魔法②



 勇者になったからと言って、シンの体には特に変化はなかった。


 だから魔法が使えるようになったという実感も、全身を駆け巡る全能感もない。


 漠然と、自分は特別らしいという認識をしていただけだった。


 考え事をしているせいで、食が進まない。


「勇者様。どうかなさいましたか?」


 側に控えていた使用人がシンの様子に気付いたらしく、シンに声をかけてきた。


「なんでもありませんよ。ただ、あまりお腹が空いていないだけなので」


 シンはできるだけ柔らかい笑顔をして返事をする。


 教会に引き取られてから、カナリア以外から一度も名前で呼ばれたことがない。


 自分をなんだと思っているのか。


 シンはそんなことを思う。


 歴代の勇者がもしこの状況を嬉しいと感じていたのならば、シンにはそれが到底理解できそうにない。


 人である前に勇者。


 そんなことがあってたまるものかと、そう思うと、一気に食欲が失せてきた。


「すみません。今日はここまでにします」


 シンは遠慮がちにそう言って席を後にしようとする。


「料理がお口に合いませんでしたか?」

「いえ。体の調子があまり良くないので、部屋に戻って休もうと思いまして」


 適当な嘘をつく。


 目の前の食を放り出すだなんて考えられなかったことだ。


 それそやろうと思うあたり、やはりシン自信がこの生活に慣れてきているのだろうか。


 部屋までも、別の使用人が付いてくる。


 一人になる時間がない。


 シンは部屋について、ようやく一人になる。


「魔法。使えるのかな……」


 例の如くベッドの寝転んだシンは、天井に手をかざしながら、そんなことを呟いた。


 シンは生まれてこの方、魔力というものを感じたことがない。


 そもそも魔法というものがなにか、いまいちよくわかっていない。


 使えなかったとき、マリンにどんな顔をされるのか。

 想像しただけで、シンは行く気が失せた。


 ある程度は感覚を掴んでおかなければ。


 シンはそう思い立つと、ベッドから起き上がるが、訓練場の存在も何も知らないことを思い出し、唖然とした。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



昨日は休んでしまいすみませんでした。

作者が今週忙しいので……

気合で乗り切ります!


次回はついに魔法ですよ!

なんか異世界物感がようやく出てきました。


応援コメントありがとうございます。


よかったら応援コメントや星をお願いします。


これからもよろしくお願いします。


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