【KAC20204】動物園の種

五三六P・二四三・渡

第1話

 死んだおじいちゃんの遺品から知らない植物の種が出てくる。

 鼻を近づけて嗅いでみると、獣臭さがあった。おじいちゃんは動物園で働いていていて、よく職場に連れて行ってもらったりもした。だから動物園に咲いている花の種なのかなって思ったんだけど、お母さんに尋ねたら多分それは動物園の花なんだって。

 妹が育ててみたいと言ったが、お母さんは反対する。

「大変なのよ動物園を育てるのは」

 でも妹はあきらめきれなくて、ぐずりだした。それを見かねて私は耳打ちする。こっそりそだてよう、と。

 学校の裏山に種をまいた。

 毎日水をやって、肥料をくすねて、愛情を込める。

 初めにテナガザルのスペースが芽吹いた。

 妹は喜び、かわいがった。檻の中に入りだっこする。

 でも、そのあと友達の家に遊びに行った時、獣臭いとからかわれたのだという。次の日から妹は裏山には来なくなった。でも動物園を育てるのをやめるわけにはいかない。ライオンの檻が出来て、シマウマのスペースが築かれ、爬虫類コーナーが出来た。すぐに裏山の面積を越えて私には手に負えなくなる。

 泣きながらお母さんに助けを求める。

「わたしはやめようと言った」とか妹が言い出したので、思わずはたいてしまった。

 そのままけんかになりお母さんが止めに入る。

 お母さんは言う、ここまで来たらどうにもならないらしい。

 動物園の成長には限度があるので、まちよりおおきくなるということはないみたいだけど。

 街と同じ大きさに動物園が成長したころ、国が派遣した動物園の専門家がやってきて聞いた。

「管理するか、解放するか」

 なんでも管理するというのは大勢の人でこの動物園を保つということで、解放するというのは、檻を開けて、弱肉強食に任せるという話だった。

 後者だと人間も食べられてしまう可能性があるみたいなので、管理することになった。


 朝起きると、部屋にカバがいた。

 大きな顔で、不思議そうにドアを開けた私を見ている。

 おかーさん、部屋にカバがいるよーと呼んだら、じゃあ動物園の人呼んでどかしてもらっておくから、朝ごはん食べて、学校行ってきなさいと言われ、その通りにする。

 街の風景は私たちのせいですっかり変わってしまった。

 商店街のアーケードの上から、猿山が生えており甲高い声が響き渡っている。

 近道のために夜行性動物の建物を通る。ガラス越しに蝙蝠がこちらを見ていた。川の一部が鉄格子で区切られて、鰐が顔をのぞかせていた。

 裏山を見ると、長方形の鉄格子が四角錘の形に積み重なり、まるでピラミッドみたいになっていた。ブロック一つ一つに、様々な動物が入れられていた。

 学校に到着する。

 校舎の半分が動物園に浸食されており、隣のクラスは半分がゴリラの檻で声がここまで聞こえてきて授業に集中しずらい。

 そのせいで私は罪悪感を感じてるんだけど友達は「いいっていいって、結構楽しいし」って慰めてくれる。

 街が動物園化してよかったことと言えば、雇用が生まれた事だろうか。

 同じクラスのあいちゃんのお兄さんは就職難で仕事探しに苦労していたが、動物園で働くことになったようだった。

「わたし、責任取って将来動物園の園長になる。お姉ちゃんは好きなものになって」

 街中が獣臭くなったので、もうクラスの皆からは何も言われなくなった妹がテナガザルを抱きかかえながら言った。

 こんなことをしでかした私が言うのもなんだけど、やっぱり自分も責任取って動物園の管理しなくちゃならないのかなって思ってたんだけど、本当は美容師になりたかった。だから妹が園長になると言いだしたときは、ちょっとほっとした。

「いや、やっぱりわたしは動物園の要石になる。人柱として動物園の守護霊となり、この世界を動物園で埋め尽くす」

 妹がすごいことを言い出した。言葉の意味を分かっていて使っているんだろうか。

 呆れていると

「お姉ちゃんごめんね。育てるの途中で辞めて」

 とまっすぐ謝ってきたので、私は照れ臭くなって、いいよべつに、と言いながら顔をそらしてしまった。

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【KAC20204】動物園の種 五三六P・二四三・渡 @doubutugawa

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