謁見




 あれから一日が経ち、シンは今謁見の扉の前に立っていた。


 当然ガチガチに緊張している。


 昨日、カナリアに別れ際、あまり緊張する必要はないと言われたが、シンはそこまで図太くない。


「勇者シン。参上されたり」


 門番がそう言って扉を開けた。


 宝石をふんだんに使った豪華な装飾。


 壁から床まで、全てが大理石でできている。


 両脇には高位の神官が並んでいる。

 その中にはトリスもいた。


 太陽の光が集まっている謁見の間に入ったシンは一瞬目を眩ませる。


 予め言われていたとおりの場所まで進み、シンは法皇に跪く。


「只今参りました。今代勇者シンにございます」


 用意されたセリフ。


「面をあげよ」


 法皇がゆっくりと且つ重々しく言った。


「今ここに、今代勇者が汝であることを女神セフィロスの名のもとに認めるとともに、汝にアズベルの姓を与える」


 シンには貴族のような姓がない。


 しかし、それでは示しがつかないため、法皇直々にシンに姓を与えたのだ。


「高悦至極でございます。今から私はシン・アズベルとして、女神セフィロトのため、人類のために魔王討伐を全身全霊で行うことを誓います」


 思ってもいない。


 戦うのも好きではない。


 まだろくに戦えもしない。


 それでも言うしかなかった。


 そのあと、諸々の手続きと終え、シンは謁見の間を後にした。


「ああ。言ってしまった。僕にできるのかな」


 自室のベッドに倒れ込み、シンはぽつりと呟いた。


 旅をしながら身につけるという戦う術。


 うまくできるのか。


 出来が悪ければ捨てられてしまうのではないかという不安。


 挙げればきりがなかった。


 勇者としての自覚が芽生えるのと同時になぜ自分なのか? という疑問も尽きなかった。


 逃げてはいけない。


 そんな強迫観念に似たなにかもシンの中に育っていた。


「入っていいですか?」


 部屋がノックされる。

 カナリアの声だ。


「どうぞ」


 シンは慌てて飛び起きた。


「昨日のことは忘れてほしいな…なんて」

「ああ、そのことですか」


 何を言い出すかと思えばそんなことかと、シンは思ってしまう。


「そのことじゃないです。私にとっては重要なことなので。聖女って言うのはですね、人の模範であらなければいけないんですよ」


 カナリアがややムキになっていう。


「どうでもいいとは思ってませんよ」


 シンのセリフに、カナリアは面食らった表情をしてしまうが、俯いたままのシンには見えなかった。


 カナリアはてっきりシンに脅されると思っていた。


 昨日は久しぶりの同年代との会話で取り乱してしまった。 


 そんな自分を見たら、なにか勘違いを起こして、自分に迫ってくるのではないかという被害妄想のようなものを抱いていたからだ。


「カナリアさんはどうやってそんなに割り切っているんですか?」

「? なんのことですか?」


 シンの脈絡のない発言にカナリアは首をかしげた。




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