第8話.対面
「……来たか」
階段を上がって来る足音と気配を感じてドアの方を振り返る。
齋藤先生を殺した、またはその死に関わっているであろう男子生徒……大して特徴の無い、何処にでも居るクラスカートスト最底辺の陰キャ野郎かと思ったんだがな。
よく目立ち、明らかに悪魔の気配を漂わせながらこの時期に転入して来たという雨森の方を注視してたらこれだ。
その男子生徒はその雨森と仲良さげに話している姿も目撃されているし、まんまとしてやられた訳だ。
「よぉ、お前が──」
「──ど↑う→もぉ↓〜、ピザ→新↑宿→店↑ですぅ↓〜」
「……は?」
いった何時用意したのか分からないが、ドミノ倒し的なピザ屋の制服を来た久遠が屋上へと続く唯一の扉を開いて出てくる。……いや学校の制服を着ろよ。
……あぁ、いや、あのピザを入れる黒い鞄の中に何か仕込んでいるのか?
「いや〜、お客さん! 旧校舎の屋上ってだけでも大変なのに覆面をしてるだなんて……まぁお客様の趣味に何かを言うつもりはないですがね? ブフォッ!!」
「……」
「いやいや、馬鹿にするつもりはないんですよ? えぇ、とても……その、本当にとてもよくお似合いで……ブフォッ!!」
「……」
こめかみに青筋がビキビキと音を立てているのが自分でもハッキリと分かるほどに目の前のふざけた男に対する怒りが湧き上がってくる。
万が一逃げられた時の為に、また勧誘が失敗した時の為に素性が知られない様にしていたが……もういい。コイツは殺す。
「死ね──」
「──先に商品をお受け取りくださぁ〜い」
仕込むにしても何故わざわざ目立つデカい鞄にしているのかは分からないが、今さらその様な攻撃で俺たち修道士を傷つけられるとでも思っているのか?
「そんな児戯の様な攻撃で──っ?!」
さっさと弾き返そうとした物を認識すると共に慌てて掴み取る……こ、
▼▼▼▼▼▼▼
「お? まさか本当に齋藤先生の遺品を大事に掴み取るとは……まさかお前ら生徒と教師の禁断の恋とかしちゃってた?」
「殺す」
いや〜、まさか本当に上手くハマるとは……齋藤先生を呼び出す時も他の先生に『さっきそこで男子生徒が齋藤先生を探してましたよ、何か重大な用事があるようで』なんて言伝を頼んだらあっさりだもんな〜、コイツらチョロイわw
やっぱり齋藤先生が生徒の誰かと密かに付き合ってるっていう噂も本当で、そしてその相手がコイツだったんだろうなぁ……今となってはもうどうでも良い噂だけど。
「いや、もっとこう……何かないの? ボキャブラリー少ないよ?」
「死ね」
「あ、そこ足下注意ね」
「黙れ」
あー、コイツもう脳みそが茹だってやがって人の話をまともに聞きやがらねぇな?
まぁ、いいか……失敗した時は失敗した時でその時考えとして、まずはあの首にカッターナイフを突き立ててやろう。
「──触れるな」
「ブッ?! ……痛てぇじゃねぇか」
あー、クソ……思いっ切り顔面強打したぞ? なに? なんなの? 見えない壁でもあるの?
……って、触れねぇじゃん。
「お前は誰の前に立っていると思う?」
「クソダサ覆面ボキャ貧マン」
「……お前は今神の使いの前に立っている」
あ、今一瞬だけ口元が引き攣って反応が遅れたな? ……分かりやすくて大変結構。
だがしかし、どうしたものか……見えない壁にぶつかったと思ったら手で触れる事もできない。
コチラのタイミングに合わせて出し入れできる能力だろうか? ……そんな悪魔いたっけな?
「貴様は俺の許しなくして触れる事すらできん」
「……あのさ、高校生にもなって貴様は〜とか、俺の許しなくして〜、とか……結構痛いですわよ?」
「……お前は本当に俺をおちょくるのが好きな様だなァ!」
何かしてくるな、ここは回避を──あん? 足が動かねぇ……いや、これは
……うーん、しょうがない。相手の能力は初見じゃあよく分からん様だし、ここは一時的に撤退しますかね。
……齋藤先生のは割と分かりやすくて良かったんだがなぁ。
「お前を今ここでなぶり殺しに──」
「──雨森ィィィイイ!!!!」
相手が手を翳して何かをする前に大声で頭のおかしい女の名前を叫ぶ。
「なぁ?!」
「な? 言ったろ?
その呼び声に間髪入れずして屋上の歪みが一気に真水へと変質し、大量の水と共に俺と奴は階下へと放り出される。
……まぁ、立っていた位置が大分離れていたし、落ちていく部屋とか場所は違うだろうけどな。
「きゃっ! 先輩の大胆!」
「きゃっ! 先輩の大胆! じゃねぇよ、なに俺にさも押し倒されちゃった、みたいな雰囲気を出してん──おいコラ、腕を離せ!」
せっかくすぐ下の階で待機し、俺の合図と共に緊急脱出を成功させ、さらには上から降って来る俺をちゃんとキャッチできた事を褒めてやろうと思ったのに……何でコイツは制服が微妙に肌蹴てて、俺に押し倒されちゃったみたいな感じを出してるの?
そしてなんで俺が退こうとすると必死になって俺の背中に回した腕で邪魔しようとするの?
こんな所で化け物とまぐわえってか? ……絶対に嫌だね!
「……っ!」
「先輩?」
意識してなかった痛みに思わず顔を顰めてしまう……それを受けて心配した雨森が腕を離してくれたので体勢を変え、その場で両足の確認をする。
「……凍傷になってるな」
あのクソダサ覆面ボキャ貧マンの悪魔の能力は氷とかか? それで俺の身動きを封じた?
……にしては見えない壁にぶつかった時には冷たいとは思わなかったし、足下を見た時も氷の様な物は見かけなかったな。
「……あ、それ私の能力……かも、です」
「……ほう? 詳しく言ってみたまえ雨森くん」
雨森の能力は有機物や無機物を問わずに真水に変える能力だと思ってたんだが……まだ他にもあったのかね? ん?
「え、えっと……ですね?」
「隠し事は良くないなぁ、良くない……キリキリ話したまえ」
「そ、そのぉ……先輩を傷付ける意図は無かったんですけどぉ……私の能力はただ真水に変えるだけじゃなくて、液状化も含まれるんですね?」
……ほう、雨森が言うにはただ真水に変える以外にも
……いや、普通に凄くね? 初見殺しでもあるし、普通に汎用性高すぎてマトモな対策を取るのも難しいぞ?
「……まぁ、つまりはあれか……俺の足下の床と同時に空気まで液体化してしまったと?」
「……えっと、はい……そうなります……そのぉ、私が能力を使った時は
「ふーん?」
雨森自身も想定外だったって訳か……まぁ、まさか自分の下まで来る為に邪魔になる物を真水に変えようとしたら俺の足が凍傷するとか分からないか。
修道士としてどうかと思わなくもないが、あくまでも自分の能力じゃなくて悪魔の能力だしな……こういう事もあるか。
「罰としてお前には好きでもない男と会話した貰う」
「っ?! ……ま、まさか先輩にNTR属性があったとは……!!」
「バカ野郎、俺とお前はまだ付き合ってもないし、ただ話すだけが寝取られになる訳ねぇだろ」
相変わらず新人類の話す言葉は理解が及ばん……もう少し手心を加えて欲しい。
「んふふ、そうですね! 〝まだ〟付き合ってないですもんね!」
「しまった、言葉尻を捉えられてしまった……」
コイツと話す時は言質を取られない様に気を付けないといけないというのに……改めて気合いを入れ直そう。
「とりあえずここを離れるぞ……奴がそのままこっちに来る可能性だってあるんだから」
とりあえずさっさと場所を移動しないとな……奴がここに来る他にも、旧校舎とはいえ屋上が丸々吹き飛んだ形になるんだからここに何時までも居座るのは少し面倒臭い。
「私から逃げ回っていた臆病者が、わざわざ来ますかね?」
「念の為だ、とりあえず初見は凌げたんだから対策を立てるぞ」
「きゃっ! 先輩ったらカッコイイ! 何の能力も無いのに勝つ気でいるだなんて頼もしい!」
「はいはい」
何だか段々とコイツの事が全肯定botに思えて来たな……さっさと垢BANされねぇかしら?
「……俺が下に落ちる時に邪魔、ね」
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