賢者②
言い返す間もなく繰り出される罵倒。
シンは何がなんだかわからなかった。
「私は、アンタみたいになんの努力もしないで強くなって偉そうにしてるやつが嫌いなのよ」
マリンがゴミを見るような目でシンを見てきた。
使用人達はこの世の終わりのような顔をしている。
「何も言い返さないの? アンタ本当に勇者なの?」
マリンがシンの顔を覗き込む。
「っ!?」
シンは歯を食いしばった。
「なんなんだよ! さっきから。僕のことなんて何もわかっちゃいないくせに。僕が何したっていうんだよ!」
シンにしては珍しく声を荒げる。
自分でもまだ整理が付いていないことに対して突然罵倒される。
意味がわからなかった。
ただ、なりなくてなったわけではないなんて口が避けても言えない。
教会関係者が多いにも関わらずそれを言うことがまずいことだということはシンにもわかった。
「アンタが何をしたって? 勇者になったのよ。私はそれが気に食わないの。なんの訓練もしていない一般人がある日突然最強になりましたなんていう都合のいい現実があるわけないじゃない」
シンは勇者になったことを責められているらしかった。
いよいよただの理不尽である。
シンは何を言い返せばいいのか全くわからなかった。
まさかこんな事を言われるだなんて思ってもいなかった。
「ありえてるじゃないか。現に僕が勇者に選ばれているじゃないか! そんなのただの現実逃避だろ!」
自分でも何を言っているのかよくわからなかった。
現実逃避。
できるものならシンも今すぐにしてしまいたい。
「じゃあ証明して見せてよ。もし、アンタが私よりも強かったらアンタに付いて行ってあげるわ」
マリンがどこから取り出したのか、杖をシンに突きつけた。
「いいじゃないか」
シンは内心戦々恐々としながらも、精一杯の見栄を張った。
今腰に差しているのは装飾用の剣である。
戦えるわけもなかった。
それでも、シンにだって今回ばかりは譲れないものがあった。
あれだけ馬鹿にされて、普段にはないはずのプライドがシンを突き動かしていた。
「へぇ〜。私なんて装飾用の剣で十分だっていうの? 賢者も舐められたものね。人の力量もわからないだなんてやっぱりただの素人じゃない」
お互いの緊張が高まっていく。
もうこの部屋で戦い始めそうな空気感になる。
シンは不安で前がよく見えない。
心臓の音がいつもより大きく聞こえる。
でもここで倒れてしまったらまたマリンに馬鹿にされてしまう。
みんなが思う勇者。
強くて、勇敢で、格好いい。
そうあらなければならない。
シンの思考がそれで埋め尽くされていく。
みんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃみんなが思う勇者にならなくちゃ。
シンが剣を抜こうとしたその時―――
「何をやっているんですか!」
カナリアが勢いよく部屋に入ってきた。
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ようやく書きたいところの一つを書けました。
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これからもよろしくお願いします。
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