪ですかな?」


「本当にそれだけですか?今にしっぺ返しを食らいますよ。あなた方だけでは無い。集落に」


 束の間の無言。サージはベイクが事実を掴んでいると断定した。


 「外から来て、よくずけずけおっしゃりますな。信用出来ない。そこのイーナも何を言われたか知らないが、あまりこの旅の方を信用しない方がいい」


 イーナは聞いていないかの様に部屋の隅を見ている。


 「どうしても悪魔狩りを止めないとおっしゃるのですか?」


「ええ。集落の安全が第一ですので」


帰りの道すがら、また森に入る道中で、イーナは浴びるほど愚痴を言ったがベイクは余り聞いていなかった。やはり元凶の悪魔を探し出して退治するしかない。そうベイクは思った。

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