第6話.肩パァン!


 ​──パァン!


「……」


 さて、次の日も変わらず登校したは良いが……確かこの学校に〝裏切り者〟とやらが潜んでいるんだよな? 俺の契約する悪魔は二週間後だし、それまでに誰がそうなのか見極めておきたいな……。

 相も変わらず雨森は頭おかしいし、会話がちゃんと成立する時もあるにはあるが……アイツ自身、なぜか別に組織だとか、神や悪魔だとか……そういった事に関心が無いように見えるんだよな。……だから一応仕事はしてはいるが、〝裏切り者〟について雨森に聞いても分からないという。


 ​──パァン!


「……」


 しかも、だ……その〝裏切り者〟が潜んでいるという我が母校であるが、高校であるが故に組織の人間が違和感なく潜入するのは難しいものがある……唯一年齢的にねじ込めたのが雨森だと言うのだから、あの女ボスも苦労しているだろう。

 その点を考慮すると、俺の存在はタイミングも都合も何もかもが良かった訳だ……元々在校生だしな。


 ​──パァン!


「……」


 組織が把握している範囲の〝裏切り者〟の情報によると、どうやら俺と同学年らしい……自分的には教師や事務員辺りだと思ってたんだが、割と修道士の年齢は幅広いらしい……。

 まぁ社会人は放っておいても増えるが、学生の修道士なんてそれぞれ六年、三年、三年、四年の期間限定だしな……それも年齢に見合わない思慮深さなんかも必要になってくるらしいから、割と数自体は少ないらしいが。


 ​──パァン! ​──ガシッ!


「うおっ?!」


「……」


 いい加減にウザイので人気の少ない廊下で肩パァンをして来た、運も無ければ状況判断能力も無い哀れな四人目の襲撃者の腕を掴み、ズルズルと完全に人目のない裏まで連行していく。

 俺が反撃してくるとは思わなかったのか、相手は突然の事態に驚くばかりで抵抗の一つもろくにできていない。


「お、おい久遠! なにすんだよ!」


「それはこっちのセリフだ吉野……お前ら朝から人に肩パァンしやがって」


 せっかく何とか渋る雨森を一年の校舎に向かわせ、やっと一人になれたと言うのに……俺は元々一人で居る方が大好きな陰キャだぜ? 一人で過ごしている人を指して『寂しい奴』と嘲るウサギさんには分からないかな?


「は、放せ​──っ?!」


「良いか、吉野……俺の質問にだけ答えろ」


「……あ、あぁ」


 首の動脈に添えるようにボールペンを突き付け、奴の呼吸音が分かる程に顔を近付け脅す……が、コイツ本当に怯えてんのかイマイチ分かりづらいな。

 手足は震え、俺の突き付けるボールペンを注視するという動作を取ってはいるが……まさか本当に刺す訳はないだろうとでも高を括っていうるのか?


「なんで朝からお前らは俺に構う?」


「……昨日と今日とで可愛い後輩と一緒だったから……妬んで?」


「……雨森か」


 まぁあの容姿じゃあ目立つよな……それも俺みたいな、同級生にまったく興味を示さないぼっちと一緒だったら尚更だよな。……でもアイツ常に一緒に居たがるんだよなぁ……あんまり一緒に居ると、色々と行動しづらいんだが。


「なに気安く名前を呼んでんだよ! 雨森〝ちゃ〟、もしくは〝さん〟だろぉ?!」


「……」


「お前如き陰キャぼっち便所飯野郎があんな美少女と​──あっ、あっ、ごめんなさい……謝るからボールペンをグイグイしないでぇ……」


 ほーん? 雨森の奴、学年が違うのにシンパが居るぐらいには有名人なのか……そりゃ標的であろう裏切り者と同じ学校に通ってても仕留め切れねぇよなぁ……そんな目立つ奴に潜伏中の身の上で接触するはずが無いし、むしろ避けるだろう。

 ……そして、朝から色んな奴に肩パァンされるぐらいには俺も目立ってしまった……計画を練りなさなきゃ​​──いや待てよ?


「おい吉野、命が惜しければ俺の命令通りに動け」


「えぇ? なんでよ? てかお前そんなキャラだっ​──あっ、あっ、ごめんなさい……言うこと聞くからボールペンをグイグイしないでぇ……」


 まぁ有名人な雨森や、それの付属品として目立ってしまった俺ならまだしも? このパーフェクトモブ男である吉野を使うなら別だろう……偶にコイツと背景の見分けが付かんし。


「良いか、吉野? 今日のホームルーム辺りで養護教諭の齋藤先生が行方不明だと聞かされるだろう」


「……は? なに? 齋藤先生って行方不明なの? てかなんでお前がそれを知って​──あっ、あっ、ごめんなさい……余計な事は言わないからボールペンをグイグイしないでぇ……」


 ったく、コイツは……一々口答えをしないと気が済まないのか? 黙って言うことを聞いていれば何もされずに済むというのに……いや、それがモブ男たる所以か……悲しい奴め。


「……なんか貶されてる気がする」


「んんっ! ……とりあえずだ、その後で俺が「齋藤先生なら吉野と昨日の放課後に話していた」という噂を流すから、お前は全力で否定しつつその話題が出たら話を無理やり切り上げろ」


「……」


 怪訝な顔をする吉野には悪いが、お前にはスケープゴート……囮になって貰う。こんな人気のない場所で俺に肩パァンをしたばっかりに……運の無い奴。あまりの境遇に涙が出そう​──出ないな。


「そんでもって、放課後にお前に接触して来る奴が居たら真っ先に俺に知らせろ……良いな?」


「……はいはい、なんの意味があるのかは分からないけど……分かったよ」


「よし」


 悪いな吉野……もしもお前に接触して来る奴が居たら、そいつは悪魔使いの修道士だ……命の保証はできん。……ただまぁ『モブの命は安くない!』なんて、モブ人間愛護団体みたいな奴らに抗議されても困る……飴をやるか。


「くっそぉ、何回もボールペンをグイグイしやがってぇ……まだ首が痛てぇよ……」


「おい吉野」


「……今度はなんだよ」


 手を離した途端に自身の首を擦りながら恨みがましくコチラを睨みながらぶつくさと文句を垂れるモブ男……吉野に半ばイラッと来ながらも、万が一の離反を予防する為に我慢する。


「もしも成功したら​​──雨森を紹介してやる」


「​──この身の事は〝犬〟とお呼びください」


「よし犬! 行け!」


「わんっ!」


 先に噂を広める仕事が残っている為に、吉野を先にクラスへと帰すが​──


「……アイツ本当にあれで良いの?」


 ​──律儀に四つん這いで駆けて戻る奴を見て、珍しくドン引きする自分を自覚する。


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