聖都
馬車に揺られて二日。
あの翌日、エギルは何かあったのか、シンの前に姿現さなかった。
その代わりにジキルが代理として来たが、ビヨルドに気づかれないタイミングでシンの事を終始憎々しげに睨みつけていた。
今はシンの前方には大きな城壁に囲まれた都市がある。
領都出て、初めて見たときからそうだったが、いわゆる主要都市は何処も要塞のような見た目をしているらしい。
「勇者様。あれが聖都ですよ。セフィロ教会の聖地であり、総本山です」
シンの横にいるトリスという青年は、この三日間で都市やセフィロ教会、勇者について等シンに教えてくれた。
聖都は領都よりも規模が大きく、出入りをするのにも検査などが必要で、門まで馬車や人が列をなしている。
勇者も例外ではなく、審査待ちをしていた。
どの国にも属していないこの聖都は女神イブが降り立った地として、大陸中から観光客が毎年押し寄せる。
ジキルも行っていたはずだ。
(勇者。僕は勇者)
自分に暗示をかけるかのように、シンはひたすら心の中で唱え続けた。
実感のわかない漠然とした事実を、この聖都を前にして改めて突きつけられた。
こんな大層なところに来るのも初めてで、戸惑うことばかり。
「具合が悪いのですか? 」
考え込んでいるうちに、シンは思いつめた顔をしていた。
「いいえ、そんなことはないです。ちょっと空気感に気圧されていただけというか」
軽く笑ってシンは誤魔化す。
シン自身にとって勇者である自分は他人。どこかふわふわしたものだった。
そんな状態で聖都入りすることに対しての焦りや不安がシンの心を支配していた。
「勇者様、ここが聖都ですよ」
トリスが誇らしげに言う。
シンがいた領都とは比べ物にならないほどの活気。
多種多様な人種。
露店の数。
そのすべてがシンにとって新鮮だった。
「これが聖都……! 」
トリスに聞かされた知識だけだったものが一気に現実になっていく。
条坊制と呼ばれる方式で都内の道はすべて整備されている。
門から正面に見えるのがセフィロ教の本部。
通称セフィロスの木。
木のような形状をした世界最古の建物だと言われている。
教会専用の馬車と言うこともあり、人々は道の真ん中を走る馬車に道を開け、不思議そうな目で中を見ようとしていた。
勇者誕生はまだ一般には知られていない。
教会からの発表で初めて知らされるものである。
「勇者様、しばしお待ちください」
トリスが断って馬車を降りた。
「第12使徒のトリスです。勇者様をお連れしました」
門前にいる聖騎士にトリスが報告をしている。
「ようやくか」
「ご苦労さまでございます」
騎士たちはそれぞれ反応し、城壁を開けた。
これが、後世まで語り継がれる魔族との戦争を根絶させた勇者の話の始まりである。
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更新遅れてすみません。
お待たせしました。
明日より22:00更新となります。
(ストックがすぐにそこをついてしまうので………)
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