パーティー⑤





 パーティーが始まった。

 ある者は仕事で、またある者は楽しむために。 

 それぞれの目的でパーティーに参加している。


「法皇陛下。お初にお目にかかります」


 シンは真っ先に法皇へ挨拶に行く。


 深々と頭を下げて、執事に言われた通りの言葉を口にする。


 形式だけの関係。


 明日の謁見もある。


 大した会話もしない。


 お互い挨拶をして終わり。


 そう思っていた。


「そう固くならずとも良い。まだ若かろうに。戸惑うことも多いであろう」


 法皇はシンに優しく微笑む。


「して、名をなんという?」

「シンといいます。恥ずかしながら姓はありません」


 法皇に一番されたく無かった質問。


 勇者や英雄は貴族出ないといけないといったような空気がある。


 そんな中選ばられてしまったことを知られたら、いくら法皇といえど何もしないわけにはいかないだろう。


「セフィロの名の前には皆平等。そんな謳い文句があるが、そんなものは嘘だ」 


 突然、法皇の口から思いもしない言葉が飛び出した。


 法皇自らがセフィロ教の理念を否定する。

 それも公共の場で。


 周囲に控えていた使徒が動揺する。


 反対に、シンはほれみろといった感じだった。


「しかし、そんなくだらないものはもう終わりだ。私の代で終わりにしようと思っていたのだよ。その風穴が君なったというわけだ。法皇の名のもとに、セフィロ教は勇者シンを歓迎する」


 シンは大きく目を見開いた。


 建前かもしれない。


 そんな考えはシンには無かった。


 只々純粋に信じていた。


「おっと、長く話しすぎてしまったようじゃな。明日の謁見でまた会えることを楽しみにしておる」


 今度は誤魔化すように笑って、法皇は何処かへ行ってしまった。


 あれがトップ。


 包容力というか、この世の全てを許してしまうような、そんな雰囲気を漂わせていた。


(次は聖女様のいるところか…)


 シンは少し肩の荷が軽くなった気がした。


 生まれて初めて自分が認められたような気がして、勇者も捨てたものでもないと思う。


 カナリアは貴族の男子女子に囲まれていた。


「今日こそプロポーズさ」

「なんと美しいのでしょうか? 」

 

 口々になにか言っている。


「あ、あの、離れていただけますか? 」


 カナリアか申し訳なさそうに口にする。


「ご機嫌いかがでしょうか聖女様」


 シンはまたもや用意されたセリフを吐いた。


 イメージするのは紳士的な男性。


「おい、勇者様だぞ? 」

「お似合いですわ」


 声を抑えているようだが、聞こえていた。


(なんであんなに平然としていられるの? )


「……。お気遣いありがとうございます」


 カナリアが柔らかな笑みを浮かべた。


「勇者様こそ、この度はおめでとうございます」


 カナリアの笑みで数名の男子が死んでいた。


 話すことが見つからない。


 かと言って別れてしまったら気不味い。


 シンがどうしようもなく迷っていると、


「一緒に何か食べませんか? 」


 カナリアが誘ってくる。


(どうしてあんなに余裕なんだろう)


「ぜひ」


 シンはトレーを手に取った。


 二人で人混みを掻き分けてパーティーの間ずっと二人で話していた。


      

    ◇         ◇



「今日はありがとうございました」


 執事にお礼を言って、シンは部屋に入る。


「あぁ」


 ベッドに倒れ込み、ぼんやりと天井の魔法灯の明かりを眺めた。


 パーティーは疲れるけれど、悪い気持ちはしなかった。


 自分が受容されている。


 そう思うと、嬉しさがこみ上げてくる。 


 今までで一番満たされた日だったかもしれない。


 シンはベッドから立ち上がると、シャワーと呼ばれる魔法具の前に立ち、体を流した。


 上から温かい水が出てくる。


 この生活にも少しづつ慣れてきた。


 勇者らしくなれているだろうか。


 この気持ちを失わないように、みんなの望む勇者になりたい。


 シンは心底そう思った。 


 明日からは訓練が始まる。


 それも今なら頑張ろうと思う。


 守りたいものなんてない。


 でも、自分の居場所は守りたい。


 それがシンの勇者への道の第一歩だった。



     ◇         ◇



「カナリア様、のぼせてしまいますよ? 」


 シンとは違い、湯船に浸かっているカナリアは、かれこれ一時間経つ頃だった。


「ネイ。私はもう少しこうしていた」

「駄目です」


 風呂のドアが開くと、ネイがズカズカと入って行き、カナリアを湯船から強引に出した。


「何するのよ。私今日も頑張った」


 カナリアが一転してタダをこね始める。


「そんなことしても無駄ですから」


 ネイはばさりと切り落として、カナリアに服を着せる。


「今日のパーティー、終始ソワソワしてましたけど何かあったんですか? 」


 ネイが何気なく聞いてきた。


「え!? なんでもないよ。お、おお、お菓子食べたいなーって思ってただけだから」


 ネイの目が怪しく光る。


「今日のところはこれで勘弁してあげましょう」

「そうそう。何もなかったんだから―――って、今日ところは? 」


 カナリアが腑に落ちないような顔をする。


 ネイはカナリアをからかうように笑った。


「もう何よ。あなたもからかって、あ!? 」


 カナリアが言葉の途中で口を塞ぐ。


「これだけは言っておきます。貴女は聖女なんですからね」


 ネイはそう言うと部屋を出ていってしまった。


 と同時に、カナリアはベットに顔を埋める。


 自分はちょろい女じゃない。


 そんなことを考えている間に、カナリアは眠りについた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


本作二回目の2000字。

パーティー編完結です。



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これからもよろしくお願いします。 



 

 




 





 

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