第7話 もぐらの話
「我が主を助けてくださったのは貴方様ですか」目を擦りながらもぐらは、右の灌木に話しかけた。
「こっちだ」ベイクが誘導する。
「ああ、すみませぬ。目が余り見えないもので」もぐらは鼻先をひくひくしながら話した。
「貴方は?」イーナは平然と訊いたが、話すもぐらに内心どきどきしていた。いや、もぐら自体初めて見る。
「私めはこの森の長老様の意思を伝え、森を地中にて見守る者どもです」
「なるほど、沢山居るのか」ベイクは顎に手を当てて言った。
「はい。森中に穴を張り巡らして、出来事を長老様に伝えております。と、言っても我々では打てる手は限られております」もぐらが答えた。
「あなた方は精霊か?」ベイクは恭しく訊いた。
「そうでございますね、そう言って頂いてもかまいません。長老様は1000年この森におられます。自分の意思を持たれておりますし、我々も土の化身でございます」
「精霊」イーナは目を見開いて言った。
「精霊と言いましても人や魍魎の様に神通力を使える訳ではございません。せいぜい人以外の住人の話を聞いたり、話して諫めるくらいであります。長老様は嘆いております。私達も説得はしておりますが、昨今の人間達の所業に、他の住人達は我慢の限界に達しており、人間の村もろとも攻撃してしまおうというのです」
「そんな...一部の人間達の仕業よ」イーナはか細く呟いた。
「それは承知しており、それも伝えてありまする。しかし、あの馬で森を駆る騎兵どもにはなんとも標準を合わせて抵抗する手立てが無く、集落を奇襲するしか手がないと、申しております。それに彼奴らは自分の同胞まで手にかけておるようで。住民たちの大義名分、正当化を助長しておるのです。長老様からの伝言です。彼奴らを説得してはくれまいかとの事なのです」
「だが」ベイクは森の大木を見上げて言った。「その森の住民の中に、人食いも紛れているんじゃないのか?」
「それで御座います。これも伝えて頂きたい。この森にそんな輩は居りませぬ。前には外から来た者達が住み着いていた様ですが、我々も正体が知れず、いつの間にか居なくなっておりました。そいつらがまた何処からかやって来て、人を喰い漁って、去っているようなのです」
「そいつらは精霊の存在に気づいているのか?」
「ええ。つまり我々に勘付かれないようにしている事なのです」
「なんという事」イーナは事の重大さに目眩がする思いだった。
「空か?」ベイクは土の化身に言った。
「お察しが早い。そうで御座います。奴らは土を踏みません。だがしかし、羽毛を落としません」
「鳥の様な者でないんだな。蝙蝠の様な翼を持つ...」
「もしくは浮遊能力のある...」
「外来種の悪魔か」ベイクが総括した。
「どうか馬を駆る者たちを説得しては下さいませんか。私共もして参ります。争いは長老様の望むものではありません」もぐらは頭を垂れた。
「分かった。早く土に帰りな。辛そうだ」ベイクはもぐらに言った。
「お願い致します...」そう言いながら、もぐらはガサゴソと土に潜った。
「言って聞くかしら?」イーナはベイクの方を向き直して訊いた。
「聞かんだろうな。考えてみるよ。そういう事をしそうな種族を。はて、何処から飛んで来ているのか」
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