第7話.呼び出し


「なぁ吉野ー、お前昨日の放課後に齋藤先生と一緒だったって本当か?


「え、ち、違うし」


 あー、クソ眠ぃ……昨日は雨宮が夜遅くに俺が借りた部屋に侵入しようとして、それを阻止するのに忙しくて寝れなかったからなぁ……まだ早いっての。

 なにが『先輩には迷惑掛けません! 眠ってるうちに終わらせますから!』だよ……俺が起きてる時が良いわ。……とか言ったら押し倒されるので奴の前では言わんが​──こっちを見るな吉野。


「でもお前が最後に会ってたって、もっぱらの噂だぞ」


「え、あ、会ってないし」


 それに社会科の山田先生の授業ってクソ詰まらんのよな……俺の眠気に拍車を掛けて来てヤバいわ。んでもって次は数学というね……もうこれは『寝ろ』という神の啓示では……?

 ……あー、でも俺これから​──正確には二週間後に​──悪魔と契約するから無理だわー、神の啓示には従えないわー……俺は授業だけは真面目に受ける可もなく不可もなくな生徒として目立たずに過ごしているから仕方ない​──こっちを見るな吉野。


「お前ぜってぇ嘘吐いてるだろ、正直に話せよ」


「そ、それよりもさ! 昨日の〝名探偵アンジュ〟見たか? 凄かったよなぁ〜」


「うわっ、露骨な話題逸らし……」


 にしても休み時間になる度に雨森からLINE爆撃が来るの何とかならんかな……いや相手をしないと直接こっちに来そうだから仕方ないんだけど、チャイムと同時に『キンキンキキキンキンキキンコーン』って鳴るのなんとかならんか……?

 もうクラスの皆は無視してくれてるけど、教室を出ようとした山田とか二度見して来たからな……てか本当に話題が尽きないし、素直に凄いと思うわ​──こっちを見るな吉野。


「……お前さ、齋藤先生とマジで何かあったの?」


「だ、だから何も無いよ!」


 本当にどこからこんなに話題を調達してくるんだか……しかもコチラを飽きさせない会話(チャット?)術は賞賛に値するわ。……尽くすタイプというのは本当みたいだな、方向性が違う気もするが。

 なによりも、俺自身がそんなに迷惑だと思ってないのが凄いわ……いつの間にか普通に楽しんでるし、こういう細かい技術の無駄使いよ……お前、本当に俺で良いのか? ​──こっちを見るな吉野。


「本当かよ……何か怪しいよなぁ?」


「コイツ絶対に何か隠してるわ」


「だ、だから俺は何も知らないって! 本当に!」


 ……そろそろ吉野を助けてやるべきか否か……いやでも、もう次の授業が始まるし良いか? ……委員長がこっちをガン睨みしてるのが気になるけど。……ワタシハゼンリョウナコウコウセイヨー。

 というか吉野あいつマジで下手くそか! 最初の方でさっさと話題転換しろよ! 雨森のLINEを見習え! 俺の反応が悪いと見るや否や爆速で次のネタに移るぞ! ……そして多分俺が食い付いた話題とそれ以外でメモ取ってる。


「おーい、授業始まるぞー! ……あと吉野、お前は後で職員室に来い。齋藤先生の事で話があるそうだ」


「うぇえ?!」


 ……哀れ吉野、骨は拾ってやろう。


▼▼▼▼▼▼▼


「あー、疲れたー」


「ハハハ、吉野の奴マジで先公に連れて行かれてやんの!」


 吉野の恨みがましい視線をサクッと無視しながら帰り支度を済ませる……悪いな吉野、適当に誤魔化してくれや。……ちゃんと雨森を紹介してやるから勘弁な。

 ……まぁ雨森に相手して貰えるかどうから知らんけどな。そこは自分で頑張って欲しい。


 ​──カサッ


「……ん?」


 教科書などを詰めた鞄を背負って昇降口まで降り、さて帰ろうと下駄箱を開けた​ところで​​──手紙が落ちてくる。……まさか雨森じゃあないだろうし、雨森以外で俺なんかに告白する女子なんか居ないだろうから悪戯か何か……少なくともラブレターの類いじゃないだろう。

 ……このご時世、告白なんかもLINEで済むしな。だいたいの奴はクラスLINEから個人を登録してから呼び出すかそのまま告白するだろう……え? クラスのグループLINEに入れて貰えない奴はどうするのかって? ……そもそも対等な人間として認められてねぇんだ、青春に色彩を付けるのは諦めろ。


「……やっぱりか」


 案の定とでも言うべきか、手紙の内容はシンプルな呼び出し・・・・だな……これなら雨森からの怪文書ラブレターの方がまだ良かった​──良くないな。うん。

 ……さすがに雨森の怪文書ラブレターの方が良かったは言い過ぎだ。

 だがまぁ、それでも面倒臭い事には変わりないな……まさか〝裏切り者〟の方から接触してくるとは。


「にしても一人で屋上に来い、ねぇ……」


 どうするか……雨森は目立つからこっそり連れて行く事も出来ないし、時間指定までしてやがるから生徒達が部活や下校でほぼ校舎から居なくなる時間も狙えない……相手が初手から俺を殺しに来たら間に合わないが、時間差で来てもらうしかないか。

 とりあえずせっかくファーストコンタクトだし、慎重に……生きて帰るだけでも良いから面だけでも拝んでおこう。


「……お、もう一枚あったのか」


 さっさと裏切り者とやらの待つ屋上へと向かおうとしたところで手元からまだ読んでないであろ手紙の一部が落ちる……小さいな? もう少しわかり易い大きさ、もしくは本文と同じ大きさの紙を使えよな。


「あ〜、『吉野君の視線でバレバレだからw』……?」


 ……キレそう、あの野郎吉野やっぱダメだわ。


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