第11話.裏から表から
──ザワザワ
朝、学校に投稿してみると全体的に騒がしいというか、もはや何かしらの事件が起きたとしか言えないくらいに騒然としている。
あのクソダサ覆面ボキャ貧マンと初邂逅したのが一昨日だから、旧校舎の事ではないだろう。
靴を履き替える事もせずに昇降口にたむろしてしきりに会話する奴らに、それを抜けた先の廊下で駄弁る女子たち。
耳を傾けてみれば全員が全員同じ話題を元に盛り上がっているのが分かる。
「く、くく、くく、くくく久遠!」
「落ち着け吉野、なんだよ?」
教室に入るなり吉野から詰め寄られてそのまま人気の少ない場所まで引き摺られてしまう……野郎からされても嬉しくねぇぞ。
……いや雨森からされても恐怖しかないが。
「お、おお、俺にラブレターが届いてたんだよ! 昨日!」
「……あー、そうか、良かったな」
そういや、俺宛のを吉野名義に書き換えて押し付けたんだったわ。
「こ、これ! 今日の放課後に行くべきかな?! 行くべきだよな?!」
「お前だけ騒いでる理由が違うな」
「? 確かに今日は何だか騒がしい気がするけど、何時もの事だろ?」
……え、コイツ
「お前が昨日掲示板に貼り付けただろ?」
「それは白紙だったじゃないか」
「……そっか、お前はそのままで居てくれよ」
「はぁ?」
ヤベぇ、コイツのポンコツ具合が筋金入りだ……雨森のストーキングや痴態を捌き続ける毎日である俺には新鮮に映る。
今度から少しだけ優しくしてやろうかな。
「まぁいいや、それでよ? 今日の放課後に行くべきかなこれ」
「……行けば良いんじゃないか?」
「いやでも、俺には雨森ちゃんが……!」
「……なに? お前ら付き合い始めたの?」
お? 吉野ってところが腑に落ちないが、あの雨森が俺以外の男の下へと行くなら大歓迎だぞ!
あの化け物を相手に何日もつかは定かではないが、少しの間だけでも俺に日常が戻って来るなら万々歳だ。
「お前がそれを言う? あの雨森ちゃんにあれだけ好意を寄せられておいてそんな事を言う?」
「あ、うん、なんかごめん」
やべぇ、凄い剣幕で詰められた……この世の憎悪を煮詰めた様な昏い目をしやがって。
「ま、まぁフリーなら裏切った事にはならねぇだろうし行けば良いだろ?」
「だ、だよな!」
「非モテに何の間違いか降ってきた幸運だしな」
「そうだよな!」
俺にお礼を言いながら走り去る吉野に手を振り、背中が見えなくなったところでため息を吐きつつ振り返る。
「出て来てなよ、錦戸君」
「お前ぇ……」
声を掛ければ曲がり角から大量の紙をぐしゃぐしゃに握り締めたイケメン野郎が現れる……が、今やその二枚目ぶりに陰りが見える。
「これはお前の仕業だろう?!」
「えーと、なになに……『意外! 屈指のモテ男こと2-B 錦戸君と養護教諭の齋藤先生はデキていた?! しかしながらその関係は歪! 無理やり錦戸君に迫られていた齋藤先生はストレスから出奔したか?! 証拠のURLはコチラ→ http://**********』……ね、へぇ〜! そうなんだぁ〜!」
「白々しい真似をッ……!!」
そんな見出しと共に書かれていたURLにアクセスすると現れるのは紳士御用達の海外にサーバーを持つポルノ動画サイトに投稿されているある日本の男子生徒と女性教師が行為に及んでいる動画だった。
よくよく見てみると、その出演者は目の前の錦戸君や齋藤先生に似ていなくもない……というか完全に本人だった。
動画の内容は男子生徒が女性教師の弱みを握って無理やり関係を迫り、さらにはその行為を動画に撮るという……まぁ言わばプレイの一寛でしかなく、本当に事案が発生している訳ではない。
まぁ? きちんと編集済みだから、傍から見たら完全に事案な訳ですが。
「お、お前……こ、ここ、これを……!」
「落ち着けよ、噛み噛みだぜ?」
「昨日の放課後にいくつか張り出されていたのは見た! だがどれもが白紙で誰かの悪戯だと思っていた!」
「あー、なるほど……よく出来てるだろ? 白紙の紙に洗剤で文字を書き、それを乾かした後に水を付けるとあら不思議……白紙の紙から文字が浮かび上がるという、簡単すぎる手品だよ。……理科室は何でも揃ってるね」
洗剤を付けた筆で紙に文字を書き込んだら一旦乾かす……そうするとまた見た目上は白紙の紙に戻るが、そこに水を振り掛けてやると洗剤部分の文字が浮かび上がるっていう、でん〇ろう先生もやってた簡単な実験の応用だよ。
貼り付けた昨日の放課後の内にいくつかは発見した先生方に剥がされているだろうが、量が量だし? 雨森にはランダムで知らない奴の机の中にも入れとけって指示を出していたからな、一気に広まった形になる。
「そ、そんな事はどうでもい!! お前どうやってこの動画を手に入れた?!」
「なにって……普通にクラッキングして手に入れただけだが? (なろう主人公っぽく)」
「はぁ?!」
「これに懲りたらハメ撮りとか止めようね?」
いやぁ、馬鹿過ぎる……仮にも齋藤先生は教師なのにリスク管理がなってねぇ。
「後さ、フリーWiFiって怖くね?」
「……」
おぉ、怖い怖い……血走った目で睨み付けやがって。
最初に吉野を使ったその日に直ぐにコイツからの接触があった……けれど能力も未知数だし、何よりも簡単に素性を晒すほど馬鹿ではないだろうと思っていた。
……実際に覆面はしてたし、多分ボイスチェンジャーも使ってた。服装も制服ではあったが、学年が分かるネクタイなどは外していたしな。
だからこそ、齋藤先生の遺品……修道士たちの悪魔が宿る魔血魂──見た目はただのネックレス──とやらを投げ付けた。
発信機や盗聴器が取り付けられているとも疑わず、見事に素直に受け取ってくれて笑いが止まらなかったよ。
「それで正体が判明したら後は簡単だよ、変装とかして物理的な警戒はまぁまぁだったけどこういった現代的な搦手には弱かったみたいだね」
フリーWiFiを使ってるところもお粗末だったが、まさか自分のスマホやパソコンにハメ撮りなんていうとんでもない弱みを保存してるとは流石に思わなかった。
正体が判明した敵を脅迫できる様なちょっとした弱みや、能力の情報とか……他の仲間の連絡先とかが出てくればなぁって、当たったら儲け物みたいな気持ちで漁ったら出てきたから思わず吹き出したよ。
「いやぁ、齋藤先生もお前も頭が緩くて助かったわぁ……
多分コイツらは一時的な隠れ蓑を用意したり、雨森たちの目を逸らす為の囮だったんだろうな……そういった点では見事に仕事を果たした訳だ。
「ほら、齋藤先生行方不明事件の重要参考人として自首しろよ……なんなら
「……っ!」
いやぁー、俺の殺人の罪まで被ってくれて助かったわぁ……コイツの場合は罪状が少し変わるけど、まぁ別にどうでも良いか。
とりあえずこれで晴れてコイツは
「素直に契約した悪魔の名前を教えてくれれば今ここで見逃してやらん事もないぞ? ん?」
「そんな事を出来る訳がないだろ?!」
「そりゃそうか……」
契約した悪魔の名前を、真名をバラすという事は重大な契約違反となり、自身が契約した悪魔に殺され、その魂は永劫の責め苦を受ける……さらには真名がバレてしまった悪魔は契約もしていない人間に絶対服従となってしまう。
要は敵の戦力が一つこちら側に寝返る……らしい。
「お? やる気なの? 朝の学校という人目のある場所で騒ぎを起こすの?」
「……」
「もうすぐ警察も来るだろうしさぁ、ここを逃げても日本にいる限り追われ続けるんだから諦めたら?」
「……なら、この俺に恥をかかせたお前を道連れにしてからだ、この
……ま、そう来るよな。
「お前が? 俺を? ……笑わせるなよ、カップル揃ってコメディアンか」
「……死ね」
さぁて、どうやって攻略するかな〜っと。
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