第2話 不思議な人
はっと目が覚めた。
朝の5時。
びっしょりと汗をかいていた。
やな夢を見た。
のっそりと起き上がり
カーディガンを羽織って外に出た。
この寮には男子寮と女子寮を挟むように中庭がある。
中庭の朝もやの中に
ベンチに腰掛けて本を読む学園長の姿があった。
「せんせ、、、、。」
まあさが声をかけると
学園長は、すっと顔を上げた
「おや、随分と早いんですね。」
ほほえんで本を閉じる。
「どうしたんですか?」
まあさが黙って俯いてると
「またイヤな夢でもみたのですか。」
と学園長が言う。まあさは黙ったまま学園長の隣に腰かけた。
「…強くなれないの」
まあさがポツリと呟く。
あの日。
「強くなりたい……!」
そう言って泣いた日、初めて他人の前で泣いた日。
「すぐには変わらないですから。」
そう言う学園長に
「もうあれから2年だよ。」
ため息まじりにまあさが言う。
「いつまでこんなことやってんだろ」
「焦らないことですよ」
その言葉にまあさが学園長をみる。学園長はにっこり笑いながら
「焦らないのが一番です。」
と言う。
「どうして…」
まあさが言う。
「どうして、、せんせーはそんなに優しいの…」
「そりゃあ、「せんせー」だからですよ」
学園長は立ち上がった。
「あなたが一緒にいて楽しいと思う人に出会えたら」
遠くを見つめて、なにかを思い出すように学園長は言う。
「きっと変わっていきますよ。」
そしてまあさを振り返り、微笑んだ。
その真っ直ぐな目の向こうに誰かがいる気がした。
今朝、亜衣は一人で登校している。
同室のまあさちゃんは、朝起きたらすでにいなかった。朝早く部屋を出て行ってしまったらしい。
せっかく同室になったのに、仲良くなれないなあ
なんて思っていたら、
「ねーねーかわいいねぇ、1年生?」
「みない顔だね、高校からの編入?」
顔をあげると、高校部の先輩と思しき2人の男子高校生が
にやにやしながら亜衣をみていた。
「あの…えっと……」
「かわいいね、何組?」
「えっと、、、」
「女子いじめるなよな。」
高校部の制服をきた男の子が、亜衣の前にすっとでてきた。すらっと背が高くて、賢そうだ。
「誰。」
先に話しかけてきた二人組が睨む。
「そこにいる1年女子を迎えにきた者です。」
男の子はそう言うと、
「いくよ。」
ぽかんとしている亜衣の手を引いて、歩き出した。
角を曲がると、
「ばか!どうしてあんなところにいたんだよ」
「え、、、?」
男の子は立ち止まり、振り返る。
「えっと…あなたは、、?」
「わからないんですか?」
胸ポケットから出した眼鏡をかけながら彼は言う。この顔どこかで、、、、。
「あーーーー!同じクラスの五十嵐智也くん!!!!」
「気づくのが遅すぎますよ」
苦笑いをして五十嵐くんが言った。
「用があって通りかかったら、霜月さん、絡まれてたから。」
「助けてくれたの?」
「あとで厄介なことになるのも面倒でしょう」
五十嵐くんはそう言って少し面倒くさそうな顔をした。
なんか、、とっつきづらいなあ。
亜衣がそう思っていると、
「あれ、智也くん。」
後ろから聞き覚えのある声がした。
振り返ると、まあさちゃんだった。
まあさちゃんは、亜衣を見つけるとちょっと驚いた顔をする。
五十嵐くんは、にこりと笑って
「おはようございます、まあささん。」
と言った。
え?え?なんでこの2人、名前で呼び合ってるの??
「え?まあさちゃん、なんで五十嵐くんのこと知ってるの?」
「あぁ、智也くんは学園長の息子で、学園の生徒たちのことはよく知ってるんだよ。去年までは中等部の生徒会長だったし。」
まあさちゃんがそう説明してくれた。
「そうだったんだ!!!!」
亜衣は高校に編入してきたばかりなので知らなかった。
五十嵐くんはニヤリとして、
「僕とまあささんは、あの大雪の日に初めて会ってからのお付き合いですけどね。」
と言うと、
「それは言わない約束。」
まあさちゃんが、ぴしゃりと言う。
話がわからず、亜衣はぽかんとしていると予鈴がなった。
「ほら、遅刻になっちゃいますよ」
五十嵐くんはそう言って、ぽん、と亜衣の背中をたたいた。
その、優しい、感触。
懐かしい感覚。
これ、、わたし、、知ってる、、、?
ぼんやりしている亜衣をよそに
まあさはだるそうに歩き始める。
「ほら、行きますよ」
五十嵐くんに言われ、亜衣も慌てて後を追った。
不思議な人。
それが、五十嵐くんに対する亜衣の「第一印象」だった。
その日の、夜。
智也は、自宅のソファに横になっていた。
そこへ、学園長である父さんが帰宅する。
「おや?そんなところでどうしたんですか?智也。」
「父さん、俺、、、
「「亜衣」のこと。助けちゃった」
深く関わるつもりはないよ。
もう、あんな風に傷つく君を見たくない。
なのに。顔を見たら、やっぱりダメなんだ。
君に。近づきたくなってしまうから。
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