国破れて山河在り
ネコ エレクトゥス
第1話
昭和の画家、伊東深水は現在では戦後の女優伊東みどりさん(確か津川雅彦さんの奥さん)の父親として知られていて、それ以外にはあまり名前を耳にされた方はいないのではないか。鏑木清方の弟子にあたり、あの時代における美人画の名手である、ということを恥ずかしながら僕も最近知った。それで図版に目を通してみた。
戦前の伊東深水の美人画は確かに美人だった。だがその当時の彼の風景画に目を向けてみると、構図は凡庸、色彩は凡庸、そんな景色の中に申し訳なさそうに植物が生えている。はっきり言って退屈だった。
そう感じてから彼の若い時の美人画を見直してみると女性たちはみんな人形のようだった。映画好きな人にはこう言ったほうがわかってくれるかもしれない。彼女たちはSF映画の傑作『ブレードランナー』に出てくるアンドロイドのようだった。
「自分たちは本当に生きてるのか。生かされているだけなのか?」
ちょっと意地悪な表現をすれば、当時の伊東深水は今で言うところの女性アイドル・プロデューサーの延長のようなものだったのかもしれない。
ところが戦後になり美人画の女性たちが一変する。それは伊東深水の老成のためなのか、それともあの戦争を経験したせいなのか。おそらく両方だと思う。
美人というだけなら戦前の絵の女性たちのほうが美人だった。ただ戦後の絵の女性たちのほうが人間として美人であり、生命体として美人である。少なくとも絵に登場する女性たちはアンドロイドであることから抜け出ている。生命力を表現する線や色彩は画面からはみ出して迫ってきそうだ。
こうして僕ら日本人は世界に誇れる画家を持つことになった。
今僕らは何となく出口の見えない閉塞感の中で生活しています。ただそれは伊東深水の時代も同じだった。そしてそんな時代を経てこそ咲く花もあります。国破れて山河在り。街中を見渡せば梅やこぶしが咲き、バラやアジサイが芽を吹いています。僕らにもまたきっと花が咲く。色々大変なこともありますが皆さん頑張りましょう。
国破れて山河在り ネコ エレクトゥス @katsumikun
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