賢者③
「使用人さん方も、なんで私だけ呼ばなかったんですか! こうなることぐらいわかっていたはずでしょう?」
カナリアが声を荒げた。
「あら、カナリアじゃない。あなたからもコイツになんか言ってやってよ」
マリンはカナリアと面識があるのか、気軽に話しかけている。
「大丈夫ですかシンさん?」
そんなマリンにお構いなく、カナリアはシンの側へと駆け寄った。
「ちょっと、どういうことよ! カナリアはコイツに弱みでも握られてんの?」
「いいえ。そんな事実はありません。マリンさんこそ、シンさんをこんなふうにするなんて何を考えているんですか?」
マリンが全くわからないといった表情をする。
マリンとカナリアは、幼馴染といっても差し支えない仲だった。
幼少期から特別な訓練をともに受けてきて、教会に呼ばれることも多かったため、よく会っていた。
「確かに、マリンさんの様な考え方をする方は受け入れ難いかもしれませんが、シンさんは勇者ですよ? それも一昨日なったばかりの。そんな方にどうこう言ったとしても何も変わりませんよ。別に驕り高ぶっているわけでもないのに」
カナリアの見透かしたような発言にマリンがたじろぐ。
「勇者だからってこの先偉そうにしない理由にはならないでしょ? もう、何なのよ!」
マリンももう分けがわからないといった様子である。
シンは依然として黙ったままである。
シンにはカナリアとマリンが知り合いであることも知らなかったし、マリンが自分になぜこんなことを言っているのかもわからなかった。
「ああ」
カナリアの登場によって気が抜けたシンはその場に崩れ落ちる。
心臓の音は徐々に元通りになっていき、思考もクリアになってきた。
「とにかく、マリンさんはシンさんに謝ってください。全てはそれからです」
カナリアに強く言われ、マリンは迷っているようだった。
「いくらカナリアの頼みだといえど、私は突然人が強くなるなんてことは認めないから」
マリンのそっけない回答に、カナリアは思わず眉をひそめてしまう。
「でも、確かにコイツは何も悪いことはしてないわね。仕方ないけど、許してあげる。シンって言ったっけ? カナリアに感謝しなさい。それがなければ、アンタは今頃灰になってたわよ」
「っ……」
マリンがなぜこうも拘るのかはシンにはよくわからないが、許してもらえたことはわかった。
「それに、まだ戦闘訓練もしてないんだから、なにもできないですよ。シンさんはこれから強くなるんです。流石に神託だけでは技術まで身につけられませんよ」
マリンを宥めるかのように、カナリアは聖女らしからぬ言葉を発した。
「なるほどね。だから私がここに呼ばれたわけね。弟子もとったことのない私が」
しかし、マリンは依然として卑屈なままである。
「ぼ、僕に…僕に魔法を教えて下さい!」
シンはもう分けもわからないまま叫ぶかのように言った。
突拍子もない発言にカナリアも含めて、皆が硬直している。
そして誰もが、マリンの回答に注目した。
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星、応援コメントありがとうございます。
すみません。一日空いてしまいました。
別作の準備をしておりまして…。近々公開しますのでお楽しみに(短編です)
もう少ししたらようやく戦闘シーンです。お待たせしました。
よかったら応援コメントや星をお願いします。
これからもよろしくお願いします。
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