授けられた神託②



 遠くに行きたいと思ったところでできるわけでもなく、シンはジキルの後ろについていく。


「あれが侯爵様のご子息」

「ジキル様って言うんですって」

「なんて整った顔をしてらっしゃるのでしょうか」

「そんなこと言ったってあんたじゃ釣り合わないわよ」


 周りの子供達はジキルについての話で持ちきりである。 

 ジキルはそれを聞いても鼻を伸ばすことなく、教会の扉へと足を進めていく。


「隣にいる奴は誰だ?」

「見たことないぞ」

「従者にしては偉そうね」

「隣にいるなんて烏滸がましい」


 シン自身も子どもたちの間で話題になった。

 もちろんシンの耳にも届いている。


 ジキルは教会の扉へと続く階段の前で止まると、道を開けて待つ。

 それを真似して、他の子どもたちも似たような姿勢になった。


 子どもたちの親がどこか緊張しているのが伝わってくる。

 我が子が授かる職業が気になるのか、子供よりも落ち着かない様子の親もいる。


 お喋りも止み、厳粛な雰囲気になったとき、教会の重い扉が開かれた。


「皆様、本日はようこそいらっしゃいました。本日は皆様にとって一生に一度の特別な日です。このような大切な日に立ち会えて、私ビヨルド・アルトハイトは嬉しく思います。どうか皆様に主から素敵な御加護があらんことを」


 両脇に騎士を従えた老年の男が挨拶をした。


 金色の刺繍が入っている白い修道服は神聖さを放っていた。


 セフィロ教の前では、平民も貴族も皆平等であるといわれている。

 だから、教会では身分関係なく治療を行っているし、神託も授けられる。


 教会の中に入るとそこは別世界だった。

 すべての窓はステンドグラスでできており、やはり壁は白い。黒い長椅子が規則正しく並び、シンたちは中央の通路を歩いていた。


 奥にある女神像の前には、翡翠色のオーブが置かれている。


「それでは一人ひとり、このオーブに手をかざしてください。そうすれば女神様からの祝福があるでしょう」


 ビヨルドがそう言うと、ジキルが最初に前に進み出た。


「女神よ、私に祝福を与え給え」


 ジキルがそう言ってオーブに手をかざすと、オーブが強く発光した。


『大商人』


 空中に半透明の文字が浮かび上がった。


「大商人か」

「大当たりじゃないか」

「流石はジキル様だな」


 教会内にいる大人子供がそれぞれ感想を囁いている。


「僕にかかればこんなものさ。僕は君のような人間とは違うのさ」


 シンたちがいる場所まで戻ってきたジキルは、シンにそう囁いた。


 大商人は通常の商人とは違い、勘だけで動いても商売が成功するという何十年に一度出るか出ないかのレアな職業である。


「お、おめでとうございますジキル様」


 シンは拙いながらにもジキルに跪き、祝福の言葉を述べた。


 周りでは誰がどんな職業を受けたかを話す声が止まなかった。

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