パーティー②




「はじめまして。私、カナリア」


 シンが隣に立つと、カナリアは少し恥ずかしげに笑った。


「は…はじめまして。シンって言います」


 シンがこうして自己紹介をしたのも久しぶりだ。


 そんな機会もない、屋敷に閉じこまった生活。


 あれが終わったんだと、シンは改めて実感する。


「さっきの話を聞いてたら、私の名前わかってたかな。私、初めてあった人と話すの久しぶりだから緊張しちゃって。何話したらいいかわからなくて。なんかごめんなさい」


 先程の会話から打って変わって恥ずかしげに話すカナリアの様子にシンは驚きを隠せなかった。

 シンもシンで何を話したらいいかわからない。


 てっきり自分なんかより遥かに大人びている印象を受けていた。

 

 

「僕も何を話していいのか…」


 シンはカナリアがなぜ自分を呼んだのかわからないと考える始末である。


「あっ。そうでした。シンさんは今夜のパーティーには参加するんですか? 」

「えっと…、そうですね参加します」


 肩をビクッとさせてシンは答えた。


「僕、パーティーとか初めてなんですよね」


 気がついたら自分の心のうちを話してしまう。


「そうなんですか。私も実は久しぶりに出るんですよ。勇者様の到着を祝うパーティーだそうですよ」


 シンは自分が勇者ですだなんてとてもではないが口にできなかった。


 話してしまえば、彼女はきっとかしこまってしまうから。

 シンはある意味で人と初めて話しているようだった。


 この時間を壊したくない。


 シンはそう思えば思うほど、話し辛くなっていった。


「どうかしたんですか? 」


 カナリアがうつむいていたシンの顔を覗き込む。


 シンはまたピクリと体を震わせてしまった。


「だ、大丈夫ですよ。カナリアさんが楽しそうに話すから、僕もなにか言わなきゃなって思ってただけですから」


 苦し紛れの言い訳をする。

 でもカナリアは


「あっ、私舞い上がってしまって……」


 と、頬を赤らめて恥ずかしそうにするだけだった。


「カナリアさんはどこから来たんですか? 」

 

 シンは気まずい雰囲気にするまいと、話を振った。


「えっ、私ですか? 私はもともと各地を回っていたので、どこから来たとかそいうのはないです。シンさんはどちらから? 」


 カナリアからの切り返しに、シンは言葉をつまらせる。


「……シヴィル侯爵領の方から来ました」

「あのあたりって、お菓子! 特に人形クッキーが有名ですよね! 」


 カナリアの食いつきようにシンは困った顔をした。

 どうやらお菓子が好きらしい。


 そもそもシンは、屋敷にいただけで、侯爵領のことなど何も知らないのだが。


「そうなんですか。出身地というだけで何も知らないんですよ」


 シンは困ったように笑う。


「え!? 知らないなんてもったいない。一度は―――って、また一人で舞い上がってしまってすみません。これじゃ私、情緒不安定な女みたいじゃないですか。違いますからね! シンさん」


 カナリアの変わりようにシンはクスリと笑った。

 この会話でシンが初めて心のうちから出した笑みだった。


「もー。笑わないでくださいよ。余計に恥ずかしいじゃないですか」


 カナリアは風船のように頬をふくらませる。


「そろそろ時間じゃないですか? 」


 カナリアの顔を見ているうちに落ち着きを取り戻したシンは、ふと気付いたことを言う。


 夜5時を知らせる鐘が鳴った。


「もう、からかわないでくださいね。私はもう行きますから。またお会いしましょう」


 シンはカナリアをからかっていないが、カナリアはそう感じたらしい。

 

 シンは笑って、彼女の背中を見つめる。


 友達のような気がしたけれど、きっとそうではない。


 シンは勝手な妄想を振り払おうと、自分の部屋へと戻った。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 遅れました。

こんなことなら時間指定なんてするんじゃなかったな。


カナリアとシンの会話を書いてみましたがうまく行かず……


よかったら応援コメントや星をお願いします。


これからもよろしくお願いします。

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