第5話.歪な愛情
「話は以上だ。お前の悪魔召喚は二週間後になる」
「そんなに掛かるのか?」
細かい条件の擦り合わせ等を終え、正式に俺の組織入りが内定したが……肝心の悪魔契約が二週間も掛かるのか。やっぱり色々と準備とかが必要なのかね? 日本の様に物質的に豊かな大国で揃えられない物なんて、そうそう無いと思うが。
「諸々の準備と手続きが要るんだよ……ほぼ書類関係だがな」
「日本らしいな」
肩の力が抜けるような理由ではあったが仕方がない……ただの手続きであっても未だにFAXや物理的な印鑑を使用している日本だ。……悪魔召喚ともなればさらに面倒になるはずだ。
……だがこれで、一歩確実に目標へと近付いたのには変わりはない。……絶対に奴を殺す。
「……無理に話さなくとも良いが、君が私達の組織を利用する目的を教えてくれないか? 協力もし易くなるだろう」
話が終わった事だし、そろそろこの俺以外全員能力者であろうという居心地の悪い場所から退散するべく席を立ったところで、タバコの火を消しながらそんな事を聞かれる。
……まぁ確かに少しは情報を与えないと、利用するにも非効率か。
「両の掌に十字傷がある優男を見つけたら教えて欲しい」
「……………………良いだろう」
「……」
少し間があったが、まぁ良いか……建前上は協力してくれると言うんだ、乗っかってやろうじゃないか。……それに仮に裏切ったとしても、一度懐に入れたんだ……お前らの弱点という弱点を全て暴き、報復してやる。
「先輩、話は終わりました?」
「……あぁ」
「じゃあ私の部屋に行きましょ!」
「? なんでだよ?」
「? 元々私の家に遊びに来るのが目的でしたよね?」
「……………………あぁそうだったわ」
そうだそうだ、最初はコイツの武力と狂気に脅されて遊びに来たんだったわ……もうなんか既に全ての用事が終わった感じになったし、帰っちゃダメかな? ダメだよね、この子ったら俺の首元を掴んでるし逃がさないつもりだよ。
「もう先輩ってば、恥ずかしいからって……さ! 早く行きましょう!」
「ソダネー」
雨森に引き摺られるようにしてその場を離れ、ビクつくコックとガンを飛ばすチンピラの視線を全て無視しながら雨森の案内のもと、奴の部屋へと向かう。
……いざという時のために通った道を覚えるのはもちろんの事、他に脱出路は無いか観察するが……ほぼ一直線だな。左右にそれぞれメンバーの部屋と思われる扉があるだけだ。
「ささっ! どうぞ入ってください!」
「……お邪魔します」
……さて、と……まんまと敵地に孤立してしまった訳だがどうするか……以外にも雨森の部屋は〝普通の女子の部屋〟という感じで特に変わったところは無いが……どうするか。
あのカーテンや毛布は絞殺するのに使えそうだし、ペン立てにあるハサミやカッター、ボールペンなんかも充分凶器になるな。
……逃げるとしたら毛布なんかの布類を使って絞殺……それが無理なら被せて目隠しと一時的な拘束に使いつつ、カッター等の凶器の回収をしながら箪笥なんかを引き倒して距離を稼ぐか。
「それじゃあ先輩──」
なんて事を考えながら、雨森の声に警戒しつつ振り向き──床に敷かれていたカーペットが真水に変わり足を滑らせる。
「──子作りしましょうか♡」
……そのまま後ろからベッドの上に倒れる俺に覆い被さる様に腰の上に乗る奴が、そんな事を宣う。……いきなりだな、オイ。
▼▼▼▼▼▼▼
「やん♡」
先輩が激しく突き立てるカッターナイフを
本当に先輩は勢いよく出すんですから……それもいきなりなんて、ビックリしてしまいますよ?
「……」
「うふふ♡」
先輩の無言の
無言で、淡々と……
「ほらもう……ビショビショになってしまいましたよ?」
私の首が締まる前に、毛布を液状化させたせいで全身ビショビショです……頬に張り付いた髪を掻き上げながら、先輩に微笑みます。
……あぁ、それです……その目ですよ……その無感動で無温度な瞳で見下ろされると、凄くゾクゾクとしてしまいます。先輩カッコよすぎです。
「……なぁ」
「なんです?」
──ベッドから投げ出された足を持ち手に引っ掛け、床に落ちた鞄を蹴飛ばして後頭部を殴ろうとする先輩が素敵です。
「俺が契約する悪魔はどんな奴だと思う?」
「? 先輩は悪魔と契約できませんよ?」
──口調は世間話をするかの様なのに、私に対して大きな
……これはもはや、両想いではないでしょうか?
「……原則として悪魔と契約できない人間なんか居ないと聞いたが?」
「えぇそうですね、そもそも悪魔は人と契約し、魂を奪ったり堕落させたりが目的だったりしますからね」
「そうだろう? 未だに悪魔と契約出来なかった人間は居ないらしいし、大丈夫だと思うんだが……根拠はあるのか?」
──手元に武器が無くなった途端に素手で首を絞めてくる先輩を愛しています。
……首絞めだなんて、やはり先輩はサディストですね……物は兎も角、先輩自身を液状化させる訳にはいきませんし、積極的に弱点を狙ってくるところが流石です。
「……そうか、俺自身を人質として武器にすれば良かったのか」
「がぁっ……あ"ぁ"……ぐ、苦しっ♡」
凄いです先輩♡ ちゃんと動脈と、男性なら喉仏がある場所をを親指で抑えて……完全に私を
先輩の
「だ、って……先、輩? わ、私 ……って──嫉、妬深い……んです、よ?」
「──」
──先輩に強烈な想いをぶつけられて、先輩の手で
「……お前、本当に意味わかんねぇよな」
「ぐ、く"ふっ……かひゅ♡」
あぁ、もう少し……もう少しで先輩の手で
「けどまぁ……うん。気に入った」
「ゲボッ……ゴホッ…………先輩?」
あともう少しで
「お前の──首を締められてる顔に惚れた」
「……ふふ、酷い理由ですが嬉しいです♡」
「恋人になる事を認めた訳じゃないが……まぁそれ以上はお前の努力次第だな」
「やりました、既成事実まであと一歩ですね!」
なんということでしょう……先輩が私に惚れてくださいました……これほど嬉しい事があるでしょうか? 今なら憎き天に昇っても良いかも知れません。
「それで? 俺が悪魔契約できないと思える根拠は?」
「? ですから、私は嫉妬深いのでそんな事は認められないだけですよ?」
「……そうかい、お前はそんな奴だったよ」
「? ……??」
まだ私と婚姻契約してすらいないのに、他の方と契約してずっと一緒に居るだなんて……絶対に認められる訳ないじゃないですか。……何もおかしなところはありませんよね?
「それよりも……どうしますか? もっと首締めますか?」
あんなに素っ気なかった先輩が私を気に入ってくれた理由が『首を締められてる顔』ですからね……先ほどまでの首絞めの痕がくっきりと残ったそれを差し出します。
「……普通自分から積極的に締められにいくか?」
「? だって先輩──」
左手をベッドに寝ている先輩の胸に置き、右手で先輩の手を掴んで私の首に持っていきながら、先輩の問いに答えます。
「──私は尽くすタイプですよ?」
たまに愛ゆえに暴走しちゃいますけどね……?
「……お前の事、ますます好きになったわ」
「やん、嬉し♡」
ギラギラと光る先輩の瞳にゾクゾクとしながら、ゆっくりと締まる首の感覚に身体が熱くなります……できる事ならこのままゴールインしたいですね、先輩?
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